ウクライナ支援で反逆罪-スロバキアの転換に見る欧州結束の揺らぎ

北大西洋条約機構(NATO)加盟国の中で他国に先駆けてウクライナに軍事支援を行ったスロバキアで、この支援を巡ってヤロスラフ・ナド前国防相が権力の乱用や収賄、反逆罪の嫌疑をかけられ、捜査を受けている。ロシアのプーチン大統領を助けるような勢力が欧州の一部で台頭し、ウクライナを巡る結束に揺らぎが見られている。

  ウクライナへの武器供給の停止を掲げるフィツォ首相が政権に復帰してから約1年余り、ナド氏は5件で刑事告訴され、内務省が調査している。2023年5月まで3年にわたりスロバキア国防相を務めたナド氏は、首都ブラスチラバでインタビューに応じ、「完全に政治的な裁判だ」と述べた。ウクライナに弾薬、ミグ29戦闘機、地対空ミサイル「S300」を送るというNATOの義務を履行しただけで、標的にされているという。

  ナド氏は、収監される可能性に触れながらも「私はくじけない」と強調。「スロバキアの人々が団結し、私たちを支配する悪に対抗して団結する一助となることを願っている」と訴えた。

ロシアに接近

  ウクライナを支援したかどでナド氏が収監されるかどうかは別として、同氏が置かれた苦境は、欧州の片隅の指導者が欧州連合(EU)やNATOとの結束に反し、重大局面でプーチン氏に協力する都合の良い国となることを浮き彫りにしている。

  スロバキア、オーストリア、クロアチアといった国々で民族主義者が勢力を伸ばし、親ロシアとされるハンガリーと共に、ウクライナへの支持に疑問を投げかけている。

  ガス供給に関する協議を目的とした12月のフィツォ氏とプーチン氏の会談は、事態がいかに急速に変化し得るかを示している。フィツォ氏は、ウクライナの強固な同盟国だったスロバキアを、侵略についてプーチン氏の主張を頻繁に繰り返す国へと変貌させた。

  フィツォ氏は、EU内でしばしば混乱を引き越すハンガリーのオルバン首相と連携している。オルバン氏は、EUのウクライナ支援に疑問を呈し、対ロ制裁の解除を求め続けている。

もはや1人ではない

  ブダペストにあるシンクタンク「ポリシー・ソリューションズ」の政治アナリスト、ガボール・ジョリ氏は「オルバン氏はもはや1人ではない。EUは、ナショナリストの抵抗を乗り越えるのに苦労し、これまで以上に頻繁に機能停止に陥る可能性が高い」と話す。

  エネルギー価格の高騰に一般市民が苦しみ、その原因はウクライナの戦争だと非難する声が多い中東欧地域では、民族主義者が欧州の他の地域よりも速いペースで支持を獲得しているとジョリ氏は指摘する。こうした背景が反移民や反ウクライナ支援、トランプ政権への同調を呼び掛ける極右の主張を受け入れられやすくしている。

Leaders in region breaking consensus, offering Putin a group of useful allies in bid to undermine unity

Source: Bloomberg

  ハンガリーの西の隣国オーストリアでは、第2次世界大戦以来初めて極右の首相が誕生する可能性が高まっている。極右・自由党のキクル党首は、制裁への支持は同国の伝統的な中立性に反すると明言している。

再選を果たしたクロアチアのミラノビッチ大統領の集会の様子(1月12日、ザグレブ)

  南のクロアチアでは今月、ウクライナへの軍事支援に反対し、同国軍将校への訓練の協力を拒否したミラノビッチ大統領が、圧倒的多数で再選した。ミラノビッチ氏はNATOの拡大を「極めて不道徳」と非難している。ウクライナを通じ「ロシアとの代理戦争」を仕掛けているとして米政府とNATOをなじり、ロシアのラブロフ外相から称賛の声を浴びたこともある。

  スロベニアとチェコも、必ずしも親ロシアではないものの、反体制派の候補者が政権に返り咲く可能性が浮上している。ブルガリアでは、ラデフ大統領が対ロ制裁の解除を訴えている。

  ブラチスラバに拠点を置くシンクタンク、公共問題研究所の所長グリゴリー・メセズニコフ氏は、こうした勢力の台頭について、「彼らはトロイの木馬と化し、ロシアに有利な決定を下している。EUにとっては壊滅的な打撃になりかねない」と述べた。

原題:Putin Is Gaining Allies in Europe at a Bad Time for Ukraine(抜粋)

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