競馬記者が見た『ザ・ロイヤルファミリー』(1)本物の馬主と話しているような武豊騎手の演技に瞠目!

「ザ・ロイヤルファミリー」に出演し、馬主の椎名善弘(沢村一樹)らと話す武豊騎手。左は椎名オーナーのレーシングマネジャー(吉沢悠)©TBSスパークル/TBS

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俳優、妻夫木聡が主演を務めるTBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(日曜後9・0)の放送が12日、スタートした。競馬の世界を舞台に夢を追い続けた熱き人間と競走馬の20年にわたる壮大なストーリー。山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞をダブル受賞した、作家・早見和真氏による同名小説が原作のドラマをキャリア30年超の競馬記者が毎週の放送に合わせてレビューする。

※以下、『ザ・ロイヤルファミリー』のネタバレが含まれます。

「読んでから見るか、見てから読むか」。50年ほど前、そんな映画のキャッチコピーがあった。小説が映画化やドラマ化されると、筆者は断然、読んでから見る派だ。最近では映画の「国宝」と「遠い山なみの光」も原作を読んでから観賞した。

「ザ・ロイヤルファミリー」は2020年に読んだが、さすがに詳細までは覚えていないのでドラマのスタートを前に読み返した。初回を見て思ったのは「原作以上にドラマチックな展開になっている」だった。

主人公の栗須栄治(妻夫木聡)と、馬主・山王耕造(佐藤浩市)との出会いが、原作の新宿の天ぷら店ではなく競走馬のセール会場にしたことで、山王耕造が上場された1頭の子馬をめぐってライバル馬主である椎名善弘(沢村一樹)と激しく競り合うシーンを視聴者はのっけから見ることになる。まさに牧歌的な牧場風景を織り込みながら白熱した競り合いを見せることによって、競走馬産業の一端を見事に伝えていた。

山王耕造は人材派遣会社、ロイヤルヒューマンの社長。ドラマでは、社内での妻・京子(黒木瞳)や息子・優太郎(小泉孝太郎)との対立(息子は妻派)を浮き彫りにし、息子の優太郎は耕造が推し進める赤字続きの競馬事業部の撤廃をもくろんでいた。優太郎は競馬事業部の調査を税理士の栗須に依頼。それをきっかけに栗須は山王耕造から「俺のところに来ないか」と誘われることになるのだが、小説では栗須が秘書になるための手段として使われていた(会話の中だけであっさり終わった)社員の不正を最初の盛り上がりに利用したことで、小説よりもドラマチックなものとなった。

「遅い! どれだけ待たせるつもりだ」「時は金なりっていう言葉があるだろうが。時間は金で買えるんだ。これからは呼ばれたらタクシーで来い」「お前に一つだけ伝えておく。絶対に俺を裏切るな。親父が死んで立ち直れなくなるような若い人間、俺は嫌いじゃないからよ」

小説(新潮文庫)ではわずか6ページの中に収まっている、これら山王耕造の言葉をドラマの初回では冒頭近くとラストのクライマックスに置くことで感動ドラマに仕立て上げていた。

それにしても北海道の牧場風景のなんと美しいことか。見るだけで心が和む。北海道の有名土産として知られる六花亭の紙袋も出てくる。

JRAが全面協力しているとあって、競馬場のシーンは実にリアルだ(トラキアンコードなど実在の誘導馬も登場する)。現役ジョッキーの出演でリアリティーが増したのは言うまでもない。特に椎名善弘の所有馬、ウイングドイルに騎乗する武豊の演技は自然体。まるで本物の馬主と話しているようだった。

山王耕造所有のロイヤルファイトにまたがっているのは菅原隆一。映画「釣りバカ日誌」シリーズの浜崎鯉太郎役など幼少期に子役として活躍した異色ジョッキーだ。

山王耕造が競馬場で身に着けていたスーツとネクタイはオレンジ色。自身の勝負服の基調にしている色を着て愛馬を応援していた。勝負服の基調色と同じ色のネクタイを着用して愛馬を応援する馬主とその関係者はグリーンのSオーナーとかブルーのAオーナーとか実際にいるので、違和感がなかった。なお、JRAの勝負服に使用できるのは、赤、桃、黄、緑、青、水、紫、薄紫、茶、鼠、海老、白、黒の13色。オレンジ色は実際には使えない。

ドラマは新潟競馬場でクライマックスを迎える。ロイヤルファイトとウイングドイルが出走するのは新潟7Rの3歳未勝利戦。逃げるウイングドイルと、最後の直線で大外から追い上げてきたロイヤルファイト馬体を並べたところがゴールだった。結果は見てのお楽しみということで、その後、情に厚くて馬より人を見て競走馬を購入する山王、彼を支えることを決めた栗須、ロイヤルファイトの生産者・林田純次(尾美としのり)による感動のシーンが展開される。

ロイヤルファイトが大外からウイングドイルに迫っていく場面は、実際のレース映像にロイヤルファイトの疾走シーンを重ね合わせたように思えた。だからこそ武豊騎手が騎乗するウイングドイルの勝負服は、実在する競走馬クラブ法人(株)ウインのそれとほぼ同じデザインなのだろう。どうやら使用されたレースは、ウインガナドルが2歳コースレコード(2分2秒1)で逃げ切った2016年10月16日の新潟2R・2歳未勝利戦(芝2000メートル)のようだ。そうだとすれば、ほとんど違和感を覚えない映像に驚くほかない。

初回には次回以降で明かされるはずの伏線も張られていた。山王の社長室に飾られている1995年の第13回中山牝馬ステークスの優勝レイは、そのひとつ。種明かしなんてやぼなことはしない。伏線がどう回収されるのかお楽しみに。ちなみに、史実の第13回中山牝馬Sを勝ったのはアルファキュート(父クリスタルグリッターズ、母フジノシャーク)だった。(鈴木学)

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