コラム:安いロシア無人機に高額迎撃、「コスパ」問われる欧州防衛策

写真は公開訓練でドイツ兵がドローンを操縦する様子。2025年11月、同国アーレンで撮影。REUTERS/Leon Kuegeler

[ロンドン 6日 BREAKINGVIEWS] - 「敵の能力に対して何を撃つにせよ、こちらの一発は、撃ち落とす対象よりも安くあるべきだ」──昨夏、ドイツで開催された米国主催の防衛会議「ランドユーロ」で、米陸軍の欧州司令官クリス・ドナヒュー大将はこう語った。北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)が差し迫るロシアの脅威への備えを急ぐ中、欧州に駐留する米軍の最上位の将官が「経済性」を前面に出した形だ。だが、経済学はこの指摘が示す以上に、欧州の安全保障の土台となりつつある。

ドナヒュー氏やアンドリウス・クビリウス欧州委員(防衛担当)らを悩ませているのは、フィンランドからポーランドまで2700キロメートル続く国境をどう防衛すべきか、という点だ。さらに厄介なのは、ウクライナ戦争が、戦車や大砲、ミサイルといった高価な従来兵器が、費用が桁違いに安い無人機(ドローン)で撃破され得る現実を突きつけたことだ。クビリウス氏は、ロシアに対抗する「ドローンの壁」という言葉を使い、ドナヒュー氏は、欧州とロシアの間に「東部戦線抑止力構想(EFDL)」を引く、という表現を用いている。総合的に見れば、後者の方がより有用な考え方だと言えるだろう

無人機を巡る経済的な非対称性は際立っている。米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」によると、ロシアのイラン製ドローン「シャヘド」の航続距離は2000キロメートル、製造コストは3万5000ドル(約550万円)だという。

問題は、欧州の防空が現状、こうした無人機に対して、はるかに高価なミサイルを撃つ態勢になっていることだ。昨年9月、ポーランド国境上空にロシアのものとみられるドローンが出現した際、オランダのF35戦闘機は空対空ミサイル「AIMー9X(サイドワインダー)」で撃墜した。このミサイルの単価は100万ドル強。問題となったロシア製のドローン「ガーベラ」は本物のシャヘドですらなく、ベニヤ板で作られた安価なおとり機だ。

こうした構図は、ロシア軍がウクライナの都市に対して一晩に何百機ものドローンを送り込んでも、採算に合うと見なしているように映る理由でもある。CSISはロシアのシャヘドのうち、実際に標的に命中するのは10%にとどまると見積もる。だがこの比率なら、計35万ドルで10機を放てば、命中する可能性が高いことになる。

1基300万ドルの米国製防空システム「パトリオット」が迎撃する可能性もあることを踏まえると、ロシア側の決断は経済的に理にかなっていると言える。このシナリオでは、NATOは財政的に損をする。さらには、高度な兵器を、より高価で破壊力の大きいロシアのミサイルに向けて使う機会まで失うことになる。

表面的に言えば、欧州はこの「コスト交換比率」を有効にすれば良いはずだ。解決策の1つは、グーグルの元最高経営責任者(CEO)エリック・シュミット氏が支援する「プロジェクト・イーグル」といった企業の新装備を導入することだ。同社ではドローン迎撃機を1台約1万5000ドルで製造することを目指している。

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、シャヘドの生産量を年間6万機と推定している。この数を生産した場合、費用は総額およそ10億ドル。他方、ウクライナでロシア軍のドローン特有の音を追跡するために使用されている音響探知装置「スカイフォートレス」は1台約1000ドル程度だ。何万台も購入しても、2025年のEU加盟国の軍事予算総額3810億ドルから見れば、誤差の範囲だ。

しかしながら、「ドローンの壁」を実際に作るとなると、そのコストは想定をはるかに上回る可能性が高い。スカイフォートレスがドローン追跡に有効でも、低空を飛ぶシャヘドを見つけるには、弾道ミサイルを想定した既存のレーダーとは別種の装置が必要になる。複数の防衛産業関係者は、適切なシステムは1基あたり数十万ドルになり得ると指摘した。コンサルティング会社「アルパイン・イーグル」は、欧州の東部国境沿いで16キロごとに1基、計200基が必要になると見積もっており、仮に1基あたり50万ドルで計算した場合、総額1億ドルに上る。

コストを膨らませている要因は他にもある。あらゆる天候下で飛来するドローンを識別するには、1台あたり数万ドルに上る、いわゆる電気光学/赤外線センサーを要する。CSISの推定では、ポーランドをカバーするだけでも400台が必要になるという。

また、ロシアが遠隔操作するドローンのジャミング(電波妨害)のニーズもある。ウクライナ企業「KVERTUS」の対ドローンシステム「アトラス」にかかる費用は1億4000万ドル。

加えて、安価な迎撃ミサイルの射程距離は数キロメートル程度だ。欧州では多くの偵察機や長距離機のほか、これら全装備を運用する上での人件費もかかり、費用はかさむ。米アンドゥリル製の長距離迎撃ミサイル「ロードランナー」は1機あたり数十万ドル台前半だ。

32のNATO加盟国、27のEU加盟国が専門知識と資源を持ち寄るとすれば、この出費は乗り越えられるかもしれない。ただ、各国が防衛費を国内総生産(GDP)の3.5%にまで引き上げる方針を示しているが、その足並みはそろっていない。同時に、トランプ米政権が公表した最新の「国家安全保障戦略(NSS)」を見るに、米国が欧州への関与や支援を薄め、部隊や装備を欧州から引き揚げる可能性も高まっている。

したがって、欧州の乏しい資源をどう配分するのが最適か、という点が「ドローンの壁」に立ちはだかる経済的な難題となる。それには決定、ごまかし、抑止力という3点が欠かせない。

まずは欧州政府と軍がセンサーやドローン迎撃機をどこに優先配置すべきか、その決定が議論の出発点となるだろう。ウクライナは首都キーウ周辺に主要な防衛線を固めている。欧州の指導者らも同様に、主要な都市、交通機関、エネルギーインフラに焦点を当てることで、自国の費用を最小限に抑えることができるだろう。

ちょっとしたごまかしも有効となる。複数の軍関係者は「ドローンの壁」の費用対効果を最適化する方法の1つとして、「おとり作戦」を挙げている。欧州諸国とNATOが地域の東部境界に沿って、数千もの移送式コンテナに迎撃装備を配置する。実際に兵器を入れているのは少数でも、ロシア軍は全て、あるいは、ほとんどのコンテナに装備が入っているかのように振る舞わなければならないかもしれない。欧州は事実上、自国の資源を活用し、より大きな見返りを得ることになる。

最後の鍵となるのは抑止力だ。昨年6月のイスラエルとイランの12日間戦争では、イスラエルがテヘランの軍最高司令部を攻撃し得る能力を示したことが決定的だった。欧州指導者も同様に、ロシア周辺の国々が「やられたらやり返す」意思と能力を示す必要がある、と結論づけるかもしれない。

単価350万ユーロの欧州防衛大手MBDAの長距離巡航ミサイル「タウルス」などを備蓄することは、使用するか否かに関わらずその役割を果たし得る。欧州の「ドローンの壁」が経済的に合理的であるためには、必ずしも「壁」である必要はないということだ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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George Hay is Breakingviews’ EMEA Editor, based in London. He manages the team in Europe, the Middle East and Africa, and also covers the global energy transition. His previous roles have included European Financial Editor coordinating banking coverage during the euro zone crisis and the global financial crisis. Prior to Breakingviews he worked for AFX News and United Business Media, and has an undergraduate degree from Edinburgh University and a Graduate Diploma in Economics from Birkbeck, University of London.

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