がんには「運動×食事」で対策が必要 食事改善と身体活動の重要性を示す英国の大規模研究

運動不足と腹部肥満は、どちらも修正可能ながんの主要なリスク因子だが、それらのいずれか一方のみが良好な状態であったとしても発がんリスクは高いことが、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータ解析から明らかになった。つまり、腹部肥満がなく、かつ、日常の身体活動が多いことが、発がんリスクの抑制につながることが示唆された。

がん予防に必要なのは身体活動か腹部肥満解消か? それとも両方か?

運動不足と腹部肥満はどちらもがんのリスク因子としてしられている。これらは代謝の低下やインスリン抵抗性の亢進、慢性炎症などを介して発がんリスクを高めると考えられている。しかし、世界人口の4割以上が腹部肥満であり、3割がガイドライン推奨の身体活動量を満たしていないとされ、それが世界のがん患者増加の一部に関与していると考えられる。

一方、これまで、運動不足および腹部肥満のそれぞれとがんリスクとの関連は研究されてきているが、例えば身体活動は多いものの腹部肥満の場合、あるいは、腹部肥満ではないが身体活動が少ない場合に、がんリスクがどのように変化するのかという点は不明だった。これを背景として、今回取り上げる論文の著者らは、英国で行われている一般住民対象の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて、この点を検討した。

UKバイオバンクのデータを11年追跡

UKバイオバンクは、2006~10年に、40~69歳の英国内の一般住民50万2,356人を登録して、現在も追跡調査が続けられている大規模な疫学研究。本研究では、追跡開始時点での非黒色腫皮膚がん以外の皮膚がん罹患者、BMI18.5未満、極端なウエスト周囲長(0.1パーセンタイル以下)、データ欠落者などを除外した、31万5,457人(56.1±8.2歳、女性48.1%)を解析対象とした。

身体活動量は国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価し、10MET-時/週以上を「身体活動量が多い」と定義した。腹部肥満については世界保健機関(WHO)の欧米でのカットオフ値(女性88cm超、男性102cm超)を用いて判定した。

身体活動量の多寡と腹部肥満の有無により4群に分類した場合、各群の該当者数と割合は以下のとおり。

  • (1)腹部肥満でなく身体活動量が多い(腹部肥満-/身体活動+)群14万7,502人(46.8%)
  • (2)腹部肥満でなく身体活動量が少ない(腹部肥満-/身体活動-)群7万8,310人(24.8%)
  • (3)腹部肥満で身体活動量が多い(腹部肥満+/身体活動+)群4万6,580人(14.8%)
  • (4)腹部肥満で身体活動量が少ない(腹部肥満+/身体活動-)群4万3,065人(13.7%)

「腹部肥満-/身体活動+」群に比較し、他の3群は交絡因子調整後も有意にハイリスク

10.9年(3,321万1,486人年)の追跡で、2万9,710人が何らかの原発性悪性腫瘍を発症していた。

(1)の「腹部肥満-/身体活動+」群を基準として、交絡因子(年齢、性別、民族、身長、喫煙・飲酒習慣、座位行動、握力、教育歴、心血管代謝疾患、健康的食事スコア、貧困〈タウンゼント指数〉、がん健診受診〈大腸がん、乳がん、前立腺がん〉、がん家族歴、医療機関、女性のホルモン補充療法および経口避妊薬の服用、初経年齢、閉経前・後、出産回数、子宮摘出年齢)を調整後に発がんリスクを比較。その結果、3群すべて以下のように、がんリスクが有意に高いことが明らかになった。

(2)の「腹部肥満-/身体活動-」群はHR1.04(95%信頼区間1.01~1.07)、(3)の「腹部肥満+/身体活動+」群はHR1.11(同1.08~1.15)、(4)の「腹部肥満+/身体活動-」群はHR1.15(1.11~1.19)。

運動不足や腹部肥満に関連するがんについてはより強固な関係

上記はすべてのがんのリスクの解析だが、続いて、運動不足や腹部肥満がリスクに影響するとのエビデンスのあるがん種(食道腺がん、大腸がん、肝臓がん、閉経後乳がん、子宮内膜がんなど)で解析が行われた。その結果、以下のように、上記の解析結果よりもさらに強固な関係が明らかになった。

(2)の「腹部肥満-/身体活動-」群はHR1.08(1.01~1.14)、(3)の「腹部肥満+/身体活動+」群はHR1.38(同1.30~1.47)、(4)の「腹部肥満+/身体活動-」群はHR1.48(1.39~1.58)。

健康的な食事と身体活動へのアクセスを増やす政策立案が求められる

感度分析として、逆因果関係(例えば未診断のがんがありその影響で身体活動量が減ることなど)が結果に影響を及ぼしている可能性を回避するため、追跡開始2年以内または5年以内に診断された患者を除外した解析、および、非喫煙者のみでの解析、飲酒量を考慮した解析、性別の解析を実施。それらの結果も主解析とかわらなかった。

また、すべてのがんの2.0%(1.5~2.5)は、身体活動が少なく腹部肥満であることに起因するがんと推計され、6.1%(5.0~7.3)はそれらのいずれかが関与したがんと推計された。

これらの結果に基づき著者らは、「腹部肥満のために上昇するがんリスクを、身体活動では相殺できないことが明らかになった。同様に、腹部肥満のない人でも、運動不足であれば、がんリスクは高いことも示された」と総括。また、「腹部肥満や運動不足を誘発しやすい社会環境をターゲットとする政策介入と、健康的なライフスタイルに関する一般生活者の意識向上への働きかけが必要とされる」と付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「WHO guidelines on waist circumference and physical activity and their joint association with cancer risk」。〔Br J Sports Med. 2025 Jan 22:bjsports-2024-108708〕 原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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スポーツ栄養Web編集部


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国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)はこのほど、格闘技の栄養と減量戦略に関する見解(position stand)をまとめ、同学会発行の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に発表した。

ISSNによる格闘技の栄養と減量戦略に関する16項目の見解

国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンドは、ISSNの編集者と評議会が、読者の関心を引くトピックを特定してそのトピックに関するエキスパートに執筆を依頼する招待論文であり、執筆された草稿はレビューと修正が加えられたうえでISSNの公式見解として承認される。

今回発表されたポジションスタンドは、PubMed、MEDLINE、Google Scholarという三つの文献データベースを使用して、包括的な文献レビューを実施したうえで、格闘技における栄養と減量戦略に関する見解が16項目にまとめられている。論文の本文の一部をピックアップして紹介したうえで、それらのポジションスタンドを示す。

イントロダクション

格闘技の歴史は古代オリンピックにまで遡り、紀元前688年頃の第33回ギリシャオリンピックにパンクラチオンという格闘技の記録がみられる。現在では、レスリング、柔道、キックボクシング、テコンドー、ムエタイ、総合格闘技、ブラジリアン柔術など、さまざまな競技に発展してきている。しかし、格闘技のパフォーマンスに関する科学的研究はまだ始まったばかりである。既に多くの競技アスリートにとって最適な食習慣が十分な研究されているが、格闘技に特化したデータは著しく少ない。

格闘技の栄養戦略を立てる際、予測可能な要因と予測不可能な要因の両方を含め、考慮すべき変数が多数存在する。例えばエネルギー要件、体重階級、トレーニングのスタイル・量・強度などにより食事計画を個別に調整する必要がある。また、減量戦略を立てる際には、競技ごとの計量のタイミングの違いが重要となる。試合24時間前の計量とする競技が多いが、回復時間を1~2時間程度しか確保できない条件での試合が求められることもある。

生体エネルギー

格闘技に必要なエネルギーは、アデノシン三リン酸・クレアチンリン酸系(ATP-Creatine Phosphate system;ATP-CP系)、解糖系(乳酸系)、有酸素系(酸化系)の三つによる。例えば空手では、平均的な4分27秒の試合中に、有酸素系が77.8%、ATP-CP系が16.0%、有酸素系が6.2%とされている。また、格闘技の種類にかかわらず、試合時間が長くなるにつれて有酸素系の占める割合が増加することが、一貫して認められている。

これらのうちATP-CP系は、高いパワーを発揮するために重要である。スポーツ栄養の専門家は、エネルギー需要、エネルギー消費、代謝コストに影響を与える可能性のある多くの要因を認識しておく必要がある。

準備期

準備段階では有酸素運動能力とスキルを向上させ、パワー、スピード、可動性など最適化にあてる。この間、参加する試合の体重クラスより12~15%重い範囲を保つ。タンパク質必要量は1.2~2.4g/kgの範囲で、2g/kgに近い量が目標摂取量とされている。炭水化物については持久系アスリートでは体重1kgあたり8~12gが推奨されるのに対して、格闘技アスリートの場合は4~5gがスタート時点の摂取量として考慮され得る。

カフェイン、クレアチン、ベータアラニン、硝酸塩、必須アミノ酸などのエビデンスの裏付けのあるサプリメントは、格闘技選手のトレーニング要求と回復をサポートするために使用可能。β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)は、体重減少段階で除脂肪体重を維持に資する可能性がある。

試合期

安静時代謝量(resting metabolic rate;RMR)を測定する手段がない場合、Mifflin St Jeor 式またはCunningham式によりエネルギー需要を推計する。1週間あたり0.5~1kgの体重減を目指す。より積極的に体重を減らすには、より大きなエネルギー不足とするが、RMRを下回らないようにする。

炭水化物摂取量は3~4g/kg/日を下回らないようにする。タンパク質摂取量は1.6~2.2g/kg/日とする。脂質摂取量は0.7~1.3g/kg/日とするが、体重減少の促進のためにはこの範囲以下にする必要があることもある。

トレーニング、スパーリング中の水分補給をモニタリングする。必要に応じて、発汗を促すために熱順応戦略を検討する。

栄養補助食品に関する考慮事項

マルチビタミン
アスリートが毎日の微量栄養素の必要量を満たし、欠乏のリスクを最小限に抑えるのを助ける。毎日の摂取。
ビタミンD(カルシフェロール)
ビタミンDレベルが低いと、怪我や上気道感染症のリスクが高まる。1,000 IU/日。
ビタミンC
鉄の吸収を高め、免疫力をサポートする。抗酸化物質として働き、酸化ストレスを軽減し、外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)後の回復を助ける可能性がある。男性90mg/日、女性75mg/日。
摂取量が少ないため、十分な鉄分レベルを維持できないアスリートに考慮。女性18mg/日、男性8mg/日以上。
マグネシウム
欠乏状態ではサプリメントを使用することを支持するエビデンスがある。推奨摂取量(recommended dietary allowance;RDA)は男性420mg/日、女性320mg/日、最大500mg/日。
亜鉛
免疫機能をサポート。男性11mg/日、女性8mg/日。
ω3
回復、抗炎症作用をサポート。脳の健康と機能をサポート。1日あたり2g以上のEPAとDHA。
クレアチン
急性運動能力を高め、筋肉のクレアチン貯蔵量を増やし、除脂肪体重を増加させる。TBI後の神経保護効果をもたらす。3~5g/日。
カフェイン
運動パフォーマンスを高め、疲労の発現を遅らせる。3~6mg/kg。
重炭酸ナトリウム
高強度の運動をサポート。0.2~0.5g/kg。
β-アラニン
細胞内緩衝能力の向上により運動パフォーマンスを向上。4~6gを2~4週間以上摂取する。
HMB
除脂肪体重をサポート。1日1~3gまたは38~40mg/kg。
抗酸化物質
脳機能をサポートし、炎症を軽減し、酸化ダメージから保護する効果がある。果物、野菜、クルクミン、N-アセチルシステイン、ビタミンE、グルタチオン、コエンザイムQ10、ビタミンB群に含まれている。

国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解

  1. 格闘技にはさまざまな体重区分、公式計量時間、競技頻度があり、トレーニングや競技における栄養と減量の戦略に影響を与える。
  2. 試合時間が4分を超えると、有酸素系の寄与は70%以上に上昇するが、高出力バーストはATP-CP系と解糖系がサポートする。
  3. オフキャンプ/一般的な準備段階では、アスリートは体重カテゴリーの要件より12~15%高い体重を維持する必要がある。
  4. クレアチン、β-アラニン、HMB、カフェインなどのサプリメントは、準備段階、競技中、競技後のパフォーマンスや回復を高めることが示されている。
  5. ファイトキャンプ中は、効率的な縦断的体重減少のために、カロリー摂取量を戦略的に減らす必要がある。個人のカロリー必要量は、間接熱量測定法、またはMifflin St. JeorやCunninghamなどの検証済み推算式を使用して決定する。
  6. 減量期間は、除脂肪体重を維持するためにタンパク質を優先する必要があり、炭水化物を適時に摂取することでトレーニング要求に応えることがでる。主要栄養素は、炭水化物3.0~4.0g/kg、タンパク質1.2~2.0g/kg、脂質0.5~1.0g/kg/日を下回らないようにする。
  7. 適切な体重減少は、体重測定前の72時間で6.7%、48時間で5.7%、24時間で4.4%の範囲。
  8. ナトリウム制限と水分補給は、多尿と急性の水分喪失を誘発するのに効果的。
  9. 試合週中は、運動と炭水化物の制限により水分に結合したグリコーゲン貯蔵量が枯渇し、体重が1~2%減少する。同様に、食物繊維の摂取量を4日間で1日あたり10g未満に抑えることでも、同程度の体重減少が見込まれる。
  10. 試合週中は、サウナ、温水浸漬、マミーラップなどの急性の水分損失策を、適切な監督下であれば効果的に使用可能(最適な減量幅は計量の約24時間前までに体重の約2〜4%が目安)。
  11. 計量後、試合上の優位性を得る目的で、競技前に失われた体液/体重を回復するために急速な体重増加戦略が活用される。
  12. 体重測定後すぐに、50~90mmol/dLのナトリウム濃度の経口補水液(1~1.5L/時)を摂取する。
  13. 経口補水液の後に、耐容速度60g/時以下での速効性炭水化物を摂取する必要がある。体重測定後の食物繊維の摂取は、胃腸障害を避けるために制限する必要がある。
  14. 試合週中に大幅なグリコーゲン枯渇戦略を実施した格闘技選手の場合、計量後の炭水化物摂取量は8~12g/kgが適切である可能性がある。適度な炭水化物制限の場合は4~7g/kgが適切である可能性がある。
  15. 体重測定後、パフォーマンスの低下と急激な体重減少による悪影響を軽減するために、水分補給/栄養補給プロトコルで体重の10%以上を回復することを目指す必要がある。
  16. 頻繁な減量が健康とパフォーマンスに及ぼす長期的な影響は不明であり、さらなる研究が必要。

原題のタイトルは、「International society of sports nutrition position stand: nutrition and weight cut strategies for mixed martial arts and other combat sports」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2467909〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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食事​​時間は咀嚼回数と正相関し、咀嚼のテンポとは負の相関があることが報告された。藤田医科大学の研究グループの研究成果であり、「Nutrients」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、十分な食事時間を保つために、「まずは噛む回数を増やす、一口を小さくすることを意識して食べるのが良いのではないか」としている。

研究の概要

肥満者に対して「ゆっくり食べたほうが良い」と指導することがあるが、どのような方法でゆっくり食べるかは、実は難しい問題。藤田医科大学の研究グループは、さまざまなテンポのリズムを聞かせることで、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数(ピザを何口で食べるか)、咀嚼テンポ(噛むスピード)を測定し、食事時間に影響を与える要素を検討した。

食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で差があるものの、咀嚼テンポは男女で差がみられなかった。さらに、食事時間は咀嚼回数、口に運ぶ回数と関連するが、咀嚼テンポやBMIとは関係していなかった。

最後に、メトロノームで咀嚼テンポを調節した場合、通常の半分のゆっくりしたテンポのリズムを聞かせると、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数を増やすことができた。テンポを早めた場合よりも、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響は強くみられた。

以上から、単に「ゆっくり食べる」と説明するのではなく、「咀嚼回数を増やす」、「一口に入れる量を減らし食事を口に運ぶ回数を増やす」、「ゆっくりとしたテンポの音楽を聴きながら食事をする」などと、指導するのが良いと考えられた。

研究成果のポイント

  • 肥満者の食事について、「ゆっくり食べたほうが良い」と昔から説明されてきたが、ゆっくり食べる方法の科学的な裏付けは不明な点が未だ多い。
  • 食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で明らかに違うが、咀嚼テンポには性差が少ない。
  • 食事時間と、咀嚼回数、口に運ぶ回数、咀嚼テンポ、BMI、運動能力(5回椅子立ち上がり試験)、普段の摂取エネルギーおよび栄養素との関連について、性別を考慮して解析したところ、咀嚼回数、口に運ぶ回数でのみ、食事時間との関連が見られた。
  • メトロノームのリズムに合わせて食事するよう指示すると、ゆったりとしたテンポに合わせたほうが、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響が大きかった。
  • 咀嚼回数を増やす、一口に入れる量を減らし食事を口に運ぶ回数を増やす、ゆっくりとしたテンポの音楽を聴きながら食事をすると、食事時間を伸ばすことができるので、肥満の予防に活用できる可能性がある。

研究の背景

肥満の人は早食いが多いとよく言われる。そのため、肥満の患者にはゆっくりと食事をするよう指導することが古くから行われてきた。しかし、「肥満者は早食い」とする根拠は自己申告による論文がほとんどであり、定量的な解析は少ないのが実情。以上から、ゆっくりと食事することの意味を科学的に説明するためのエビデンスは非常に少ないと考えられる。

そのため、テスト食(ピザ)を用いて食事時間を定量的に測定し、食事時間の性差、食事時間に影響を与える因子の同定を行った。さらに、外部よりメトロノームによる音刺激を与えることで、食事時間や咀嚼時間、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数が変化するかを検討した。このような手法で食事時間に影響を与える因子を同定することで、肥満に対する“ゆっくりと食べる”指導をより科学的に行うことができるようになる。

研究手法・研究成果

研究グループでは既に、人の咀嚼リズムがおよそ80bpm程度であることを確かめている。80bpmを基礎的なテンポとして、遅いリズム(40bpm)、同じリズム(80bpm)、速いリズム(160bpm)に合わせて、20~65歳までの被験者33名のピザを食べる食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、運動能力(5回椅子立ち上がり)、握力を測定した。被験者は、朝食を少なくとも4時間前までに済ませて実験に臨み、食事中の水分摂取は禁止とした。

ピザ(直径20cm、総エネルギー317kcal〈たんぱく質13.0g、脂質12.6g、炭水化物38g〉)を4等分し、1/4枚ずつ、ヘッドフォン下でメトロノームの刺激(0・40・80・160bpm)に合わせて食べるように指示し、食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数を測定。食事時間はストップウォッチ、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数は咀嚼計Bitescanで測定した。また、BDHQ(食品頻度摂取調査質問票)試験により普段の食事成分の摂取量を評価。5回椅子立ち上がり試験、握力は食事テストの10分前までに行った。

0bpmのデータに関して、男女間の比較、食事時間を従属変数、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、5回椅子立ち上がり試験、総エネルギーおよび各栄養素を独立変数、性別を調整因子として、線形回帰分析を行った。

次に、各群(0・40・80・160bpm)における食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数の比較をOne way ANOVAののち、Tukey法で比較。図1に実際の工程を示す。

図1 研究の工程

メトロノームのリズムに合わせて、1/4枚ずつのピザを実食。食事時間とともに、Bitescanで咀嚼回数、咀嚼リズム、口に運ぶ回数を測定した。

(出典:藤田医科大学)

結果

  • 1枚(約20センチ)のピザを4等分して、メトロノームのリズム(0・40bpm・80bpm・160bpm)に合わせて、1/4ずつ食べてもらい、食事時間、咀嚼回数、咀嚼のテンポ(スピードに当たる)、口に運ぶ回数(1/4切れのピザを何口で食べたか)について調べた。
  • 参加者は平均37.2歳、男性15人、女性18人。
  • 何もメトロノームのリズム刺激をしていない時の結果を用いて、性別による違い、食事時間に関係する因子をまず調べた。
  • 食事時間と咀嚼回数、口に運ぶ回数は男性で有意に少ない一方、咀嚼テンポは男女で差がみられなかった。BDHQでエネルギー摂取量、各栄養素の摂取量を調べたが、異常はみられなかった。
  • 次に食事時間と関連する因子について、性別で調整し、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数、BMI、5回椅子立ち上がり試験との関係を多変量解析により調べた。握力は性別と関係するため、因子に含めなかった。
  • 咀嚼回数、口に運ぶ回数は有意に食事時間に関連したが、咀嚼テンポ、BMI、5回椅子立ち上がり試験との関連はみられなかった。
  • また、食べている栄養が食事時間に関係するかを調べたが、エネルギー量、たんぱく質、脂質、炭水化物との関連はみられなかった。
  • 最後に、メトロノームのリズム刺激が、咀嚼テンポ、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数に与える影響を検討。40bpmと遅いリズム刺激を与えると、咀嚼テンポは有意に低下、食事時間は有意に延長、咀嚼回数は有意に増加、口に運ぶ回数は有意に増加した。他方、160bpmと速いリズム刺激を与えると、咀嚼テンポは有意に増加、食事時間は有意に延長、咀嚼回数は有意に増加、口に運ぶ回数は有意に増加した。しかし160bpm刺激による効果は40bpm刺激による効果に比べると小さいものだった。性別による違いでは、女性でのみ有意だったが、男性でも同様の傾向を示した。

図2 研究結果の抜粋

メトロノームのリズム(40bpm・80bpm・160bpm)に合わせて、1/4枚のピザを食べるのに要した食事時間、咀嚼回数、咀嚼テンポ、口に運ぶ回数を測定。この結果は男女合わせたものを示している。

(出典:藤田医科大学)

今後の展開

今回の検討を通じて、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数は男女で違いが見られる一方、咀嚼テンポは性差がみられなかった。従って、食事時間の速い/遅いを論じる場合、男女の差を考慮する必要がある。研究グループでは過去に、性別による食事の嗜好の違いも報告しており、栄養指導には男女の違いを十分に意識する必要がある。

次に、食事時間は咀嚼回数、口に運ぶ回数と関連しており、噛む回数を増やす、一口を小さくするなどの指導は科学的にも理にかなっていることが示された。他方、テンポはある程度一定なので、テンポを変化させることは難しいこともわかった。早い音楽に合わせて、早く食べることは難しいようで、逆にゆっくりとした音楽をかければ、食事時間もゆっくりとなる可能性がある。今回の検討でも通常の半分のテンポのリズムに合わせると、食事時間、咀嚼回数、口に運ぶ回数がいずれも増加した。音楽をかけながら食べることには人により好みが分かれるため、まずは噛む回数を増やす、一口を小さくすることを意識して食べるのが良いと考えられる。

研究グループでは、「今後はより複雑な食べ物(一皿に硬さの異なる食事が混在しているものとの比較)、食べる順番の影響が食事時間にどのように影響するかを明らかにしたいと考えている」としている。なお、本研究の成果を受け、藤田医科大学羽田クリニック(東京都大田区)では、肥満の予防・改善を目的とした食事指導の一環として、テスト食を用いた評価プログラムを導入している。このプログラムでは、実際に食事をしながら食事速度や咀嚼回数を測定するなど、患者ごとの食習慣を客観的に評価し、より実践的な指導を行っている。

プレスリリース

肥満患者の生活指導“ゆっくり食べる”を科学的に検証(藤田医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Greater Numbers of Chews and Bites and Slow External Rhythmic Stimulation Prolong Meal Duration in Healthy Subjects」。〔Nutrients. 2025 Feb 16;17(6):962〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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次世代の教師と考える『うま味』の魅力を伝える教材とは?

味の素株式会社は、2024年11月に開催された『食と科学のふしぎ博 in 堺』にて、未来の教師たちとともに考えた体験型講座「〈うま味ってなあに?〉」を実施しました。この取り組みのレポートおよび教材が、食と栄養の情報サイト「あじこらぼ」にて公開されましたのでお知らせいたします。

味の素株式会社は、武庫川女子大学教育学部の藤本勇二教授と藤本先生のゼミ生の皆さんとともに、小学生が実験を通して「うま味」を学ぶ体験講座を実施。「みそ湯」やグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムを使った実験により、子どもたちは科学と食の関係性を楽しく学びました。

実際に講座を行った藤本ゼミの学生や参加した子どもたちの保護者からは「子どもたちの笑顔や驚きの表情を見られて嬉しかった」「世代を問わず楽しめるプログラム」といった声が寄せられており、この体験プログラムの質と実用性が評価されています。

このイベントの模様は、あじこらぼが発行している「Ajico Report Vol.9」でご覧いただけます。また、このイベントで使用した教材のスライドデータ(PowerPoint)については、「あじこらぼ」の「教材・ツール ダウンロード」コーナーで公開していて、誰でも無料でダウンロードして活用することが可能です。教育現場での授業や食育活動、地域イベントなど、さまざまなシーンごとにアレンジすることもできますので、ぜひご活用ください。

「あじこらぼ」では、Ajico Reportの全文を無料公開しているほか、PDFを無料でダウンロードすることができます。下記ボタンからチェックしてください!

記事全文・PDFダウンロードはこちら(あじこらぼへ)

【あじこらぼ】Ajico Report&Ajico News バックナンバー

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スポーツ栄養Web編集部


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メンタルヘルスの課題に直面した際に、助けを求めたり、自分の心の様子を人に伝える“強さ”を育む教育に、アスリートの経験が役立つ可能性を示唆する研究結果が報告された。小学校の授業で、5年生の生徒とラグビー選手がアート作品を共同制作することで、子どもたちに前向きな変化が見られたという。これは、日本ラグビーフットボール選手会と研究者による「よわいはつよいプロジェクト」の一環として実施された研究であり、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の小塩靖崇氏らによる論文が「Discover Mental Health」に掲載された。

学習指導要領の改訂に伴う子どもたちのメンタルヘルスリテラシー教育の課題

思春期のメンタルヘルス

思春期のメンタルヘルスは世界的に公衆衛生上の懸念とされている。国内では自殺者数は近年減少傾向にあるものの、10代の若者の自殺者数は大きな変化が見られず、むしろ微増しており、依然としてこの世代の死因のトップを占めている。メンタルヘルスの問題に直面したとき、多くの人が他者に相談したり助けを求めたりすることをためらう傾向があるが、特に若年層は、自力で問題を解決しようとする傾向が強いことが報告されている。

こうした現状を受け、世界各国で学校カリキュラムにストレス対処法や助けを求める重要性など、メンタルヘルスリテラシー教育を取り入れる動きが進んでいる。日本でも2020~22年に学習指導要領が改訂され、体育(保健領域)や保健体育の授業でメンタルヘルス教育が導入された。この教育では、知識の伝達だけでなく、体験的・実践的なアプローチが効果的とされ、音楽、ダンス、演劇、アートなどの創造的な活動が、スティグマ(社会的烙印)の軽減に寄与することが報告されている。

アスリートのメンタルヘルス

一般的にアスリートは、強靭な肉体と精神力を兼ね備えた規範的存在と見なされがちである。しかし実際には、エリートアスリートも一般の人々と同様に、あるいはそれ以上にメンタルヘルスの問題に直面することが報告されている。とくにアスリートの場合、メンタルヘルスの上の課題を抱えていることが「弱さ」と見なされ、キャリアに影響を及ぼすことを懸念し、問題を隠そうとする傾向が強い。

このような課題を解決するために、著者らの研究グループと日本ラグビーフットボール選手会は、2019年に「よわいはつよいプロジェクト」を立ち上げ、アスリートやサポートスタッフに向けたメンタルヘルス啓発活動を展開してきている。

小学校の授業でのワークショップ開催

この背景を踏まえ、「よわいはつよいプロジェクト」が小学校の体育(保健領域)におけるメンタルヘルス教育に参加する試みが企画された。企画会議では、小学校の図画工作の授業を担当し、画家でもある教師が「絵を描くことで生徒が自身の心の状態を表現できる」というアイデアを提案。この手法は複数の研究で有用性が示されており、アートを活用したメンタルヘルス教育ワークショップが開催されることとなった。対象は小学校5年生である。

事前の準備

ワークショップに向けて、ラグビー選手にはメンタルヘルスの専門家によるトレーニングセッションが実施された。アスリートが個人的な経験を構造的に表現できるよう支援した。

このワークショップでは、「子どもたちの非言語表現の促進」、「アスリートとの社会的接触の促進」、「協力的な学習環境の醸成」という変化が期待された。

ワークショップの内容

ワークショップは通常の授業時間4時限内で実施された。主な内容は、以下の通りであった。

  • 1) アイスブレーカー(15分):ラグビーパスとタックルの実演と体験
  • 2) エリートアスリートによる講演(15分):「よわいはつよいプロジェクト」の理念、メンタルヘルス経験の共有、助けを求めることの重要性
  • 3) ストレスとパフォーマンスの関係を学ぶ体験活動(15分):ストレスを可視化し、負荷の影響を理解する
  • 4) アートを用いた活動(75分):メンタルヘルスの状態を色と形で表現し、仲間と共有

ワークショップ後のフィードバック

ワークショップの主な成果は以下の3点にまとめられる。

  • 1) アスリートからメンタルヘルスについて学ぶ
  • 2) 芸術的表現を通じてメンタルヘルスの状態や感情を明確に表現する
  • 3) 他者のメンタルヘルスに関心を持ち、サポートする意識を育む

実際に参加した生徒の多くは肯定的な感想を述べ、否定的な反応はみられなかった。とくに、「アスリートからメンタルヘルスについて学ぶ」という点に関しては、多くの生徒がアスリートの個人的な経験談に興味を示した。「堂々とした逞しいアスリートと対話し、実際に彼らの存在に触れることで、不安や心配といった心の状態を否定せずに受け入れられるようになった」、「不安や悩みを他者と共有することは恥ずかしいことではないと感じた」といった意見が寄せられた。また、複数の生徒が「絵を描くことで徐々に心が落ち着き、他者に感情を表現する力や、仲間の感情を理解する力が向上した」と報告をした。さらに、助けを求めることと、他者を助けることの両方が大切だとの気づいた」といったコメントも多くみられた。

加えて「ラグビー選手がとても背が高くて大きいことに驚いた」「ラグビーをやってみたい」といった感想もあった。これらはワークショップの直接的な目的とは異なるものの、生徒たちが積極的に関与し、アスリートとの信頼関係を築いたことを示していると考えられる。

最もアプローチが難しい世代へのメンタルヘルス教育におけるアスリートの役割

著者らは、本研究が単一の小学校のみで実施され、ワークショップ前後の生徒の知識や態度の変化を定量的に評価していないといった限界点があることを認めたうえで、次のように結論を述べている。

「アスリートによるアートを活用したワークショップは、子どもたちのメンタルヘルスを促進する有意義で革新的なアプローチとなる可能性がある。アスリートがアートを用いることで、参加者は感情を表現しやすくなり、助けを求めたり、他者を支えたりすることへの心理的なハードルを下げることができる。」

また、「アスリートとメンタルヘルスの専門家が協力することで、若年世代にも根強く残るスティグマを軽減することが可能となる。とくに、このアプローチが難しい世代向けたメンタルヘルス教育では、新たな指導方法の模索が重要である」と付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Elite athlete initiatives in school mental health: crafting an art-based educational methodology for promoting mental health help-seeking」。〔Discov Ment Health. 2025 Mar 9;5(1):30〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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スポーツ庁は3月11日、令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を発表した。20歳以上の週1日以上のスポーツ実施率は52.5%、スポーツ実施希望率は66.6%と乖離がみられ、とくに20~40代女性で乖離が大きいことなどが報告されている。また同庁は同日、「障がい児・障がい者のスポーツライフ調査」の結果も発表した。障害者のスポーツ実施率は20歳以上で32.8%、7~19歳で38.5%だという。二つの調査結果のポイントをあわせて紹介する。

令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」

主なポイント

性年代別のスポーツ実施率とスポーツ実施率の推移

20歳以上の週1日以上のスポーツ実施率は、52.5%となり、令和4年以降ほぼ横ばいとなっている。男女別では、男性が55.6%、女性が49.6%となっており、引き続き男性より女性の実施率が低く、かつ男女の差が拡大している。また、年代別では、20代~50代の働く世代で引き続き低い傾向となっている。

図1 20歳以上のスポーツ実施率の推移(週1日以上)

(出典:スポーツ庁)

図2 性年代別スポーツ実施率(週1日以上)

(出典:スポーツ庁)

運動・スポーツを週1日以上実施したいと思う者の割合(スポーツ実施希望率)

20歳以上の週1日以上のスポーツ実施希望率は、66.6%(男性68.1%、女性65.3%)となっている。スポーツ実施希望率と実際のスポーツ実施率の差を見ると、高い順に40代女性(19.9%)、30代女性(18.6%)、20代女性(17.6%)となっている。

表1 性年代別スポーツ実施希望率

(出典:スポーツ庁)

図3 年代別スポーツ実施希望率とスポーツ実施率

(出典:スポーツ庁)

勤務先での運動・スポーツ実施環境とWell-being(ウェルビーイング)

勤務先で運動・スポーツを活用した取り組みがなされている者の充実感と幸福感は7.3点(10点満点)となり、取り組みがなされていない者の得点を上回っている。

図4 勤務先における取り組みの有無別スポーツ実施率(週1日以上)

(出典:スポーツ庁)

表2 運動・スポーツを活用した取り組み上位3項目

(出典:スポーツ庁)

その他のポイント

女性のスポーツ実施の特徴

女性の「この1年間に実施した種目」で多かったのは、一番多いウォーキングを除くと「体操(16.5%)」「トレーニング(11.1%)」「エアロビクス・ヨガ・バレエ・ピラティス(11.0%)」の順となっている。男性に比べて女性の実施割合が高い種目は「体操」「エアロビクス・ヨガ・バレエ・ピラティス」「ダンス」となっている。

図5 この1年間に実施した種目(女性の割合上位20種目)

(出典:スポーツ庁)

都道府県別のスポーツ実施状況

令和4年度から令和6年度までの3年分を合わせた20歳以上の週1日以上のスポーツ実施率を都道府県別に算出した。都道府県別のスポーツ実施率は、高い方から東京都(56.6%)、神奈川県(54.7%)、奈良県(54.5%)、福岡県(54.3%)、千葉県(54.1%)であった。

図6 都道府県別のスポーツ実施状況

(出典:スポーツ庁)

スポーツ参画状況(する・みる・ささえる)と幸福感

この1年間でスポーツを「する」「みる」「ささえる」のいずれかに参画した者の割合は80.7%(男性85.0%、女性76.3%)。スポーツへの参画の仕方によって幸福感に差があり、複合的な参画ほど幸福感が高まる傾向がみられ、「する・みる・ささえる」すべてに参画した者は、日常生活の幸福感(7.7点/10点満点)が最も高い。

図7 スポーツ参画状況(する・みる・ささえる)と幸福感

(出典:スポーツ庁)

令和6年度「障がい児・障がい者のスポーツライフに関する調査研究」

障害者の運動・スポーツの実施率について

過去1年間に運動・スポーツを行った日数についての調査結果より、実施頻度が週1日以上の実施者の割合について、20歳以上と7~19歳に分けて集計した。その結果、20歳以上では32.8%、7~19歳では38.5%であった。令和5年度と比較すると、週1日以上の実施率は、20歳以上は横ばい、7~19歳は増加となった。

図8 障がい児・障がい者の運動・スポーツ実施率の推移

(出典:スポーツ庁)

運動・スポーツに対する関心

過去1年間の運動・スポーツへの取り組みについて実施頻度別にみると、週1日以上の実施者では「満足している」が39.2%と最も多く、次いで「もっと行いたい」が26.5%であった。週1日未満の実施者で最も多かったのは「関心はない」が37.9%、次いで「行いたいと思うができない」が28.7%であった。1年間に1日も運動・スポーツを行っていない者では「関心はない」が74.7%と最も多く、次いで「行いたいと思うができない」が24.1%であった。

図9 現在の運動・スポーツへの取り組み(n=2,464)

(出典:スポーツ庁)

運動・スポーツの実施の障壁

本調査において「障害のあるあなたご自身の運動・スポーツの取り組みについて障壁となっているものは何ですか」という質問も行っている。この回答状況を、スポーツ実施の頻度や運動・スポーツへの関心により二つの層について確認したところ、以下のとおりであった。

図9 過去1年間での運動・スポーツの実施頻度が「週1日未満」の実施者のうち「運動・スポーツを行いたいと思うができない者」の障壁(n=166)

(出典:スポーツ庁)

図10 過去1年間に1日も運動・スポーツを実施しなかった「非実施者」のうち、「特に運動・スポーツに関心はない者」(n=685)

(出典:スポーツ庁)

関連情報

令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します(スポーツ庁) 令和6年度「障がい児・障がい者のスポーツライフに関する調査研究」の調査結果について(スポーツ庁) 令和6年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(令和6年11月調査)(スポーツ庁)

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スポーツ栄養Web編集部


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国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)はこのほど、長鎖オメガ3多価不飽和脂肪酸(ω-3 polyunsaturated fatty acid;ω-3 PUFA)に関する見解(position stand)をまとめ、同学会発行の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に発表した。

ISSNによるω-3 PUFAに関する10項目の見解

国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンドは、ISSNの編集者と評議会が、読者の関心を引くトピックを特定してそのトピックに関するエキスパートに執筆を依頼する招待論文であり、執筆された草稿はレビューと修正が加えられたうえでISSNの公式見解として承認される。

今回発表されたポジションスタンドは、アスリートのω-3 PUFA欠乏リスク、健康への影響、筋肉痛や頭部への打撃に対する保護効果、睡眠への影響などについて、10項目が総括されている。論文の本文の一部をピックアップして紹介したうえで、論文の最後にまとめられている10項目のポジションスタンドを示す。

イントロダクション

PUFAは主に、ω-3とω-6に分類される。注目すべき短鎖ω-3 PUFAとして、α-リノレン酸とステアリドン酸、長鎖ω-3PUFAとして、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)とドコサペンタエン酸(docosapentaenoic acid;DPA)、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)が含まれる。炎症促進性や血栓促進性を示すω-6 PUFAに対して、ω-3 PUFAは抗炎症性、抗不整脈性、抗血栓性である。ω-3 PUFAの摂取は、心臓血管系、網膜、筋骨格系、脳血管系に対する保護効果を発揮し、神経疾患や病状に良い影響を与える可能性がある。

スポーツ領域でのω-3 PUFAサプリメントのメリットとしては、酸素消費量の減少、免疫システムのサポート、回復の促進、同化作用の向上などが挙げられる。また、消化器系の健康、認知機能、睡眠の質に好ましい影響を与え、アスリートの外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)に対する保護効果をもたらすことも示唆されている。

アスリートは、一般的にω-3 PUFA不足のリスクがある。例えば、全米大学体育協会(NCAA)ディビジョンIのフットボール選手404人を対象に行われた研究では、ω-3指数(O3i)が8%を超える選手は1人もいなかった。参加者の平均O3iは4.4±0.8%であり、これは後年の心血管疾患リスクが高くなる可能性を示している。

ω-3 PUFAの供給源として、日本やスカンジナビア諸国のような魚を多く摂取する国以外では、魚油サプリメントが最も一般的である。魚油サプリは、無作為化比較試験(RCT)とそのレビューやメタ解析により、心臓保護、抗血栓、抗炎症、神経保護に関するメリットがエビデンスとして示されている。

回復と筋肉痛

多くの研究が、運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)や遅発性筋肉痛(delayed-onset muscle soreness;DOMS)、パフォーマンス指標(筋力またはパワー)、関節可動域、筋損傷マーカー(クレアチンキナーゼ〈creatine kinase;CK〉、乳酸脱水素酵素〈lactate dehydrogenase;LDH〉)、および炎症マーカー(C反応性蛋白〈C-reactive protein;CRP〉、インターロイキン-6〈interleukin-6;IL-6〉、腫瘍壊死因子-α〈tumor necrosis factor-alpha;TNF-α〉)に対するEPAやDHA摂取の影響を評価している。

総合的にみて、ω-3 PUFAはDOMSを軽減する可能性があることを示唆している。一方、EIMD後の骨格筋のパワーやパフォーマンスに対する影響のエビデンスは、それほど堅牢ではない。CKやLDHに対する影響も一貫性が不十分なようである。

認知機能やメンタルヘルス

脳の成分の半分以上は脂質で、その脂質の約3分の1はω-3 PUFAである。ω-3 PUFAは細胞膜のリン脂質二重層で重要な役割を果たし、神経伝達物質の調節にも影響を与える。

ω-3 PUFAの少ない食事はセロトニンとドーパミンのレベルの低下と関連している。ω-3 PUFAは血液脳関門を通過するため、脳の血液循環に影響を与える可能性があることも当然と言える。脳血流の増加により脳への酸素と栄養素の供給が増加し、認知機能と精神的健康に影響を与える可能性があると、一般的に理解されている。ただし、ω-3 PUFAの認知機能への影響に関する研究の大半は、神経変性疾患患者や高齢者を対象としており、健康なアスリートを対象にした研究は限られている。

外傷性脳損傷

動物モデルでの複数の研究では、ω-3 PUFAを豊富に含む食事が外傷性脳損傷(TBI)関連の認知機能的転帰および神経生理学的転帰を改善することが示されている。そのメカニズムは、ω-3 PUFAが抗酸化物質として機能し、TBIによって誘発される活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)を減弱させると考えられている。また、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)のアップレギュレーションも想定されている。

米国のアメリカンフットボール選手を対象に、ω-3 PUFAサプリの予防的使用について3件の研究が行われており、結果をまとめると、DHAはプラセボと比較して、軸索損傷のマーカーである血清ニューロフィラメントライトの上昇を緩和した。より大規模なRCTを早急に実施する必要がある。

10項目のポジションスタンド

  1. アスリートはω-3 PUFA欠乏症のリスクが高い可能性がある。
  2. サプリメントを含むω-3 PUFAが豊富な食品は、ω-3 PUFAレベルを高めるための効果的な戦略である。
  3. ω-3 PUFAサプリメント、とくにエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)は、有酸素運動中の持久力と心血管機能を高めることが示されている。
  4. ω-3 PUFAサプリメントは、若年成人の筋肥大には効果をもたらさない可能性がある。
  5. ω-3 PUFAサプリメント摂取をレジスタンストレーニングと組み合わせると、用量と期間に依存して筋力が向上する可能性がある。
  6. ω-3 PUFAサプリメントは、激しい運動後の筋肉痛の主観的な測定値を減少させる可能性がある。
  7. ω-3 PUFAサプリメントは、運動選手のさまざまな免疫細胞反応に良い影響を与える可能性がある。
  8. 頭部への繰り返しの衝撃を受けるアスリートにおける、予防的なω-3 PUFA摂取は、神経保護効果をもたらす可能性がある。
  9. ω-3 PUFAサプリメントは、睡眠の質の改善に関連している。
  10. ω-3 PUFAはプレバイオティクスに分類されるが、アスリートの腸内細菌叢と腸の健康に関する研究は、現時点では不足している。

原題のタイトルは、「International Society of Sports Nutrition Position Stand: Long-Chain Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2441775〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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ハイレベルの女子アマチュアトライアスロン選手の3割にREDsリスクが認められるとする研究結果が、ポーランドから報告された。さらに、選手の5割に1種類以上のLEA関連症状が認められるという。また、LEAリスクの高低で二分すると、栄養素の摂取量には有意差がないものの、リスクの高い選手はタンパク質を植物性食品から摂る傾向がみられたという。

トライアスロンの人気の高まりとともに、REDsリスクの研究の必要性も高まっている

REDsは、Relative Energy Deficiency in Sportの略で、日本語では「スポーツにおける相対的エネルギー不足」と訳される。アスリートが長期または重度の「利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)」にさらされることで発症する症状・病態。骨代謝、免疫、心血管代謝、メンタルヘルス、および女性では月経機能や妊孕性などに影響が生じ、パフォーマンス低下、選手生命の短縮につながり、スポーツから引退後にも一部の影響が持続する。一般に持久系スポーツはLEA、そしてREDsのリスクが高いとされている。

LEAによるREDsは性別にかかわらず生じるが、女性では月経機能異常により把握されやすい。近年、トライアスロンの人気が高まり、女性の参加も増加しており、そのような集団ではREDsリスクが好発している可能性が想定される。ただし、データがまだ不足している。とくにトライアスロンは、比較的研究が行われてきているランナーと異なり、スイム(水泳)やバイク(自転車)も行うため、エネルギー基質は脂肪や脂肪酸の割合が多く、REDsリスクも従来の持久系競技での研究からの知見とは異なる可能性もある。

以上を背景として、今回紹介する論文の著者らは、ポーランド国内でトップクラスのアマチュア女子トライアスリートを対象に、REDsの有病率とその関連因子を検討した。

3日間の栄養素摂取量と活動量を把握し、LEAリスクスコアとの関連を解析

この研究には、ポーランド国内のオープンカテゴリーで上位20位以内、年齢別カテゴリーで上位10位以内の女性アマチュアトライアスリートを選択。18歳未満、BMI18.5未満、摂食障害の既往、妊娠中、閉経期、管理不良の糖尿病は除外した。事前の統計学的検討で、必要なサンプル数は16人以上と計算された。

FacebookとInstagramを通じた募集に22人が応募。食事・トレーニング日誌等への記入が不十分な選手を除外し、解析対象は20人となった。主な特徴は、年齢37.8±9.00歳、BMI21.6±2.03、競技歴5.5±2.5年、トレーニング時間11.0±3.76時間/週、1回のトレーニング時間84.3±25.4分。

REDs、LEAリスクの判定法について

研究参加者には、3日間にわたり、食事記録、トレーニング記録をとってもらい、手首タイプの活動量計を装着して生活してもらった。

LEAとREDsのリスク評価には、女性のLEA質問票(Low Energy Availability in Female Questionnaire;LEAF-Q)を用いた。LEAF-Qは、怪我、消化器症状、月経異常という三つのセクションに分かれた計25項目の質問からなり、通常、スコアが8以上の場合にREDsのリスクありと判定する。本研究でもそのカットオフ値を用いた。また、REDsの発症に先行して生じると考えられるLEAの兆候を検出する目的で、5点というカットオフポイントも設定。5点以下でLEA関連症状がない場合を、LEAである可能性が低い「low LEA(以下、L-LEA)」群、6点以上でLEA症状が一つ以上ある場合を、LEAである可能性が高い「high LEA(以下、H-LEA)」群と分類した。

エネルギー出納には差がないが、高リスク選手は植物性食品由来の栄養素摂取量が多い

では結果だが、LEAF-Qスコアが8点以上でREDsと判定される選手は、20人中6人(30%)だった。また、LEAF-Qスコア5点以下/未満およびLEA症状の有無に基づき、ちょうど半数の10人ずつがL-LEA群、H-LEA群に分類された。H-LEA群では、10人中8人に月経異常、3人に消化器症状、2人に怪我が確認された。

次に、消費エネルギー量に着目すると、絶対値および体重で調整した相対値ともに、有意な群間差はなかった。ただし、トレーニング時間はH-LEA群が9.5±1.35時間/週、L-LEA群が12.5±4.79時間/週で、LEAリスクが高い群のほうが短かった(p=0.0374)。

続いて栄養素摂取量については、主要栄養素はすべて群間差がなく、平均すると炭水化物が53%、タンパク質が18%、脂質が29%だった。

ただし、タンパク質を動物性と植物性に分けて比較した場合、植物性タンパク質の摂取量がH-LEA群26.6±13.3g/日、L-LEA群16.2±4.4g/日であり、わずかに有意水準未満ながら、LEAリスクが高い選手は植物性タンパク質を多く摂取する傾向があり、効果量(Cohenのd)は1.04と大きな値を示した。

また、多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、H-LEA群12.2±4.7g/日、L-LEA群8.2±2.2g/日であり、LEAリスクが高い選手のほうが有意に多く摂取していた(p=0.0115、d=1.09)。PUFAをn3とn6に分類して比較すると、n6において群間差が引き続き有意であり(p=0.0329、d=1.02)、n3は非有意となった(p=0.2066、d=0.59)。

このほかに、H-LEA群の選手は食物繊維の摂取量が多い傾向も認められた。

著者らは、本研究が対象をトップレベルの選手に限定したためサンプルサイズが小さくなったことから、結果解釈の一般化が制限される可能性があるという限界点を挙げたうえで、「植物性タンパク質、食物繊維、PUFAを多く含む食品は、エネルギー密度が低く、女性トライアスリートのLEAにつながる可能性があるのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「A Preliminary Study of Nutrients Related to the Risk of Relative Energy Deficiency in Sport (REDs) in Top-Performing Female Amateur Triathletes: Results from a Nutritional Assessment」。〔Nutrients. 2025 Jan 7;17(2):208〕 原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部


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女性アスリート特有の健康リスク抑制作用が期待される多価不飽和脂肪酸(PUFA)だが、栄養指導に際しては、単にPUFAの摂取量を把握するのみでなく、食事性炎症指数(DII)やω3指数を評価することの重要性を示唆する研究結果が報告された。摂南大学農学部食品栄養学科の藤林真美氏、京都華頂大学現代生活学部食物栄養学科の林育代氏、京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の坂根直樹氏らの研究によるもので、論文が「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」に掲載された。

女性アスリートとPUFA

女性アスリートに特有の健康障害として、トライアド(利用可能エネルギー不足、月経異常、骨粗鬆症という三主徴)の存在が古くから指摘されている。これに対して、心血管リスク抑制に関するエビデンスが豊富なω3脂肪酸が、骨代謝の改善、抗炎症、細胞内シグナル伝達のサポートなどによって、トライアドのリスク抑制にも寄与する可能性が示唆されている。また、トレーニングによる筋損傷や外傷性脳損傷からの回復促進効果も示されていて、ω3脂肪酸はアスリートが積極的に摂取すべき栄養素と考えられる。

一方、全身の慢性炎症が種々の疾患のリスクに深く関与していることが明らかにされ、慢性炎症の規定因子の一つとして食事の催炎症/抗炎症作用が注目されてきており、その評価指標として「食事性炎症指数(dietary inflammatory index;DII)」が用いられている。そのほか、血液中の総脂肪酸に占めるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)の合計の割合である「ω3指数(Omega-3 index;O3i)」も、食事の適切さを判定する指標の一つとして活用されている。ただし、女性アスリートのPUFA摂取量とDIIやO3iとの関連はこれまで十分検討されておらず、非アスリートとの相違の有無も明らかでない。

以上を背景として坂根氏らは、日本人女性アスリートおよび非アスリートを対象に、これらの評価指標同士の関連性を検討した。

女性アスリートと非アスリートを対象にPUFA摂取量、DII、O3iなどを調査

研究参加者は年齢18~29歳の女性とし、ω3サプリメント摂取、抗凝固療法、易出血傾向に該当する場合を除外して、74人のアスリート群と38人の非アスリート(対照)群を設けた。アスリートが行っている競技は、短距離42.4%、中距離3.4%、長距離5.1%、跳躍25.4%、ハードル6.8%、投擲13.6%などだった。

食事性炎症指数(DII)は、食事摂取状況を食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)で評価したのち、Shivappaらが開発した食品パラメーターごとの炎症スコアをもとに、環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」で用いられた手法により算出した。なお、DIIには脂肪酸摂取量のほかに、食物繊維や植物性化合物などの摂取量も反映される。

血中脂肪酸については、ひと晩絶食後の採血により、ω3脂肪酸(EPA、DHA、α-リノレン酸〈ALA〉)、ω6脂肪酸、飽和脂肪酸(SFA)、一価不飽和脂肪酸(MUFA)、トランス脂肪酸など、計22項目の脂肪酸を測定した。

このほか、生体インピーダンス法により体組成を測定。また、月経状態を質問し、3カ月以上月経がない場合は無月経と定義した。

アスリート群と対照群の特徴

アスリート群と対照群の特徴を比較すると、年齢は同順に19.7±1.2歳、20.0±0.9歳、BMIは21.1±2.4、20.3±2.4で有意差がなかったが、体脂肪率は21.2±5.1%、27.1±5.9%でアスリート群のほうが有意に低く、骨格筋量は23.5±2.6kg、19.4±2.7kgでアスリート群のほうが有意に多かった(いずれもp<0.001)。無月経の割合は、7.5%、2.7%で有意差がなかった(p=0.645)。<>

エネルギー摂取量は、アスリート群1,869±490kcal、対照群1,672±391kcalで、前者が有意に多かった(p=0.033)。エネルギー摂取量に対する主要栄養素の割合については、タンパク質はアスリート群、脂質は対照群で有意に高く、炭水化物は有意差がなかった。

脂肪酸の摂取量については、EPA(182.1±122.5 vs 120.4±78.0mg、p=0.002)、DHA(322.2±178.8 vs 226.9±120.0mg、p=0.004)はアスリート群が多く摂取していたが、SFA、MUFA、PUFA、ω3PUFA、ω6PUFA、ALAは有意差がなかった。

食事性炎症指数(DII)、ω3指数(O3i)は群間に有意差なし

食事性炎症指数(DII)は、エネルギー摂取量で調整した値である「E-DII(energy-adjusted dietary inflammatory index)」として比較すると、アスリート群1.96±2.65、対照群2.54±2.06であり前者のほうが低値だが有意差はなかった(p=0.237)。なお、DIIやE-DIIは値が高いほど催炎症作用が強いことを意味する。

ω3指数(O3i)もアスリート群4.88±1.37、対照群4.50±1.38であり有意差はなかった(p=0.173)。先行研究に基づき、O3iが8%以上を心血管疾患リスクが低いと定義すると、その割合はアスリート群が24.3%、対照群が42.1%でありアスリート群で少なかったが、有意差はなかった(p=0.082)。

このほかには、アスリート群は対照群に比較し、SFA/MUFA比(1.68±0.15 vs 1.49±0.15、p<0.001)、トランス脂肪酸指数(0.41±0.38>

次に、脂肪酸関連指標同士の関連性をみると、アスリート群においてO3iは、EPA+DHAの摂取量と正相関し(r=0.356、p=0.002)、DIIとは負の関連が認められた。一方、対照群ではいずれの関連も非有意だった。

また、エネルギー摂取量で調整した食事性炎症指数(E-DII)とO3iは、アスリート群(r=-0.284)、対照群(r=-0.514)の双方で有意な負の相関が認められた。その一方で、ω3PUFAの摂取量とO3iの関連は両群ともに非有意だった。

女性アスリートへの栄養指導にはPUFA摂取量ではなくDIIを評価

著者らは本研究のアスリート群の多くが陸上競技選手のため、結果解釈の一般化が制限されること、横断研究であることなどを限界点として挙げたうえで、以下のように結論づけている。

「DIIには食品中の催炎症性成分と抗炎症性成分の双方が反映される。われわれの研究結果は、ω3PUFA摂取量そのものを評価するよりもDIIのほうが、女性アスリートのO3iの予測において優れていることを示唆している。よって医療専門家とコーチは、女性アスリートのω3PUFA摂取量のみに頼るのではなく、DIIあるいはO3iに基づく栄養指導を検討する必要がある」。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Dietary Inflammatory Index with Omega-3 Index in Female Athlete」。〔J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2025;71(1):55-62〕 原文はこちら(J-STAGE)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、トランス脂肪酸指数(0.41±0.38>0.001)。無月経の割合は、7.5%、2.7%で有意差がなかった(p=0.645)。<>

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一般社団法人日本スポーツ栄養協会(理事長・鈴木志保子)主催の「志保子塾」の2025年度(第8期)前期が4月からスタートします。初めての方でも安心して参加できる内容で、毎回多くのビジネスパーソンが参加し、高い評価を得ています。

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特別編「熱中症の予防と水分補給法」

SNDJでは、これまで全6回のテーマに組み込まれていた熱中症や水分補給の講義を、2024年度より単独特別講義として開催することになりました。体内における水分の働き、必要な水分量と発汗のメカニズム、水分補給のしかた、熱中症症状の見極め方と予防法など、誰もが知ってほしい日常に活用できる知識盛り沢山の内容です。

夏の厳しい暑さはもちろん、湿気の多い梅雨時、乾燥で脱水しやすい冬と、熱中症予防と水分補給法は1年を通して、スポーツに携わる人だけでなく、すべての老若男女を対象に、様々な条件や状況に応じた対策があります。特に、学校やスポーツ現場で指導する方や企業の人事・総務で健康管理を行っている方はぜひ、この特別編を受講ください。

特別編 熱中症の予防と水分補給法

ライブ配信:2025年5月29日(木) 18:30~20:30 見逃し配信:2025年5月31日(土)~6月2日(月)

体内における水分の働き、必要な水分量と発汗のメカニズムから水分補給の重要性、熱中症症状の見極め方と予防法についても詳述します。

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2025年 前期 セミナー開催日程

第1回 スポーツ栄養の必要性 エネルギーと糖質の摂取

ライブ配信:2025年4月17日(木) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年4月19日(土)~4月21日(月)

スポーツ栄養とは? その意義とアスリートにおける栄養摂取の基本的考え方からスタート。エネルギー消費と代謝のメカニズム、最も重要なエネルギー源である糖質摂取の意義、糖質の選び方・食べ方、シーンに応じた摂取目安量、タイミング、グリコーゲンローディングやリカバリー活用のしかたなどについて詳しく解説します。

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第2回 タンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取とサプリメントの活用

ライブ配信:2025年5月15日(木) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年5月17日(土)~5月19日(月)

アスリートの脂質、タンパク質、ビタミン・ミネラルの摂り方を取り上げます。特に、タンパク質の適正な摂取量を知り、リカバリーや筋合成のためにどのように摂るとよいかを詳しく解説。摂りきれなかった栄養素を補うサプリメントの利用、競技力向上を目的に栄養素以外の成分をサプリメントで摂取するエルゴジェニックエイドとしての活用についても学びます。

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第3回 アスリートの食事、スポーツ栄養マネジメントを用いた栄養管理システムの活用

ライブ配信:2025年6月12日(木) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年6月14日(土)~6月16日(月)

アスリートの運動量に応じた適正量を知り、目標達成のためにどのような食品をどのタイミングで食べるか、食材選び、食事構成、補食・間食のとり方の極意を講義します。理に適った糖質とタンパク質の摂り方、食塩摂取の考え方、生活リズムと朝食の関係など、具体的なノウハウを学びます。

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第4回 試合期・遠征時の栄養管理

ライブ配信:2025年7月17日(木) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年7月19日(土)~7月21日(月)

通常の食事と試合期の食事は異なります。緊張や興奮からくる栄養状態への影響と対策を考えた試合前、試合当日の食事の原則・栄養管理のポイント、TPOに応じた糖質やタンパク質、水分摂取について講義します。

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第5回 アスリートにおける栄養面の課題~増量、エネルギー不足、貧血、疲労骨折を中心に~

ライブ配信:2025年8月21日(木) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年8月23日(土)~8月25日(月)

アスリートにおける栄養面の課題をテーマに、エネルギー不足による健康問題、治し方、予防策、様々な理由による貧血、疲労骨折の原因と予防、増量・減量の正しい行い方を講義します。"エネルギー不足"の弊害は、実はまだあまり知られていませんが、アスリートに限らず、子どもや高齢者、女性など、あらゆる世代に関わる大きな問題です。

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第6回 対象アスリート別栄養管理~ジュニアアスリート、女性アスリート、パラアスリートを中心に~

ライブ配信:2025年9月18日(木) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年9月20日(土)~9月22日(月)

選手の目標・課題達成のためのサポート計画に基づいた「スポーツ栄養マネジメント」の流れ、対象者別コンディション管理、評価のしかたを中心に講義を行います。女性の三主徴、発育発達期のエネルギー摂取の考え方、シニアやパラアスリートのサポートについても詳しく解説。

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スポーツ栄養WEB編集部


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シャーベット状の氷飲料(アイススラリー)を暑熱下運動前に摂取すると、運動中の過換気や脳血流量の減少などの生理的ストレスを軽減し、持久性パフォーマンスの向上に寄与することを示唆する研究結果が発表された。ただし、腹痛や下痢感などの副反応が生じた場合には、同様の効果が得られない可能性があるという。筑波大学の研究グループの研究によるもので、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

研究の概要:アイススラリーの有効性と、パフォーマンスに有利に働く条件

暑熱下持久的運動時において、運動時間の経過とともに深部体温は上昇する。このとき、必要以上に呼吸も増加し(換気亢進反応)、脳血流量の減少を招く。このことは、暑熱下における運動パフォーマンス低下や熱中症発症の一要因である可能性が提唱されている。

本研究では、若年男性を対象とした実験により、シャーベット状の氷飲料である「アイススラリー」を暑熱下持久的運動前に摂取することで、常温の同飲料を摂取した場合と比較して、運動中の深部体温が低下すること、換気量(肺が1分間に換気する空気量)が減少すること、脳血流量指標が増加することが明らかとなった。一方で、一部の研究対象者では、アイススラリーの摂取によって極度な胃腸障害(主観的な腹痛や下痢感)が生じ、換気量の減少や脳血流量指標の増加はみられなかった。興味深いことに、このような症状が現れた研究対象者を除いた場合、アイススラリーの摂取によって運動終盤の持久性パフォーマンスが有意に向上した。

以上のことから、運動前のアイススラリーの摂取は、暑熱下運動中の換気亢進反応および脳血流量の減少を軽減し、持久性パフォーマンスの向上に有効であることが示唆されるが、その効果は、胃腸障害が生じた場合には得られない可能性がある。

本研究の知見は、暑熱下における運動中の換気亢進反応および脳血流量の減少を軽減し、運動パフォーマンス低下や熱中症の発生を防ぐ具体的方策の提案に貢献すると期待される。

研究の背景:アイススラリーはどのように作用し、どのくらい有効なのか?

夏季の学校体育やスポーツ、労働現場における暑熱対策の確立は重要な課題となっており、さまざまな身体冷却方法が提案されている。例えば、暑熱下での運動前にシャーベット状飲料(アイススラリー)を摂取すると、運動時の深部体温※1上昇や知覚的ストレス※2が抑制され、持久的運動パフォーマンスが向上する可能性がある。しかし、運動前のアイススラリー摂取が、暑熱下運動時の生理的負担をどのように調節するかについては十分に解明されていない。このような情報は、より効果的なアイススラリーの摂取方法を確立する上で重要であるといえる。

暑熱下での持久的運動時には、時間経過とともに深部体温が上昇し、特に脳温の過度な上昇は、運動パフォーマンス低下や熱中症発生につながる。近年、深部体温上昇に伴って生じる過度な換気量※3の増加反応(換気亢進反応)が、脳温上昇を促進する可能性が提唱されている。その理由として、換気亢進に付随する血中二酸化炭素分圧の低下によって脳血管収縮を介した脳血流量の減少が起こり、脳での熱除去量が低下することが挙げられる。従って、暑熱対策を確立する上で、深部体温上昇だけでなく、換気亢進や脳血流低下反応を抑制する方策を考える必要がある。

本研究では、暑熱下の持久的運動前にアイススラリーを摂取することで、運動中の深部体温上昇を抑制するだけでなく、換気亢進や脳血流低下反応を軽減し、持久性パフォーマンスを向上させる、という仮説について検討した。

研究内容と成果:胃腸障害が現れなければ、アイススラリーがパフォーマンスにも有効

本研究では、12人の健常な若年男性を対象とし、体重1kgあたり7.5gのアイススラリー、または37°Cに温めた同飲料(コントロール)を30分間かけて摂取した後に、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、中強度の自転車運動を実施した。参加者のうち10人は、中強度運動に続いて高強度の自転車運動を疲労困憊まで行った(図1)。また、飲料摂取前後の安静時および運動時に、食道温および直腸温(深部体温の指標)、ピル温(胃腸温の指標)、呼吸代謝パラメーター(換気量など)、中大脳動脈平均血流速度(脳血流量の指標)、胃腸障害(主観的な胃の痛み、下痢感および膨満感)などを測定した。

図1 本研究の概要

参加者は、体重1kgあたり7.5gのアイススラリーまたは37°Cに温めた同飲料(コントロール)を30分間かけて摂取した。その後、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、中強度の自転車運動を実施した。また、中強度運動に続いて高強度運動を疲労困憊まで行い、持久性パフォーマンスを評価した。その結果、アイススラリー条件でコントロール条件より、(1)中強度運動中の深部体温が低下すること、(2)換気量が減少すること、(3)脳血流量指標が増加すること、(4)極度の胃腸障害を伴わない場合に持久性パフォーマンスが向上することが示された。

(出典:筑波大学)

その結果、中強度運動時において、深部体温の指標である食道温および直腸温は、アイススラリー条件でコントロール条件よりも低値を示した。これに伴い、換気量はアイススラリー条件で低値を、脳血流量指標はアイススラリー条件で高値を示した。一方で、主観的な腹痛や下痢感は、アイススラリー条件でコントロール条件よりも高値を示した。

高強度運動を実施した10人中8人で、運動の継続時間はアイススラリー条件でコントロール条件よりも延長したものの、統計学的な有意差はみられなかった。しかし、アイススラリー摂取によって換気量や胃腸障害が極端に増加した参加者を除くと、高強度運動継続時間はアイススラリー条件でコントロール条件よりも有意に延長した。

以上のことから、暑熱下の持久的運動前にアイススラリーを摂取することは、運動中の換気亢進や脳血流低下反応を軽減し、持久性パフォーマンスを向上させることが期待されるが、その効果は、極度の胃腸障害が生じた場合には得られないことが推察される(図1)。

今後の展開:暑熱下でのパフォーマンス最適化のための摂取方法確立に向けて

本研究により、アイススラリーは正と負の両方の効果を発揮する可能性が示された。研究グループでは、「今後、アイススラリーの有害な影響を最小限に抑える方策の検討を進めることにより、暑熱下での運動パフォーマンスを最適化するための摂取方法が確立されると期待される」としている。

プレスリリース

アイススラリー摂取は暑熱下運動中の過換気や脳血流量の減少を軽減する(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Ice slurry mitigates hyperventilation and cerebral hypoperfusion, and may enhance endurance performance in the heat」。〔Med Sci Sports Exerc. 2025 Feb 3〕 原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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スポーツ栄養Web編集部


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小学校から高校の児童や生徒が校内で心停止に陥った際に、AEDが搬送されかどうかに影響を与える因子が明らかになった。患者が女子生徒 である場合やスポーツ以外の課外活動中に発生した場合に、AEDが搬送されないケースが多いという。大妻女子大学家政学部食物学科の清原康介氏らの研究によるもので、論文が「Acute Medicine & Surgery」に掲載された。

「誰もがためらうことなくAEDを現場へ届ける」ことの達成に必要な改善点を探る

院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest;OHCA)が発生した場合、その場に居合わせた人(バイスタンダー)が迅速に119番通報、周囲への協力要請、および、自動体外式除細動器(automated external defibrillator;AED)使用を含む一次救命措置を行うことが救命率を大きく左右する。近年、地域社会へのAEDが普及してきているが、それを救命率向上に結び付けるために、個人個人が自分もバイスタンダーとなり得ることを意識し、そのような事態を目撃した際にためらいなく対応することが求められる。

子どもがOHCAを起こすことは、成人に比べて多くはない。しかし、発生した場合の家族や教育現場に与える衝撃は大きく、対策として国内の大半の学校にAEDが既に設置されている。それにもかかわらず、校内でOHCAが発生した際に、AEDが適切に使用されていなかったケースも報告されている。

清原氏らはこれまでにも教育環境下でのOHCAに関する研究を行ってきており、今回新たに、学校内で発生したOHCAにおいて、AEDが現場に搬送されかどうかに影響を与える因子や、AED搬送率の経時的な変化の検討を行った。

SPIRITSのデータを用いてAED搬送に関与する因子を検討

この研究は、教育環境におけるOHCAや外傷などの予防のための研究「SPIRITS(Stop and Prevent cardIac aRrest, Injury, and Trauma in Schools)」の一環として行われた。SPIRITSでは、日本スポーツ振興センター(Japan Sport Council;JSC)の災害共済給付制度と、消防庁のウツタイン(蘇生)データ登録制度という2件の大規模データを統合したレジストリが構築されており、国内の児童・生徒のOHCAをほぼすべて把握できる。

解析対象は、2008年4月~21年12月に記録されていたOHCAのうち、バイスタンダーや救急隊員によって救命措置がなされていた症例であり、非外傷性OHCA、学校の敷地外で発生したケース、および救急隊到着後にOHCAに至った症例は除外した。

なお、本研究ではAEDが現場に搬送されたか否かのみに焦点を当て、救命が成功したか否かは主要評価項目でなかった。

AED搬送率は経年的に上昇しているが、女子生徒などでは変化が乏しい

前記の期間中の学童・生徒の非外傷性OHCAは476件であり、そのうち333件が学校の敷地内で発生し、本研究の解析対象とされた。

333件中249件(74.8%)は患者が男子であり、身体活動中の発生が多く、体育の授業中が116件(34.8%)、スポーツクラブ活動中が149件(44.7%)であった。発生場所は屋外運動場が159件(47.7%)、体育館が80件(24.0%)、プールが32件(9.6%)だった。発生機序については大半(297件〈89.2%〉)は心原性だった。

患者が女子生徒の時や、スポーツ以外の課外活動中は、AEDが搬送されないことが多い

294件(88.3%)でバイスタンダーの存在が確認され、284件(85.3%)でバイスタンダーによってAEDが現場に搬送されていた。

AEDが現場に搬送されたケースは、患者の性別での比較では男子の場合(搬送された割合が90.0%)のほうが女子(同71.4%)より多かった。発生のタイミングでの比較では、体育の授業中(91.3%)やスポーツの課外活動中(85.5%)は多く、スポーツ以外の課外活動中(73.5%)は少なかった。学校の種別、バイスタンダーの有無、発生場所、発生時間帯については有意差がなかった。

多変量解析の結果、患者が女子生徒であること(リスク比〈RR〉0.849〈95%CI;0.738~0.977〉)、およびスポーツ以外の課外活動中であること(RR0.764〈0.587~0.996〉)はいずれも、AEDが現場に搬送された割合が低いことと独立した関連が認められた。

患者が女子生徒、体育関連設備以外・週末の発生では、AED搬送率が改善していない

次に、2008~21年を3年ごとに区分けして経時的変化を検討。すると、バイスタンダーによるAED搬送がなされた割合は、2008~10年の73.7%から2020~21年の93.3%へと有意に上昇していた(傾向性p<0.001)。<>

性別や学校種別、発生場所・状況などで層別化した解析でも、大半のサブグループでAED搬送率の経年的な有意な上昇が認められたが、患者が女子生徒(傾向性p=0.113)やスポーツ以外の課外活動中(同0.343)、非心原性OHCA(同0.245)、体育・スポーツ関連設備以外(教室内など)での発生(同0.872)、週末(同0.371)などでは、有意な変化が認められなかった。

AEDが搬送されていたケースでは予後良好

AED搬送の有無で予後を比較すると、搬送されたケースでは、最初の心電図所見にAED作動の条件である心室細動が記録された割合が82.0%、搬送されていなかったケースではその割合が49.0%だった(p<0.001)。<>

また、1カ月後に生存して良好な脳機能(cerebral performance categoryという指標で1または2〈日常生活に支障がないか軽度であって自立した生活が可能〉)を有していた割合は、前者は55.6%、後者は24.5%であった(p<0.001)。<>

これら一連の結果を基に著者らは、「学校内での非外傷性OHCA発生時のバイスタンダーによるAED搬送率は、経時的に有意に上昇してきた。ただし、女子生徒やスポーツ以外の課外活動中の発生については、まだ改善の余地がある。日本循環器学会が掲げる『学校での心臓突然死ゼロを目指して』の目標達成のために、さらなる努力が必要とされる」と総括している。

なお、女子生徒に対するAED搬送率が有意に低く、その改善速度も遅いことの考えられる理由として、先行研究を基に、救助者が男性であった場合に性的な意図を持っていたとの疑いがかけられるリスクを回避するという心理が関与している可能性を指摘し、「市民がそのような懸念を抱かずに緊急援助を行い得るための啓発活動も求められる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Factors influencing the delivery of automated external defibrillators by lay rescuers to the scene of out-of-hospital cardiac arrests in schools」。〔Acute Med Surg. 2025 Jan 24;12(1):e70040〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部

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国内の男性ラグビー選手を対象とする調査から、古典的な男性的価値観の一部である「過度な自律」を重視することが、メンタル的に困難な状況に直面した際に周囲へ助けを求めることを妨げる可能性があることが明らかになった。国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所の小塩靖崇氏らの研究によるもので、その成果は「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に掲載された。

身体能力の高い男性選手は常に“男らしく”あらねばならないのか?

トップアスリートは、日々激しい競争にさらされ、また周囲からの高い期待を受けながら、つねに強いプレッシャーの中で過ごしている。このようなストレスフルな状況は、不安症やうつ病などのリスクを高める。しかし、そういったメンタルの不調を抱えていることが他者に知られると、「弱さ」と見なされ、レギュラー入りや代表選考などにおいて不利に評価されることが少なくない。

このようなスティグマ(社会的烙印)の影響はとくに、「強靭な肉体」をもち「男らしくあること」が求められる男性選手により強く表れると考えられる。その典型的な競技の一つがラグビーであり、小塩氏らはこれまでも国内のエリートレベルの男性ラグビー選手を対象としたメンタルヘルスに関する研究を行ってきた。今回の研究では、選手本人が「自律的であるべき」と考える意識が、助けを求める必要性の認識、その意思および実際の行動とどのように関係しているのかを調査した。

ジャパンラグビーリーグワンの現役選手を対象にweb調査を実施

本調査は、日本ラグビーフットボール選手会に属し、リーグワン(1部)のリーグ戦に出場している18歳以上のエリートレベルの選手541人を対象に、webアンケートとして実施された。347人(64.1%)が回答し、そのうちすべての質問項目に回答した220人を解析対象とした。

解析対象者のおもな特徴は、年齢27.97±3.98歳、ラグビー経験16.97±5.00年、既婚46.82%であった。居住状況は、家族と同居が50.00%、独居が22.27%、寮生活が27.73%。12.73%の選手は日本代表メンバー経験を有していた。

古典的な男性的価値観の評価方法

古典的な男性的価値観は、「IMVS(Intentions Masculine Values Scale)」を用いて評価した。IMVSは海外で開発され、精度が検証された指標であり、本研究では、日本語に翻訳した後に英語へ再翻訳し、IMVSの開発者に確認・承認を得たうえで使用した。IMVSでは、「男性は他者に気を遣うべき」、「男性は決断を自分ですべき」など8項目の質問について、5段階のリッカートスコアで回答を得て、総合スコアおよび「解放的で無私」「健康的かつ自律的」の二つのサブスケールスコアを算出した。本研究におけるIMVSの総合スコアは20.95±5.21点、「解放的で無私」のスコアは9.43±3.06点、「健康的かつ自律的」のスコアは11.52±2.79点であった。

自律性の高さが、メンタル不調時のサポート要請を妨げる可能性

メンタルヘルス上の問題への対処について、本研究では次の3つの項目について調査を行った。「専門家のサポートを求める必要性の認識」、「サポートを求めようとする態度」、「実際にサポートを受けるという行動」。

一つ目の「専門家のサポートを求める必要性の認識」は、「メンタルヘルス上の問題が生じた際に専門家のサポートが必要だと思うか」と質問。その結果、全体の60.0%がサポートの必要性を認め、9.5%がその必要性を否定した。

二つ目の「サポートを求めようとする態度」は、「自分がメンタルヘルス上の問題を抱えていると感じた場合、専門家にサポートを求める可能性はどの程度か」と質問。その結果、47.7%は「サポートを求める可能性がある」と回答し、17.8%は「求めない」と予測した。

三つ目の「実際にサポートを受ける行動」については、「過去3カ月以内に、うつ病や不安などの症状で実際に相談やサポートを受けたか」と質問。その結果、59.1%が「そのような状況ではなかった」と回答した。一方、21.8%はメンタルヘルス上の問題を抱えていたにもかかわらず、相談やサポートを求めていなかった。実際に相談やサポートを求めた場合は19.1%であった。。

「開放的で無私」を重視する価値観は、サポートの認識や態度と相関するが、行動とは関連せず

IMVSで評価された「開放的で無私」な価値観は、「専門家のサポートを求める必要性の認識」と有意に相関していた(β=0.059、p=0.009)。また、「サポートを求めようとする態度」とも有意な相関が認められた(β=0.064、p=0.006)。

しかし、過去3カ月以内にうつ病や不安などの症状があったと回答した選手に限定した解析では、「実際に相談やサポートを求める行動」との関連は認められなかった。つまり、日頃の考え方や態度が、実際の行動には必ずしも結びつかないことが示唆された。

「健康的かつ自律的」を重視する価値観は、必要な時にサポートを求めなかったことと有意に相関

一方、IMVSで評価された「健康的かつ自律的」を重視する価値観は、「専門家のサポートを求める必要性の認識」との相関は有意水準未満(p=0.054)で、「サポートを求めようとする態度」とは関連も認められなかった(p=0.586)。

さらに、過去3カ月以内にうつや不安などの症状が出現したと回答した選手に限定した解析では、「実際に相談したりサポートを求めなかったこと」と、有意な関連が認められた(β=0.266、p=0.014)。つまり、古典的な男性的価値観の一つである過度な自律性を意識している選手ほど、メンタルの不調時周囲への助けを求めることを避ける傾向があった。

行動の変化に結びつく指導や環境改善が必要

著者らは、本研究が横断研究であるため因果関係は不明なこと、また自己申告の回答に基づく解析であるためバイアスのリスクがあることを限界点として挙げた。そのうえで、研究の結論を以下のようにまとめている。

「我々の研究結果は、日本の男性ラグビー選手において、男性的な価値観と必要な時にメンタルヘルス上のサポートを求める行動との間に大きなギャップがあることを示している。アスリートの精神的健康のリスクに対する認識を高め、態度の変容を促し、実際にサポートを求める行動につなげるための取り組みが必要である。また、本研究の知見を一般化するためには、他の競技のアスリートや異なる文化的背景をもつ集団を対象とした研究が求められる」。

文献情報

原題のタイトルは、「Mental health help-seeking knowledge, attitudes and behaviour among male elite rugby players: the role of masculine health-related values」。〔BMJ Open Sport Exerc Med. 2025 Jan 31;11(1):e002275〕 原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

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スポーツ栄養Web編集部


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日本の若年成人を対象に、超音波画像法で評価した体幹部骨格筋の厚さやエコー強度(筋内脂肪蓄積度の指標)と、習慣的な栄養素摂取量や動脈硬化度などとの関連を検討した結果が報告された。栄養素摂取状況と骨格筋量および筋内脂肪蓄積度との関連は、男性においてのみ有意であった一方、女性の筋内脂肪蓄積度は動脈硬化度の指標との関連が有意だという。なお、この結果は名古屋大学総合保健体育科学センター/大学院教育発達科学研究科の北川芙南氏および田中憲子氏らの研究グループによるもので、「PLOS One」に掲載された。

四肢より加齢変化が早く現れる体幹部骨格筋の量・質と栄養素摂取状況との関係を若年男女で検討

骨格筋の萎縮(筋量の減少)や質の低下(筋内脂肪の蓄積)は、心血管代謝や身体機能低下などのリスクと関連することが知られている。また、加齢に伴う骨格筋の量や質の低下は、四肢よりも体幹の方が早く現れることが報告されている。よって、体幹部における骨格筋の量や質の低下に関連する因子の特定が重要と考えられる。

骨格筋の量や質に影響を及ぼし得る因子として、筋力トレーニングとともに、栄養素の摂取状況が該当する。骨格筋の量や質に関する研究は、高齢者を対象としたものが多く、若年者、特に女性での知見は少ない。また体幹部骨格筋の量や質と、栄養素摂取状況との関係については不明な点が多い。

これらの背景のもと、北川氏らは、若年の男性と女性を対象として、体幹部骨格筋の量や質と、栄養素摂取状況および動脈硬化度などとの関連を検討した。なお、骨格筋の量や質を評価するゴールドスタンダードはCTまたはMRIだが、本研究はコストや結果の汎用性を鑑み、超音波画像法による筋厚(骨格筋の量の指標)とエコー強度(骨格筋の質の指標)を用いた検討を行った。

研究対象者と評価指標について

研究対象者は、20~26歳の日本人の男性26人、女性24人であった。年齢の中央値は男性・女性ともに22.0歳であった。男性・女性とも、運動習慣を持つ者は含まれていなかった。

習慣的な栄養素摂取量は、簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)で把握した。また、身体活動質問票(global physical activity questionnaire;GPAQ)により日常の総エネルギー消費量を把握した。

体格部骨格筋の量と質は、超音波画像法を用いて、第3腰椎の高さにおける筋厚とエコー強度により評価した。このほか、動脈硬化度の評価のため、上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)を測定した。また、採血により糖・脂質代謝の指標を測定した。

若年男性は体幹部骨格筋の量や質が栄養素摂取状況と有意に関連し、若年女性は体幹部骨格筋の質が動脈硬化度と有意に関連

では結果について、まずは主な評価項目の測定結果を性別にみていこう。なお、正規分布していない測定パラメータが多かったため、結果はすべて中央値で報告されている。

男性

体格指数(BMI)は20.9 kg/m2、ウエスト周囲長は74.0 cmであった。エネルギー摂取量は1,996 kcal、各栄養素のエネルギー比率は、タンパク質:14.8%、脂質:29.9%、炭水化物:55.0%、飽和脂肪酸(SFA):7.8%、一価不飽和脂肪酸(MUFA):11.0%、多価不飽和脂肪酸(PUFA):6.8%であった。総エネルギー消費量は1,735.7 kcalであった。

体幹部骨格筋の筋厚(trunk muscle thickness;trunk MT)は16.5 mm、体幹部骨格筋のエコー強度は51.4 a.u.(任意単位)であり、trunk MTを体重の立方根(3分の1乗)で除した補正値(trunk MT/BM1/3)は4.2 mm/kg1/3だった。baPWVは1、080.3 cm/秒だった。

女性

BMIは19.6 kg/m2、ウエスト周囲長は70.0 cmだった。エネルギー摂取量は1,540 kcal、各栄養素のエネルギー比率は、タンパク質:14.1%、脂質:31.9%、炭水化物:53.2%、SFA:8.7%、MUFA:11.4%、PUFA:7.2%だった。エネルギー消費量は1,452.0 kcalだった。

Trunk MTは13.8 mm、体幹部骨格筋のエコー強度は55.8 a.u.、trunk MT/BM1/3は3.6 mm/kg1/3、baPWVは994.0 cm/秒だった。

体幹部骨格筋の量と有意に関連する因子

次に、体幹部骨格筋の量の指標である、筋厚を体重で補正した値(trunk MT/BM1/3)と、各評価指標との関連を、スピアマンの順位相関係数(rs)を算出して検討した。すると、trunk MT/BM1/3は、男性において、炭水化物のエネルギー比率と負の相関(rs=-0.402、p=0.042)を、PUFAのエネルギー比率と正の相関(rs=0.476、p=0.014)を示したが、女性では有意な相関を示した栄養素はなかった。

エネルギー摂取量、総エネルギー消費量、BMI、ウエスト周囲長、baPWV、および採血による糖・脂質代謝の指標は、性別を問わず、いずれもtrunk MT/BM1/3と有意な関連を示さなかった。

体幹部骨格筋の質と関連のある因子

続いて、体幹部骨格筋の質を表すエコー強度と各評価指標との関連を検討すると、男性においてはSFAのエネルギー比率と正の相関(rs=0.397、p=0.045)が認められたが、女性では有意な関連のある栄養素はなかった。一方、女性ではエコー強度とbaPWVとの間に正の相関(rs=0.504、p=0.012)が認められ、骨格筋の質が動脈硬化度と関連していることが示唆された。

エネルギー摂取量、エネルギー消費量、BMI、ウエスト周囲長、および採血による糖・脂質関連指標は、性別を問わず、いずれも体幹部骨格筋のエコー強度と有意な関連を示さなかった。

以上の結果を基に、著者らは、「若年成人男性では、日常における栄養素摂取状況(炭水化物や多価不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸のエネルギー比率)が、体幹部骨格筋の量および質と有意に関連していた。一方、若年成人女性では、動脈硬化度が体幹部骨格筋の質と有意に関連していた。これらのデータは、体幹部骨格筋の量や質に関連する因子が、若年の男性と女性とで異なることを示唆している」と総括。また、「若年男性では習慣的な栄養素摂取状況が、若年女性では動脈硬化度が、体幹部骨格筋の量や質の予測マーカーとなり得るのではないか」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Factors associated with trunk skeletal muscle thickness and echo intensity in young Japanese men and women」。〔PLoS One. 2025 Jan 6;20(1):e0312523〕 原文はこちら(PLOS)

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スポーツ栄養Web編集部


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高齢者のエネルギー摂取量は食事の同伴者数がいる場合に高く、また米や肉、油脂、野菜、果物の摂取量も有意に多いといった関連があり、同伴者の存在が低栄養リスク抑制に働いている可能性が報告された。大阪公立大学大学院生活科学研究科の鵜川重和氏らが、地域住民対象研究のデータを解析した結果であり、「Nutrients」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。

加齢による影響を除外できる研究デザインで検討

高齢者の栄養素摂取量が減少しがちな理由として、味覚の低下、疾患および疾患に対する治療薬、老年期うつなどの影響とともに、単身世帯の増加を背景とする“孤食”も挙げられる。国内において高齢者の単身または夫婦のみの世帯の割合は、1986年には31.3%であったものが、2022年には63.9%と倍以上に増加している。

これまでに、食事の席の同伴者の有無と摂取量との関連については複数の報告がある。ただし、高齢者を対象とした研究は多くなく、また交絡因子の調整が十分でないことから、明確なエビデンスは確立されていない。さらに、同伴者の有無によって、どのような食品群の摂取量に差が生じているのかは、ほとんど明らかにされていない。

以上を背景として鵜川氏らは、愛知県日進市で行われた、都市郊外の地域在住高齢者対象疫学研究(New Integrated Suburban Seniority Investigation;NISSIN)のデータを用いて、これらの点を検討した。NISSINは、1996~2005年にわたり毎年、翌年に65歳の誕生日を迎え高齢者となる集団を登録するという年齢別コホート研究であり、研究参加時点で年齢範囲が限定されている。そのため、加齢に伴う同伴者の減少や摂取量の低下などの程度は、研究参加者間の差が少ない集団と想定され、それらの影響をあまり受けずに、同伴者の有無や多寡と摂取量との関連を解析できる。

同伴者の有無や多寡と栄養素や食品群の摂取量との関係が明らかに

解析対象はNISSINに参加した64~65歳の地域在住高齢者のうち、データ欠落やエネルギー摂取量が極端な人(性別の平均値から3標準偏差以上の乖離)を除外した2,865人(男性50.0%)。健診受診時に、平日の夕食を一緒に食べる人の平均的な人数を質問し、また食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)により食品および栄養素の摂取量を評価した。このほか、健診やアンケートによって、BMI、教育歴、居住環境(独居/同居)、喫煙・飲酒・運動(歩行)習慣、抑うつ、手段的日常生活動作(IADL)、高血圧・糖尿病・脂質異常症・癌の既往といった交絡因子に関する情報を把握した。

その結果、夕食における同伴者数は、0人(本人のみの孤食)が6.8%、1人が65.3%、2人以上が27.9%だった。参加者全体の1日のエネルギー摂取量は1,882±570kcalであり、主要栄養素の摂取量は、タンパク質72.2±26.7g、脂質52.8±21.9g、炭水化物255.1±79.8gだった。

食事の同伴者数が多いほどエネルギー摂取量が多い

前記の交絡因子をすべて調整した解析の結果、1日のエネルギー摂取量は、同伴者なし群に比べて同伴者が2人以上の群は143.85kcal(95%CI;30.05~257.65)有意に多く、また同伴者が多いほどエネルギー摂取量が高いという有意な関連が認められた(傾向性p=0.01)。

同様の解析で、脂質の摂取量は同伴者なし群に比べて同伴者が1人の群は4.39g(0.21~8.58)、同伴者が2人以上の群は6.78g(2.44~11.12)、それぞれ有意に多く、同伴者が多いほど脂質摂取量が多いという有意な関連が認められた(傾向性p=0.002)。

タンパク質については、同伴者が1人の群は5.50g(0.42~10.59)、同伴者が2人以上の群は6.32g(1.05~11.59)、それぞれ有意に多く、また炭水化物は同伴者が2人以上の群で17.43g(1.48~33.37)有意に多かった(タンパク質と炭水化物の傾向性は有意水準未満)。

食事の同伴者数が多いほど米や肉、油脂、野菜、果物の摂取量が多い

次に、同伴者の有無や人数と摂取している食品群との関連を解析すると、前記の交絡因子をすべて調整後、米(傾向性p=0.003)、肉、油脂類(いずれも傾向性p<0.001)、果物(傾向性p=0.01)は、同伴者が多いほど摂取量が多いという有意な関連が認められた。<>

これら以外にも傾向性は非有意ながら、同伴者なし群に比べて、きのこ類(同伴者1人群で2.11g、2人以上群で2.48g)、牛乳・乳製品(同伴者1人群で37.45g)、緑黄色野菜(同24.77g)、緑黄色以外の野菜(同伴者2人以上群で13.84g)、それぞれ1日の摂取量が有意に多いという違いが観察された。

著者らは、本研究が横断研究のため因果関係は不明なこと、食事の同伴者数は夕食についてのみ評価した一方で摂取量は1日全体で評価していることなどを限界として挙げている。そのうえで、「2人以上の同伴者と食事を摂っている高齢者は、米、油脂、肉、果物、緑黄色野菜以外の野菜、きのこ類という食品群、および、タンパク質、脂質、炭水化物という栄養素の摂取量が増え、エネルギー摂取量が多いことが明らかになった。これは、高齢者が同伴者とともに食事をすることによって、食事の質が改善し低栄養リスクが低下する可能性を示唆している」と結論づけている。

なお、同伴者がいることで摂取量が増えることのメカニズムとしては、先行研究の報告を基に、「食事の時間が長くなったり、摂食速度が速くなったりするためではないか」との考察が加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Association of Dining Companionship with Energy and Nutrient Intake Among Community-Dwelling Japanese Older Adults」。〔Nutrients. 2024 Dec 26;17(1):37〕 原文はこちら(MDPI)

関連情報

大阪公立大学プレスリリース

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、果物(傾向性p=0.01)は、同伴者が多いほど摂取量が多いという有意な関連が認められた。<>

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短期間の筋力トレーニング中、湯船(36°Cと40°Cの2パターン)に浸かる入浴をするか、シャワーで済ませるかという三つの条件で、筋力や筋機能、心血管機能に差が生じるのかを検討した結果が報告された。中京大学大学院スポーツ科学研究科の渡邊航平教授と竹田良祐特任助教らの研究であり、「Physiological Reports」に論文が掲載された。40°Cの湯船への入浴は快適感が高く、かつ主観的な回復が有意に促進されることが示されたほか、筋力がより大きく向上する傾向が観察されたという。

入浴やシャワー浴は、筋トレによる心血管系への負担を軽減し、健康効果を高めるか?

筋力トレーニングが体組成や骨密度、関節機能、代謝の維持・改善につながることは広く知られている。ただし、負荷が強すぎる場合には筋疲労が遷延し、トレーニングの反復回数が減って、メリットが減弱してしまう。また、収縮期血圧や脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)などの動脈硬化関連指標に負の影響を及ぼし得ることが報告されている。

一方、冷水または温水への浸漬は筋疲労の回復促進法の一つとして定着しており、また温浴を含む温熱療法は心血管機能に対して保護的に働くことがメタ解析の結果として示されている。これらの知見から、家庭内で容易に実行できる入浴という行為が、筋トレに伴う疲労の回復や筋トレ効果の拡大、心血管系リスクの抑制につながる可能性が想定される。以上の理論的な背景の下、渡邊教授監修のもと、竹田氏らが入浴の効果を検証する以下の検討を行った。

若年男性をシャワー浴、低温浴、適温浴の3群に分けて、筋トレの急性反応を比較

研究対象は、筋骨格系疾患や心血管代謝疾患などの既往がない健康な31人の若年男性(20.8±0.5歳)。現喫煙者、BMI30超、ふだん筋トレを行っている人は除外されている。なお、後述のように湯船の湯の温度を一定に保つ必要があったため、自動温度調節機能のある浴槽を備えた家屋に住んでいる人を対象とした。

介入方法について

ベースラインの最大随意等尺性収縮(maximum voluntary isometric contraction;MVIC)トルクに群間差が生じないように配慮したうえで、シャワー浴のみ群(対照群〈10人〉)、36°Cの湯船に浸かる群(低温入浴群〈10人〉)、40°Cの湯船に浸かる群(適温入浴群〈11人〉)の3群に分類。2週間の慣熟期間(その習慣に慣れるための期間)に引き続き、2週間の筋トレ介入を行った。3群間に年齢や身長、体重、介入前の四肢骨格筋量に有意差はなかった。

なお、湯船の36°Cおよび40°Cという温度は、前者は心血管に影響を及ぼさない温度、後者は平均的な入浴温度という先行研究の報告に基づき設定した。また、シャワーを浴びる時間および湯船に浸かる時間はいずれも10分間とし、入浴の時間帯は任意とした。

筋トレには等尺性膝関節伸展運動を用い、最大発揮筋力の60%の強度で5秒運動、5秒休息×10回を1セットとして、2分間のインターバルで3セットの計30回を2週間以内に5回課した。このプロトコルは、筋トレによる筋肥大の影響を抑制しつつ、急性適応を把握し得る手法として採用した。

評価項目について

介入効果は、筋力の指標としてMVICトルクの変化、筋機能の指標として電気刺激で誘発した不随意等尺性収縮トルクの変化、心血管機能の指標としてPWVや心拍数、平均血圧を評価した。このうち、不随意等尺性収縮は10Hzと100Hzで刺激した反応の比を計算し、その値が高いほど筋機能が高いと評価した。

このほか、入浴の快適度や筋トレによる疲労の回復について、アンケートにより主観的な評価の回答を得た。前者は-3(非常に不快)、-2(不快)、-1(やや不快)、0(どちらでもない)、1(やや快適)、2(快適)、3(非常に快適)から選択してもらい、後者は0(回復なし)、1(わずかな回復あり)、2(回復あり)、3(顕著な回復あり)から選択してもらった。

なお、これらの評価の24時間前からは激しい運動、12時間前からはアルコールとカフェインの摂取を禁止した。では、結果をみていこう。

40°Cの入浴で筋力増強がサポートされ、回復が促進される可能性

筋力の変化は3群間で非有意ながら、適温入浴群の効果量が大

まず、筋力に対する影響は、3群間で有意差は認められなかった。ただし、効果量(partialη2)は、対照群が0.156であり小、低温入浴群は0.307で中、適温入浴群は0.450で大と判定された。つまり、筋トレによる筋力増強効果は適温入浴群でもっとも高かった。筋機能に関しては対照群でのみ有意に上昇していた(筋トレの前後での比較でp=0.020)。つまり、筋トレに対する急性の適応は、シャワー浴でのみ生じていた。

湯船に浸かる入浴では筋トレに対する急性の適応が観察されなかったことの理由として、論文内では先行研究の知見を援用し、「温水浴によって筋のダメージが軽減されたことが、短期間の運動負荷による急性適応反応を減弱させたのではないか」との考察が加えられている。

心血管機能は3群いずれも変化なし

次に、心血管機能の指標として評価したPWVや心拍数、平均血圧に関しては、3群すべてで有意な変化が観察されず、群間差もみられなかった。

筋トレの負荷で心血管機能に有意な負の影響が生じなかった理由として、研究対象が心血管リスクの低い若年者であったこと、筋トレの強度が強くなく、また急性反応をみるという目的から介入期間が短期であったことが考えられるという。

快適さや主観的な回復は適温入浴が優れる

続いて入浴の快適さについては、シャワー浴群が0.25±1.58、低温入浴群が-1.17±2.14、適温入浴群が1.55±1.69であり、適温入浴群は低温入浴群より有意に快適と評価されていた。また、筋トレ後の主観的な回復の程度は同順に、0.75±1.04、0.67±0.82、1.36±0.50であり、適温入浴群は低温入浴群より有意に回復が速いと評価されていた。

まとめると、自宅での入浴、とくに40°Cでの入浴は筋トレの筋力増強を促す傾向が認められ、主観的な回復を促進した。一方で筋肉の機能に対する短期的な正の影響は、シャワー浴でのみ認められた。心血管機能に関しては、本研究では筋トレの前後で変化がなく、入浴やシャワー浴にかかわらず悪影響は認められなかった。

著者らは、このトピックに関する今後の研究課題として、運動負荷をより強めたり、入浴のタイミングを一致させたりしたうえでの検討の必要性を述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of home-based hot bathing on exercise-induced adaptations associated with short-term resistance exercise training in young men」。〔Physiol Rep. 2025 Feb;13(3):e70188〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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悲しい曲や楽しい曲、どちらでもない曲を聞きながら、指示された関節角度の再現精度を調べた結果、楽しい曲を聞きながらの誤差が最も大きく、悲しい曲を聞きながらの誤差が最も小さくなることがわかった。東北大学の研究チームの研究によるもので、「Scientific Reports」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

発表のポイント

  • 感情がスポーツなどのパフォーマンスを左右することは古くから知られていたが、動きの正確性にどのように影響するかは不明だった。
  • 研究参加者が、悲しい・楽しい・どちらでもないと感じる曲を選び、それぞれを聞かせながら指示された関節角度の再現精度を確かめた。
  • 楽しい曲を聞きながらの誤差が最も大きく、悲しい曲を聞きながらの関節角度再現(関節位置覚※1の誤差が最も小さくなることがわかった。
  • 関節角度の調節は、固有知覚※2に基づく中枢神経系の運動制御により遂行されているが、想起される感情により運動制御への影響が異なることが明らかになった。

研究の背景:トレーニングを積んでも本番でミスをするのはなぜ?

トップアスリート・演奏家や熟練工のパフォーマンスは、身体各所の関節の正確な制御により支えられている。正確な制御は反復訓練により獲得されるが、訓練中に再現よく制御できても、本番などの精神的な緊張や感情がゆらぐ状況においては、エキスパートでもミスが起こることがある。しかし運動制御の基本となる関節角度の調節が、感情によりどのように影響を受けるのかは、これまで十分に明らかにされていなかった。

足関節の関節角度は、姿勢制御や歩行や走行の安定性に重要。足関節の調節は一方の足関節と同じ角度に他方の足関節を調節する場合と、片側の足関節を、あらかじめ教示された角度に調節する場合との2種類あるが、これまで両側の足関節(足首)の関節角度を正確に評価する計測システムはなかった。

一方、心理学分野では、悲しいなどの負の感情下のほうが、細かい作業やスポーツのパフォーマンスに有利である可能性が指摘されていた。運動制御には関節や筋肉からその状態(固有知覚)を中枢神経系に伝える知覚神経系が重要。神経の活動を直接記録するマイクロニューログラムを用いた先行研究では、悲しい楽曲を聞いているときのほうが固有知覚神経線維の活動が安定しており、楽しいと不安定になることが報告されている。音楽を聞いて感情が動き、固有知覚に影響があるなら、実際に運動を行ったときに関節角度の調節に影響があると考えられる。

研究の内容:関節角度の再現誤差は、楽しい曲で最大、悲しい曲で最小

研究グループでは、両足関節の関節角度の正確な計測システムを開発。先行研究およびクラシック音楽の楽曲のプール(13の悲しい曲、9の楽しい曲、5のニュートラルな曲)から、研究協力者各自の最も悲しい曲、楽しい曲、および感情の起伏のない曲を選択してもらい、それぞれを聞きながら関節位置覚試験を行った。

足関節の関節位置覚試験は長坐位で膝を曲げた姿勢で、両足の足首を関節角度計測装置に固定、目隠しをした状態で足首を一杯に伸ばした状態から、83度、90度、97度、104度という四つの角度を、測定者が足を動かして提示し、試験1ではそれぞれの足関節角度を再現する課題とした。再現する角度の順序は順不同とした。

試験2は、対側の足をいずれかの角度で固定し、試験する足を対側と同じ角度に一致させる課題とした。それぞれ、楽しい曲、悲しい曲、どちらでもない曲、曲なしの4条件で、試験1、試験2において四つの関節角度再現を6回行った。

その結果、楽しい曲、どちらでもない曲、悲しい曲の順に、関節角度の再現誤差が小さくなることがわかった。

図1 関節位置覚試験における関節角度の誤差

(出典:東北大学)

今後の展開

楽しいことは、運動をする動機づけに重要であり、背中を押すのに重要。一方、ひとたび正確な動作を求められる運動を行うときには、冷静さが重要であることが今回の研究結果で裏づけられた。しかしこのことをスポーツ、演奏や作業に利用していくためには、それぞれの感情がどのように運動プログラムに影響するのか、その中枢機構を明らかにする必要がある。

本研究は「情動と運動制御」を追求するプロジェクトの一環として行われた。著者らは、「引き続き中枢機構の解明を進めるとともに、研究成果の現場での活用を進めていく」としている。

プレスリリース

感情は正確な運動制御に影響を及ぼす 楽しい曲を聴いている時には関節角度制御の精度が低下する(東北大学)

文献情報

原題のタイトルは、「The influence of emotional states induced by emotion-related auditory stimulus on ankle proprioception performance in healthy individuals」。〔Sci Rep. 2025 Feb 7;15(1):4586〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


Page 18

「あじこらぼ」(味の素株式会社)と一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ)による「プロのためのアミノ酸実践講座」。2024年3月22日に開催されたその第4回セミナーのレビュー記事が、Webサイト「あじこらぼ」で公開されました。

第4回のテーマは「発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~」。公開された記事ではアミノ酸が発育発達においてどのような役割を果たすのか、日常生活でどのように取り入れるべきかなどについて学ぶことができます。ぜひご一読ください。

プロのためのアミノ酸実践講座第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~

絶賛公開中!「プロのためのアミノ酸実践講座」のレビュー記事

第1回 アミノ酸はどうやって作られるのか?

第1回 レビュー記事はこちら

第2回 筋肉とアミノ酸~生きるための筋肉と強くなるための筋肉~

第2回 レビュー記事はこちら

第3回 免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)

第3回 レビュー記事はこちら

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国内の大学野球部部員の栄養素摂取量を調査し、競技レベルとの関連を詳細に検討した結果が報告された。中部大学生命健康科学部/大学院生命健康科学研究科の飯尾洋子氏、伊藤守弘氏らの研究によるもので、「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に論文が掲載された。全体的に摂取エネルギー量が不足しており、また、栄養素摂取量が最も適切なのは1軍の選手ではなく、その座を狙う2軍の選手だったという。

男子大学野球部員の栄養素摂取状況は、競技レベルで異なるのか?

栄養がスポーツパフォーマンスの向上に重要であることについては強固なエビデンスが存在し、実際、ハイレベルのアスリートに対する栄養サポートが広く行われている。しかし、大学生アスリートは学業とトレーニングを両立せねばならず、またプロレベルの選手のような栄養面の指導やサポートを受ける機会が限られている。研究面においても、大学生アスリートの栄養素摂取量を、単一の競技参加者で調査した報告は少ない。

これらを背景として飯尾氏らは、大学野球部の学生を対象とする栄養素摂取量を調査し、学年や競技レベルとの関連の検討を行った。なお、野球は有酸素運動という要素は少ないものの、試合時間は3時間以上続くことがあり、かつ1日に複数の試合を行うこともあって、持久力と疲労からの迅速な回復が求められ、栄養サポートの重要性が高い競技の一つと言える。

競技レベルで4段階に分類して検討

この研究は、5年に1人のペースでプロ野球選手を輩出している、競争力の高い大学野球部に所属する男子学生を対象に実施された。2022年10月下旬の秋季リーグ戦終了直後に、インターネット(Googleフォーム)アンケートにより、居住形態(実家、下宿、寮)や食習慣、および食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いた栄養素摂取量などの調査を行った。116人の部員のうち100人が回答し、有効回答は92人(92.0%)だった。

学年の内訳は、1年生が34人(37.0%)、2年生が32人(34.8%)、3年生が26人(28.3%)だった。競技レベルについては4段階に分類。1軍(公式戦レギュラー選手)が12人(13.0%)、2軍(公式戦ベンチ入り選手)が14人(15.2%)、3軍(2軍入りの可能性がある選手)が34人(37.0%)、4軍(その他の選手)が32人(34.8%)。居住形態は、実家52.2%、下宿41.3%、寮6.5%だった。

全体的に摂取量が不足しているが、2軍選手は比較的良好な摂取状況

摂取エネルギー量とエネルギーバランス

対象全体の摂取エネルギー量は2077.4kcal(中央値〈以下同様〉)であり、「日本人の食事摂取基準」の推奨と比較し、大幅に少なかった。栄養素バランス(摂取エネルギー量に対する比〈%エネルギー;%E〉)については、タンパク質13.3%E、脂質24.5%E、飽和脂肪酸7.7%E、炭水化物62.0%Eだった。

これを学年別に比較すると、摂取エネルギー量については1年生が2205.2kcal、2年生が2018.9kcal、3年生が2022.5kcalであり、1年生が多い傾向があった(2年生との比較でp=0.057)。栄養素バランスは差がなかった。

競技レベル別に比較すると、摂取エネルギー量については1軍が2055.1kcal、2軍が2304.2kcal、3軍が2085.8kcal、4軍が2009.3kcalであり、2軍が最も高値であり4軍との間に有意差が認められた(p<0.01)。一方、タンパク質摂取量は同順に、13.5、12.9、13.3、13.5%Eであり、2軍が最も低値であり4軍との間に有意差が認められた(p<0.05)。タンパク質以外の%エネルギーは差がなかった。

居住形態、BMIカテゴリー、および朝食摂取頻度別の比較では、摂取エネルギー量、栄養素バランスに有意差は認められなかった。

競技レベルと栄養素摂取量の関係

次に、栄養素摂取量(重量)と競技レベルの関係を検討。炭水化物、カルシウム、亜鉛、銅、マンガン、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、不溶性食物繊維、ヨウ素、モリブデンについて、群間の有意差が認められた。

多重比較から、全体的に、2軍の栄養素摂取量が高い傾向が観察された。例えば、炭水化物の摂取量は2軍が最も高く、3軍(p=0.031)や4群(p=0.002)との間に有意差が存在した。また、不溶性食物繊維、カルシウム、亜鉛、銅、ヨウ素、モリブデンについては、2軍と4軍の間に有意差があり、前者のほうが多く摂取していた。

なお、1軍については他群との比較で摂取量に有意差のある栄養素は特定されなかった。

競技レベルと食品群別摂取量の関係

続いて、食品群別の摂取量と競技レベルの関係を検討すると、穀物、砂糖、乳製品について、群間の有意差が認められ、いずれも2軍は4軍より多く摂取していた。1軍については前記の栄養素摂取量との関係と同様に、他群との比較で摂取量に有意差のある食品群は特定されなかった。

大学野球選手の栄養の最適化には組織的・戦略的な対策が必要

これらの結果の総括として、著者らは以下のような考察を加えている。

まず、総じてエネルギー量や栄養素量の不足傾向が認められた中で、2軍選手についてはエネルギー量、炭水化物やその他の栄養素摂取量が多く、4軍の選手は低い傾向にあったことを指摘し、「2軍の選手は1軍入りを目指すというモチベーションをもち、栄養面の改善という点でも努力していることの現れではないか。一方、4軍の選手の摂取量不足に関しては、怪我のためにカテゴリーを下げたうえで調整中の選手が含まれていたことの影響も考えられる」としている。

一方、最も競技レベルの高い1軍の選手の摂取量が他の群と有意差がなかったことについては、「1軍の選手は常時試合に出場しているために、コンディションの『向上』よりも『維持』に重点を置いていて、とくに本調査がシーズン終了直後に実施されたため、この理由による影響が強く現れた可能性がある」という。

論文の結論は、「大学野球選手の摂取エネルギー量と、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、カルシウムなどの栄養素摂取量が不足している実態が浮かび上がった。また、食品群では、ジャガイモ、豆、野菜、果物、卵、乳製品などが不足していた。これらの不足の改善には、個人レベルの努力だけでなく、組織的かつ戦略的な対策が必要ではないか」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Survey of nutritional intake status in college baseball players」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2459090〕 原文はこちら(Informa UK)

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Page 20

食事性酸負荷の強さと、高齢女性の要介護リスクが関連していることを表すデータが報告された。国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターの木下かほり氏らが行った、75歳以上の地域在住高齢者を対象とする縦断的研究の結果であり、論文が「The Journal of Frailty & Aging」に掲載された。

食事による酸負荷は筋肉量低下による健康リスクを高める?

酸負荷の強い食事は、代謝性アシドーシスの潜在的なリスクとなり得る。アシドーシス状態では、体タンパク質の異化によりアミノ酸が放出され、腎臓でのアンモニア産生が増加して、酸塩基平衡の傾きを是正するように働くという適応反応が生じる。さらに高齢者では、加齢に伴い腎機能が低下するため、酸負荷の高い食事を習慣的に摂取している場合、体タンパク質の異化が促進され、それが筋肉量低下につながり、健康リスクが高まる可能性が指摘されている。実際に、筋肉量低下との関連を報告した先行研究はいくつかあるが、日常生活機能への影響については十分に検討されていない。

木下氏らは以上を背景として、地域在住高齢者を対象とする縦断的研究により、食事性酸塩基負荷と新規の要支援・要介護認定との関連の有無を検討した。

習慣的食事摂取量に基づく潜在的腎臓酸負荷(PRAL)で3群に分けて要支援・要介護認定の新規発生率を比較

この研究は、愛知県東浦町で自立した生活を送っている75歳以上の高齢者4,970人を対象に実施された。このうち、後期高齢者健診を受けて、かつ郵送による調査に回答した1,950人から、1年間の追跡期間中の死亡やデータ欠落などを除外後の1,704人(女性52.2%)を解析対象とした。

食事性酸塩基負荷は、郵送調査に含まれていた簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)の回答に基づき、潜在的腎臓酸負荷(potential renal acid load;PRAL)を算出して評価した。PRALは食事中に含まれる5つの栄養素(タンパク質・リン:酸性に傾ける栄養素、カリウム・カルシウム・マグネシウム:アルカリ性に傾ける栄養素)から算出され、PRALが0を超えた正の値は、日常摂取している食品が総じて酸性であることを意味し、値がマイナスの場合は摂取している食品が総じて塩基性(アルカリ性)であることを意味する。

アウトカムは、要支援・要介護の認定を新たに受けた場合とした。

ベースライン時のPRALの高低による比較

PRALと生体指標との関連は性別によって異なることを示す報告が散見されるため、解析は性別に行われた。男性と女性をそれぞれのPRALの三分位数で3群に分類すると、ベースラインにおいて以下のような相違が観察された。

女性

女性のPRALは、第1三分位群は95%信頼区間の上限がマイナスとなり、この群はアルカリ性の食生活と考えられ、第3三分位群は信頼区間の下限がプラスとなり、この群は酸性の食生活と考えられた。第2三分位群はそれら両者の中間に位置し、下限がマイナス、上限がプラスだった。

この3群間で年齢は有意差がなく、BMIは第1三分位群から順に22.7±3.3、22.0±3.2、23.1±3.8だった(p<0.001)。現喫煙者率、独居者率、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往者率には有意差がなかった。<>

エネルギー摂取量とタンパク質・脂質摂取量(%E)は、PRALが高い群ほど高く、炭水化物摂取量(%E)はPRALが高い群ほど低かった(すべて傾向性p<0.001)。<>

男性のPRALは、第2・第3三分位群はともに、信頼区間の下限がプラスであり酸性の食生活と考えられた。第1三分位群は下限がマイナス、上限がプラスだった。

この3群間で年齢およびBMIには有意差がなかった。独居者率は第1三分位群から順に5.2%、6.6%、10.7%であり(p=0.040)、高血圧の既往者率は53.9%、50.4%、69.4%だった(p<0.001)。現喫煙者率、糖尿病・脂質異常症の既往者率には有意差がなかった。<>

エネルギー摂取量は3群間に有意差がなかった。タンパク質・脂質摂取量(%E)は、PRALが高い群ほど高く(傾向性p<0.001、0.002)、炭水化物摂取量(%e)はpralが高い群ほど低かった(傾向性p<0.001)。<>

追跡期間中の要支援・要介護認定の新規発生率は、PRALの第1三分位群から順に、女性は6.8%、6.7%、10.4%、男性は5.9%、5.1%、5.2%だった。

多変量調整後(年齢、BMI、エネルギー摂取量、独居、現喫煙、慢性疾患の数)、第1三分位群(食事性酸負荷が最も低い群)を基準とする解析で、女性のPRAL第3三分位群はオッズ比(OR)が1.96(95%CI;1.06~3.61)となり、要支援・要介護認定を受けた人が有意に多いことが明らかになった。

なお、女性の第2三分位群(OR1.10〈0.57~2.13〉)、および男性については第2三分位群(OR0.79〈0.35~1.76〉)、第3三分位群(OR0.81〈0.37~1.79〉)ともに、第1三分位群と有意差が認められなかった。

タンパク質は筋肉にとって大切だが食事性酸負荷を高めるため、酸負荷を和らげる食品の摂取も重要

まとめると、75歳以上の日本人高齢者において、習慣的な食事摂取量から評価した食事性酸負荷(PRAL)の高さは女性の新規要支援・要介護認定と有意に正の関連を示し、男性では関連がなかった。

論文中の考察によると、本研究はPRALの性差を明らかにすることを目的としていないが、女性ではPRALと生体指標との関連が有意で男性では非有意という結果は、除脂肪体重や2型糖尿病発症などとの関連を検討した先行研究からも報告されているという。ただし、この性差のメカニズムは明らかになっていないとのことだ。

一方、本研究における女性のPRALの第1三分位群と第3三分位群の栄養素摂取量を比較すると、先述のようにタンパク質は、第3三分位群のほうが多かったが、第1三分位群も体重あたり1.4±0.3g/kgと決して少なくはなかった。また、酸性負荷が強い動物性タンパク質の占める割合は、第1三分位群が54.9±10.5%であるのに対して、第3三分位群は64.9±9.1%と有意に高かった(p<0.001)。さらに、アルカリ性に傾ける栄養素が豊富な野菜や果物の摂取量は、第3三分位群が第1三分位群の半分程度と少なかった。<>

これらを基に論文の結論は、「性差については今後の検討が必要であるが、高齢者の健康リスクを抑制するには、タンパク質を豊富に含む食品に加えて、野菜や果物を多く含む食事が重要ではないか」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「High dietary acid load increases the risk of disability in women aged 75 years and older: A community-based cohort study」。〔J Frailty Aging. 2025 Feb;14(1):100004〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。さらに、アルカリ性に傾ける栄養素が豊富な野菜や果物の摂取量は、第3三分位群が第1三分位群の半分程度と少なかった。<>0.001、0.002)、炭水化物摂取量(%e)はpralが高い群ほど低かった(傾向性p<0.001)。<>0.001)。現喫煙者率、糖尿病・脂質異常症の既往者率には有意差がなかった。<>0.001)。<>0.001)。現喫煙者率、独居者率、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往者率には有意差がなかった。<>

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今回は、アスリートの痔疾(痔)に関するパイロット研究の報告を紹介する。イタリアからの報告で、Webを用いた横断調査の結果、習慣的にスポーツを行っている人の3人に1人が痔もちであり、ボディビルや自転車、乗馬での有病率が高く、痔を有するアスリートの過半数が治療を受けていないという。

アスリートと痔の関連についての初の研究報告

成人の痔の有病率は、39~52%と報告されている。ただし、痔という疾患の報告には羞恥心が伴うために、このような有病率は過小評価されたものだとする指摘もある。

痔の病態生理は十分に解明されていないが、リスク因子としては、便秘、排便時のいきみ、肥満などが想定されており、また食事・栄養との関連では、水分摂取の不足、食物繊維の不足(時に過剰)、および、腸内細菌叢の乱れなどが、便秘リスクを押し上げる可能性があるとされている。それらのほかにも、高強度または長時間の運動との関連を指摘する報告もみられる。ただし、アスリート集団での痔の有病率やリスク因子については、これまでほとんど研究されていない。

今回取り上げる論文は、習慣的にスポーツを行っている人を対象として、痔の有病率、およびその関連因子を横断的に調査したパイロット研究の報告。著者らは、「スポーツと痔の関連を検討した初の研究」としている。

アスリートの痔の有病率は34%で男性で高く、自転車・乗馬、ボディビルで高い

この研究は、2023年5月にイタリアの大腸・肛門外科の学術団体の会員を介して告知され、Web調査として実施された。回答の適格基準は、年齢が18歳以上で週2回以上スポーツ活動を行っている(または現在は行っていないが、アンケート回答の3年以内前までは行っていた)人であり、除外条件は肛門外科手術の既往者および膠原病患者。

312人が回答し全員が解析対象とされた。主な特徴は、平均年齢38±14.5歳、男性53.9%であり、トレーニング歴は11年未満が58.7%、12~18年が21.5%、18年超が19.9%で、アスリートとして競技会に参加している選手が11.2%であって、週あたりのトレーニング頻度は1~2回が56.4%、3~4回が34.0%、4回超が9.6%だった。

痔の有病率は34.0%と、ほぼ3人に1人だった。性別にみると、男性は40.5%、女性は26.8%であり、男性に多いという有意差が認められた(p=0.026)。また、年齢については痔を有する群が43±12.3歳、対照群(痔のない群)が36±15.0歳であり、痔を有するアスリートは有意に高齢だった(p<0.001)。<>

トレーニング歴、トレーニング頻度、競技会参加の有無では、痔の有病率に有意差がみられなかった。

競技カテゴリー別の比較

主として行っている競技別に有病率を比較すると、平均の34.0%よりも高い競技として、自転車・乗馬(57.4%)、ボディビル(47.8%)、および、サッカー・ラグビー・バスケットボール・バレーボール・テニス・パデル(44.1%)が挙げられた。反対に、有病率が平均よりも低い競技は、アルペンスキー・ノルディックスキー・トレッキング(14.3%)、ランニング(22.7%)、陸上競技・ダンス・クライミング(33.3%)などが該当した。

性別にみた場合、男性で有病率が最も高いカテゴリーはボディビルであり、71.43%に及んだ。女性では自転車・乗馬の66.67%だった。

高齢、およびボディビルを行っていることが痔に関連

次に、痔を有することを従属変数とし、独立変数を年齢、性別、競技カテゴリー、トレーニング歴、トレーニング頻度、競技会参加の有無とした多変量解析を施行。

その結果、痔を有することに独立した正の関連のある因子として、年齢(1歳高齢であるごとにOR1.03〈95%CI;1.01~1.05〉)とボディビルを行っていること(OR2.88〈1.05~7.90〉)の2項目が特定された。自転車・乗馬はオッズ比が2.39ながら信頼区間が1をまたぎ、非有意だった。

一方、アルペンスキー・ノルディックスキー・トレッキングを行っていることは、痔の有病率が低いことと独立した関連があった(OR0.24〈0.06~0.95〉)。性別やトレーニング歴、トレーニング頻度、競技会参加の有無は、痔の有病率と独立した関連が認められなかった。

痔もちアスリートの半数は医師の診察を受けていない

痔の罹患者に対しては、痔を有することの影響や対処行動などが質問された。

その結果から、痔を有するアスリートの19%が身体活動に中等度以上の影響を感じており、トレーニングの頻度または強度を減らさなければならないとの回答が24%に上った。その一方で、専門医の診察を受けた割合は52%にとどまり、ほぼ2人に1人はセルフメディケーション等で対処していると考えられた。

ボディビルが痔のリスクとなる理由の考察

これらの結果を基に著者らは、「いくつかのスポーツは、痔疾の発症や悪化に影響を及ぼす可能性がある。とはいえ、身体活動には多くの健康上のメリットがあるため、痔疾を原因にスポーツをやめるべきではなく、患者に対して正しい情報とアドバイスを提供する必要がある」と結論を述べている。

なお、ボディビルが痔のリスクとなる理由については、先行研究からの考察として、高強度の負荷に対応し腹圧が上昇すること、それとともに肛門周囲の血管の異常な拡張が生じたり、繊維組織が変性しやすくなることなどの影響が記されている。

これら以外にも栄養面からは、高タンパク食による食物繊維摂取量の減少、動物性タンパク質の過剰摂取による腸内細菌叢への悪影響、タンパク質代謝に伴う尿素の生成・排泄に水分を要するために脱水傾向が生じやすい――などのために便秘リスクが高まるという経路も考慮すべきかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Sport practice and hemorrhoidal disease: results from a self-assessment questionnaire among athletes」。〔Int J Colorectal Dis. 2025 Jan 8;40(1):8.〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

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食事管理や睡眠に関するスマートフォンアプリの4,825人分のデータを活用した大規模調査により、タンパク質の摂取量が多い人は少ない人よりも総睡眠時間が長いことや、食物繊維を多く摂取している人は総睡眠時間が長く、睡眠潜時(寝付き時間)と中途覚醒が短いことなどが明らかになった。筑波大学の研究グループの研究によるもので、「Journal of Medical Internet Research」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

研究の概要:食事・栄養摂取と睡眠との関連を大規模リアルワールドデータで検討

ヒトが生きるために不可欠な食事と睡眠は、相互に関連することが知られている。一方、近年、健康の自己管理に活用できるさまざまなサービスや携帯アプリケーションが提供されており、利用者が自分自身の食事習慣や睡眠習慣を記録し蓄積することができるようになった。

今回の研究では株式会社asken(あすけん)の食事管理アプリ「あすけん」および株式会社ポケモンの睡眠ゲームアプリ「Pokémon Sleep」を同時に利用している人を対象とし、これらの利用データを用いて、栄養素と睡眠との関連を検討した。分析には、「あすけん」で毎日の食事内容の記録から数値化された14項目の栄養素と、「Pokémon Sleep」でスマートフォンに内蔵された3軸加速度計データから得られる総睡眠時間、睡眠潜時、中途覚醒時間のデータを活用した。

同意を得られた利用者4,825人のデータについて、主要栄養素の相互依存関係を考慮して分析を行ったところ、(1)総エネルギーが高いほど総睡眠時間が短く、中途覚醒が長い、(2)タンパク質の摂取量が多い人は総睡眠時間が長い、(3)一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の摂取が多い人は睡眠時間が短い、(4)多価不飽和脂肪酸の摂取が多い人は睡眠潜時と中途覚醒が短くなるが、一価不飽和脂肪酸の摂取が多いと睡眠潜時と中途覚醒が長くなる、(5)食物繊維を多く摂取している人は、総睡眠時間が長く、睡眠潜時(寝付き時間)と中途覚醒が短くなる、(6)ナトリウム対カリウム比(Na/K比、ナトカリ比)が高い(ナトリウム摂取が多い)人は総睡眠時間が短く睡眠潜時と中途覚醒が長くなること――がわかった。

研究の背景:栄養素バランスも考慮に入れた睡眠への影響の知見が不足していた

睡眠は人にとって重要な生理活動であり、健康や生活の質に深く関わっており、睡眠が不十分だと、身体的・精神的な健康に悪影響を及ぼす。また、睡眠と食事が相互に影響することも知られており、これまでの研究では、特定の栄養素が睡眠の持続時間や質に影響を与えることが報告されている。しかし、主要栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質)の相互依存性※1を考慮した研究は限られており、それらのバランスがどのように睡眠に影響するかは十分に解明されていない。

一方、近年、さまざまな健康の自己管理のためのサービスや携帯アプリケーションが提供されており、利用者が自分自身の食事習慣や睡眠習慣を記録し蓄積することができる。これらのデータを利用者の同意を得て取得することで、実社会のデータを使った大規模な疫学調査を、比較的少ない負担で実施できると考えられる。

そこで本研究では、スマートフォンアプリを用いて得られたデータを基に、主要栄養素や食事成分と睡眠パラメータの関係を明らかにすることを目的とした。

研究内容と成果:栄養素摂取バランスと睡眠時間・睡眠の質の関係が明らかに

本研究では、スマートフォンアプリ「Pokémon Sleep」※2と「あすけん」※3を同時に利用する6,052名のうち、7日未満の計測やデータ欠損等がみられた1,227名を除外した、4,825名のデータについて、7〜136日間の睡眠変数と主要栄養素を分析した。分析対象者の平均年齢は36.7歳で、女性が81.6%を占めていた。

睡眠変数は、「Pokémon Sleep」によって、対象者の日常的な睡眠パラメータを記録した。スマートフォンに内蔵された3軸加速度計で記録されたデータを、Cole-Kripkeアルゴリズム※4に基づいて判定し、総睡眠時間、睡眠潜時、および睡眠後覚醒時間の割合を算出した上で、各人の7日間以上の記録を平均化して睡眠状態を評価した。

主要栄養素は、「あすけん」による日常の食事の記録データのうち、睡眠との関連が示唆されている栄養素として、総エネルギー、タンパク質、炭水化物、脂質(飽和脂肪酸※5、一価不飽和脂肪酸※6、多価不飽和脂肪酸※7)、食物繊維、ナトリウム、カリウム、ナトリウム対カリウム比※8に着目した。

これらのデータを用いて、主要栄養素の相互依存関係を考慮した組成データ解析(表1)と重回帰分析(図1)を行い、各栄養素の摂取量と睡眠変数との関連を検討した。

表1 主要栄養素の相互依存関係を考慮した組成データ解析の結果(n=4,825)

表中の数字は、統計的に有意に関連した項目のみを表す。数値は、例えば、タンパク質の摂取を6%減らした場合(減らした6%分は全体の構成比を考慮して他の栄養素に加える)、総睡眠時間が36.6分短くなると解釈できる。

(出典:筑波大学)

図1 食事成分の摂取量と睡眠変数との関係

各食事成分の摂取量によって被験者を4グループに分け、摂取量が少ない順に1st、2nd、3rd、4thとし、1stグループを基準に各グループの睡眠変数を比較した。食物繊維の摂取が多いグループでは、総睡眠時間が長く、睡眠潜時や中途覚醒時間の割合が少ないことなどが示された。色(赤または青)に表示された丸(非標準化係数)とエラーバー(95%信頼区間)は、1stグループに比べて統計的に有意な結果であることを示す。

(出典:筑波大学)

その結果、(1)総エネルギーが高いほど総睡眠時間が短く、中途覚醒が長いことに加え、主要栄養素においては、(2)タンパク質の摂取量が少ない人よりも多い人の方が総睡眠時間が長く、(3)一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の摂取が多い人は睡眠時間が短い、(4)多価不飽和脂肪酸の摂取が多い人は睡眠潜時と中途覚醒が短くなるが、一価不飽和脂肪酸の摂取が多いと睡眠潜時と中途覚醒が長くなること、また、(5)食物繊維を多く摂取している人は、総睡眠時間が長く、睡眠潜時(寝付き時間)と中途覚醒が短くなることに対し、(6)ナトリウム対カリウム比が高い(ナトリウム摂取が多く、カリウム摂取が少ない)人は総睡眠時間が短く睡眠潜時中途覚醒が長くなることがわかった。

今後の展開:睡眠改善のための食事介入の可能性

本研究により、タンパク質、多価不飽和脂肪酸、食物繊維が豊富な食事習慣により、睡眠が改善する可能性が示唆された。研究グループでは、「今後は実際の食事介入などによる効果検証を行い、より詳細な因果関係等を究明する予定」としている。

プレスリリース

アプリデータで睡眠と栄養の関連を大規模調査(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Relationship Among Macronutrients, Dietary Components, and Objective Sleep Variables Measured by Smartphone Applications: A Real-World Cross-Sectional Study」。〔J Med Internet Res. 2025 Jan 30:27:e64749〕 原文はこちら(JMIR Publications)

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スポーツ栄養Web編集部


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ダークチョコレートがアマチュア長距離ランナーの動脈機能を改善することが報告された。また、スポーツパフォーマンス関連指標の一部にも、有意な変化が生じる可能性が報告されている。この機序として著者らは、ダークチョコレートに含まれるポリフェノールの内皮機能改善作用によるものと推測している。ギリシャでの研究。

ダークチョコレートでアスリートの血管機能が変化するか?

ダークチョコレートの健康効果に関しては既に先行研究の報告が少なくない。ただし、持久系アスリート対象の研究は多くない。

ダークチョコレートはポリフェノールを豊富に含み、抗酸化作用の高い食品として知られている。また、ポリフェノールは一酸化窒素(NO)の産生を刺激し、NOの生物学的利用能を高め、血管内皮機能を改善し動脈血管の柔軟性の向上をもたらすとされている。このような内皮機能改善作用は、動脈硬化の進展抑制という健康効果につながり、かつスポーツパフォーマンスとの関連ではランニングエコノミーの向上につながる可能性がある。

これらの理論的根拠を基に、本論文の著者らは、長距離ランナーに対してダークチョコレートを2週間にわたって摂取してもらうという介入を行い、動脈機能やパフォーマンス指標がどのように変化するかを検討した。

研究参加者と介入方法、評価指標

この研究の参加者は、ギリシャ各地のスポーツクラブやメディアを通じて募集された、健康で22~55歳の男性アマチュアランナー。適格条件として、週に3回以上トレーニングを行っていることなどが設定されており、除外基準として、喫煙、アレルギーを含む慢性疾患、および、ポリフェノールの豊富な食生活をしていること(チョコレート、りんご、茶などを多く摂取している)などが設定されていた。

50人が応募し、4人が除外基準に該当したため、参加者は46人となった。おもな特徴は、年齢40.69±9.04歳、トレーニング歴9.98±6.03年、BMI23.79±2.35、血圧128.58±8.40/76.47±6.78mmHg、安静時心拍数57.34±6.70bpm。年齢については40歳未満と40歳以上がそれぞれ23人ずつだった。

介入は2週間にわたり、ダークチョコレートを毎日50g摂取してもらうというもの。50gという用量は既報研究に基づき設定された。用いたダークチョコレートは市販の製品でカカオ含有量が70%、292.5kcalであり、2週間の合計でポリフェノール摂取量は1,222.5mg、カテキンかせ577.5mgだった。

介入の前後に、動脈血管機能の指標である脈波伝播速度(carotid–femoral pulse wave velocity;cfPWV)や脈波増大係数(augmentation index;AIx)などを測定したほか、心肺運動負荷検査(cardiopulmonary exercise test;CPET)を行った。つまり、デザインは前後比較試験であり、プラセボ摂取またはダークチョコレートを摂取しないという対照群(条件)は設定されていない。

なお、介入期間中は、サプリメントやアルコールの摂取を禁止し、血管内皮機能に影響を及ぼし得る硝酸塩やフラボノイドの豊富な食品を積極的には摂取しないことを求めた。また、チョコレートのエネルギー量に配慮し、その分、ほかの食品の摂取量を調整するよう指示した。トレーニングについては、ふだん通りに続けてもらった。

それでは次項から結果をみていく。

cfPWVやAIxが有意に改善し、VO2maxやAT-VO2maxが有意に上昇

2週間のダークチョコレート摂取により、cfPWVは11.82%、AIxは19.47%、それぞれ有意に低下(改善)した(いずれもp<0.001)。また、上腕血圧や中心動脈圧も有意に低下していた。

安静時心拍数、心肺運動負荷検査(CPET)での最大心拍数はともに有意に上昇し、VO2maxや無酸素性作業閾値(anaerobic threshold;AT)閾値下のVO2に対するVO2maxの比(AT-VO2max)といった、持久系スポーツのパフォーマンスに関連する指標も有意に上昇した。詳しくは、VO2maxは介入前が52.2±28.8mL/kg/分、介入後は753.43±8.44mL/kg/分(p=0.028)、AT-VO2maxは同順に78.59±5.97%、84.04±5.82%だった(p=0.001)。

なお、40歳未満/以上で2群に分類して解析すると、40歳未満の群では血圧に対する影響が非有意となった。

大半の被験者がダークチョコレート摂取のパフォーマンスへの影響をプラス評価

介入後に、「ダークチョコレート摂取の影響をどのように評価するか?」と質問し、5段階のリッカート尺度で回答を得た。すると、たいへんポジティブが60%、ポジティブが27%、どちらとも言えないが10%、ネガティブが3%、たいへんネガティブが0%となった。前二者を合計すると87%となり、被験者の大半がパフォーマンスの向上を感じていたと判断された。

ダークチョコレート摂取に伴う体重増加には要注意

前述のとおり本研究は、比較対象群(条件)を置いていない。この点は著者らも論文中で限界点として挙げている。その一方で著者らは、「本研究で観察された効果はおもに、ポリフェノールが豊富なダークチョコレートを摂取したことによるものである」と述べ、既報研究を参照してそのメカニズムを考察している。ただし、本研究には女性が含まれていないことや、ダークチョコレート摂取の急性効果のみに焦点を当てているといった限界点もあることから、「今後の大規模サンプルでの追試が必要である」としたうえで、「ダークチョコレートは長距離ランナーの動脈機能を改善し血管の健康を促進する」と結論づけている。

なお、留意すべき点として、「チョコレートは高カロリーであることから、意図しない体重増加を避けるために他の食品の摂取量の調整が不可欠」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Dark Chocolate Consumption on Arterial Function in Endurance Male Runners: Prospective Cohort Study」。〔Sports (Basel). 2024 Dec 13;12(12):344〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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気温が高いほどアナフィラキシーによる入院リスクが増加し、とくに日平均気温が30.7°C以上では50%近くハイリスクとなり、また食物性アナフィラキシーのリスクへの影響が顕著であることが報告された。東京科学大学の研究チームの研究によるもので、「Allergy」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。著者らは、「暑い日には、アレルギーのある食品の摂取などに注意を払うなどの予防策が重要」と述べている。

研究の概要:暑い日には医療関連でない、食物性などのアナフィラキシーが増加する

東京科学大学の研究チームは、2011~22年の全国規模の入院データを解析し、気温が高いとアナフィラキシーによる入院リスクが増加することを明らかにした。さらに、この関連は、医療処置や治療に関連しない食物性などのアナフィラキシーのタイプで、とくに顕著であることも判明した。また、極めて高い日平均気温(研究期間中の99パーセンタイルに該当する30.7°C)にさらされた場合、入院リスクが49%増加することがわかった。

これらの結果は、気候変動が人間の健康に悪影響を及ぼす可能性を示す新たな証拠であり、公衆衛生の観点から気候変動対策を急ぐ必要性を強調している。

背景:気温とアナフィラキシーリスクとの関連を詳細に検討

アナフィラキシーは、急性発症を特徴とする重篤な全身性アレルギー反応。主な誘因として、食物や昆虫刺傷が挙げられるが、医薬品や造影剤なども誘因となることが知られている。アナフィラキシーは、命にかかわる場合もあるため、そのリスク因子を解明することが重要。

これまでの研究では、アナフィラキシーが暖かい季節に多く発生することが報告されていた。しかし、気温とアナフィラキシーの関連性を詳細に検討するためには、日々の患者の入院データと気象データを連結して検討する必要があった。

そこで本研究では、全国規模の日ごとの入院データと気象庁の気象データを活用し、気温とアナフィラキシーによる入院リスクとの関連を明らかにすることを目的として研究を実施した。

研究成果:医原性でないアナフィラキシーによる入院が増加する

研究期間中の2011~22年のアナフィラキシーによる入院患者数は5万5,298人にのぼった。1日の平均気温が高くなると、アナフィラキシーによる入院リスクが上昇することが確認された(図1)。とくに、99パーセンタイルに該当する極めて高い日平均気温(30.7°C)にさらされた場合、入院リスクが49%増加することが明らかになった(95%信頼区間19〜85%)。

図1 5日間のラグ効果※を考慮した日平均気温とアナフィラキシーによる入院リスクの関連

実線は日平均気温における相対リスクを表し、灰色の領域は95%信頼区間を示す。最もリスクが低い日平均気温(つまりminimum morbidity temperature;MMT)である11.3°Cを基準として推定を行った。 ※ラグ効果:気温が健康に及ぼす影響は、曝露時点から一定期間続くことが知られており、その遷延性を「ラグ効果」と呼ぶ。

(出典:東京科学大学)

さらに、アナフィラキシーのタイプ別に解析を行った結果、高気温への曝露と入院リスクの関連性は、医療処置や治療に関連するタイプのアナフィラキシーでは認められなかった(図2)。一方で、医療処置や治療とは無関係な食物性などのアナフィラキシーのタイプでは、この関連性がとくに顕著であることがわかった(図3)。

図2 5日間のラグ効果を考慮した日平均気温と医療処置や治療と関連したタイプのアナフィラキシーによる入院リスクの関連

(出典:東京科学大学)

図3 5日間のラグ効果を考慮した日平均気温と医療処置や治療関連ではない食物性などのアナフィラキシーによる入院リスクの関連

(出典:東京科学大学)

社会的インパクト:暑い季節のアナフィラキシー予防策の周知

本研究により、高気温への曝露がアナフィラキシーのリスクを高める可能性が明らかになった。とくに、医療処置や治療に関連しない食物性などの原因によるアナフィラキシーにおいて、このリスクが顕著であることがわかった。

一方で、医療処置や治療に関連したタイプのアナフィラキシーでは、高気温との関連は認められなかった。これは、医療処置や治療が通常、気温が管理された医療施設内で行われるため、高気温の影響を受けにくいことが要因である可能性がある。

本研究結果に基づき、暑い日には以下のような予防策を講じることが重要だと考えられる。

  • 虫刺されや花粉への適切な対策を行う
  • アレルギーのある食品や、普段食べ慣れていない食品の摂取に注意を払う

また、この研究は、気候変動が人間の健康に悪影響を及ぼす可能性を示す、さらなる証拠となった。公衆衛生の観点からも、気候変動対策を急ぐ必要性を強調するものと言える。

今後の展開:気温による食行動の変化などがリスク因子か?

高気温とアナフィラキシーによる入院リスクの関連メカニズムの一つとして、熱への曝露が以下のような要因を介して、間接的にリスクを高める可能性が考えられる。

  • 暑い日の食パターンの変化
  • 昆虫刺傷や花粉曝露の増加

また、気温の上昇により屋外活動が増えることで、環境アレルゲンや昆虫刺傷の機会が増加し、アナフィラキシーのリスクがさらに高まる可能性がある。さらに別の可能性として、高気温への曝露が呼吸器系や消化器系の症状を増幅し、アナフィラキシーの重症化につながることも示唆される。

今後の研究では、これらのメカニズムをさらに詳細に解明することが必要。また、気候変動による気温上昇が健康に与える影響を包括的に理解することで、効果的な予防策や公衆衛生対策の構築が期待される。

出典

暑さでアナフィラキシーの入院リスクが増加(東京科学大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Association Between Heat Exposure and Anaphylaxis in Japan: A Time-Stratified Case-Crossover Study」。〔Allergy. 2025 Feb 1〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部


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全国健康保険協会(協会けんぽ)のデータを用いた解析の結果、1950~80年代に生まれた35~69歳の中高年世代は、男女ともすべての年齢層において、2015~20年度にかけてBMIが増加傾向にあることが明らかになった。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの勝川史憲名誉教授らの研究グループの研究によるもので、「International Journal of Obesity」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。65歳以上の高齢期男性では、体重減少とともに身長も短縮するため、BMIでみると増加傾向にあめこと、および、同じ年齢層でも後に生まれた世代の体重のほうが重いことなども報告されている。

研究の概要:815万人分のデータから明らかになった勤労世代の肥満傾向

報告された研究は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している35~69歳の男女あわせて815万人分のデータを用い、肥満の指標であるBMIに加えて、2015~20年度の身長と体重の推移を検討したもの。性別と年齢区分に基づいて14の集団別に解析したところ、男女ともにすべての年齢層でBMIが増加していたことが明らかとなった。65歳以上の男性では体重は減少傾向だったが、身長も短縮するため、BMIでみると増加する結果となった。

一方で、集団間で比較すると、同じ年齢であっても後に生まれた世代の体重のほうが重かったため、今後、肥満者の割合が増加していくと推測される。本研究の主な対象者は、食習慣の西洋化が進んだ1960年代以降に生まれた世代であり、現代の日本人における肥満の動向を理解する一助となり得る。

研究の背景:加齢に伴う身長の短縮も考慮に入れた解析の必要性

肥満(BMI25以上)は、心血管疾患の発症や全死亡率の上昇と関連することが広く知られており、米国をはじめとする世界各国で深刻な健康問題となっている。日本人を対象として加齢に伴うBMIの推移を示した先行研究もあるが、それらは食習慣の西洋化が進む1960年代以前に生まれた集団や、特定の職域集団を対象としており、代表性に限界があった。また、BMIは体重を身長の二乗で除して算出されるため身長の変化の影響を受けるが、これまでの研究では加齢に伴う身長の短縮の影響について、十分に考慮されていなかった。

そこで本研究では、日本の就労世代が多数加入する協会けんぽのデータベースを用い、1950~80年代に生まれた中高年世代815万人を対象に、6年間にわたるBMI、身長、体重の推移を明らかにすることを目的とした。

方法と結果:65~69歳の男性の体重は減少傾向も、BMIでは増加傾向

本研究では、2015年度に協会けんぽに加入していた35歳以上70歳未満の被保険者および被扶養者815万5,894人(男性477万7,891人、女性337万8,003人)を対象とし、性別および5歳刻みの年齢区分に基づいて14の集団に分類した。解析には線形混合効果モデルを用いて、6時点(2015~20の各年度)におけるBMI、身長、体重の値をそれぞれ推定した。

その結果、1年あたりのBMIの変化量はすべての集団で正であり、男女ともにすべての年齢層でBMIが増加する傾向(男性0.02~0.14/年、女性0.05~0.16/年)が示された(図1)。身長は加齢に伴い短縮していく傾向にあり、35~39歳を基準とした場合、70~74歳では男女ともに累積で3cm近く背が低くなることが明らかとなった(図2表1)。このため男性の65~69歳では、体重は減少傾向にあるものの身長も同時に低下傾向にあるため、BMIでみると増加していく結果になったと考えられる。

一方で、集団間で比較すると、2020年度のほうが2015年度よりも、同じ年齢層の体重が重くなっていた(図3)。

図1 各年齢層におけるBMIの推移

グラフ中の6つの点は、各年度(2015~2020年)における値を示す。

(出典:慶應義塾大学)

図2 各年齢層における身長の推移

グラフ中の6つの点は、各年度(2015~2020年)における値を示す。

(出典:慶應義塾大学)

(出典:慶應義塾大学)

図3 各年齢層における体重の推移

グラフ中の6つの点は、各年度(2015~2020年)における値を示す。

(出典:慶應義塾大学)

本研究により、現代日本人の中高年世代においては、男女ともにすべての年齢層でBMIが増加傾向にあることが明らかとなった。高齢期では体重減少とともに身長も短縮するため、BMIでみると増加する結果となった。一方で、サブグループ間で比較すると、同じ年齢層でも後に生まれた世代の体重の方が重かったため、今後、肥満者の割合が増加していくと推測される。また、高齢期のBMIによる体格評価については、身長短縮も考慮したさらなる検討が必要。

プレスリリース

働く中高年世代(35歳~69歳)の全年齢でBMIが増加傾向に-協会けんぽのデータベース815万人分のデータに基づく現代日本人の肥満研究-(慶應義塾大学)

文献情報

原題のタイトルは、「BMI trajectory of 8,155,894 Japanese adults from exhaustive health checkup data: the contributions of age-related changes in height and weight」。〔Int J Obes (Lond). 2024 Dec 18〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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文部科学省は「令和6年度学校保健統計」の確定値を公表した。裸眼視力1.0未満の子どもは小学校で3割を超え、中学校では6割程度、高等学校で7割程度であることなどが示された。同省では、「子どもの目の健康を守るための啓発資料の普及・周知や保健教育のモデル授業の動画の作成のほか、屋外での体験活動等の促進等の視力低下予防に資すると考えられる取り組みなど、学校保健の推進とともに子どもの健康状態について継続的に把握することを予定している」としている。

なお、以下のデータについて、令和2~5年度の数値はいずれの項目も調査時期の異なる数値を含んでいる影響があるため、他の年度の数値と比較はできない。

健康状態調査

(1)裸眼視力1.0未満の者の割合は、学校段階が進むにつれて高くなっており、小学校で3割を超えて、中学校で6割程度、高等学校で7割程度となっている。(2)むし歯(う歯)の者の割合は、小学校・高等学校で4割を下回り、幼稚園・中学校で3割を下回っている。(3)鼻・副鼻腔疾患を持つ者の割合は、小学校・中学校で1割程度となっている。

なお、本調査結果の公表とともに「子供の目の健康を守るための啓発資料」として、熱中症や紫外線対策をしながら外遊びを呼びかけるなどの内容の資料が公開されている。

※1:「心電図異常」については、6歳、12歳、15歳のみ調査を実施。 :過去最大、 :過去最小

(出典:文部科学省)

図1 「裸眼視力1.0 未満の者」の割合

(出典:文部科学省)

図2 むし歯(う歯)の者の割合

幼稚園については、昭和27〜30年度および同46年度は調査していない。

(出典:文部科学省)

発育状態調査

(1)身長の平均値は、多くの年齢層で男女とも平成10年度前後にかけて上昇し、その後横ばい傾向。(2)体重の平均値は、多くの年齢層で男女とも平成10年度前後にかけて上昇し、その後横ばい傾向。(3)肥満傾向児の割合は男女ともに9歳から12歳が最も高く、とくに男子は9歳以降1割を超えている。痩身傾向児の割合は、男女とも10歳頃まで上昇し、以降3%前後となっている。

身長の推移

図3 【男子】身長の推移

5歳については、昭和27、28年度は、調査していない。

(出典:文部科学省)

図4 【女子】身長の推移

5歳については、昭和27、28年度は、調査していない。

(出典:文部科学省)

体重の推移

図5 【男子】体重の推移

5歳については、昭和27、28年度は、調査していない。

(出典:文部科学省)

図6 【女子】身長体重推移

5歳については、昭和27、28年度は、調査していない。

(出典:文部科学省)

肥満傾向児の割合の推移

図7 【男子】肥満傾向児の割合の推移

平成18年度から肥満・痩⾝傾向児の算出⽅法を変更しているため、平成17年度までの数値と単純な⽐較はできない。現在の算出方法は、性別・年齢別・身長別標準体重から、肥満度が20%以上の者を肥満傾向児、-20%以下の者を痩身傾向児としている。また、5歳および17歳は、平成18年度から調査を実施している。

(出典:文部科学省)

図8 【女子】肥満傾向児の割合の推移

平成18年度から肥満・痩⾝傾向児の算出⽅法を変更しているため、平成17年度までの数値と単純な⽐較はできない。現在の算出方法は、性別・年齢別・身長別標準体重から、肥満度が20%以上の者を肥満傾向児、-20%以下の者を痩身傾向児としている。また、5歳および17歳は、平成18年度から調査を実施している。

(出典:文部科学省)

痩身傾向児の割合の推移

図9 【男子】痩身傾向児の割合の推移

平成18年度から肥満・痩⾝傾向児の算出⽅法を変更しているため、平成17年度までの数値と単純な⽐較はできない。現在の算出方法は、性別・年齢別・身長別標準体重から、肥満度が20%以上の者を肥満傾向児、-20%以下の者を痩身傾向児としている。また、5歳および17歳は、平成18年度から調査を実施している。

(出典:文部科学省)

図10 【女子】痩身傾向児の割合の推移

平成18年度から肥満・痩⾝傾向児の算出⽅法を変更しているため、平成17年度までの数値と単純な⽐較はできない。現在の算出方法は、性別・年齢別・身長別標準体重から、肥満度が20%以上の者を肥満傾向児、-20%以下の者を痩身傾向児としている。また、5歳および17歳は、平成18年度から調査を実施している。

(出典:文部科学省)

関連情報

学校保健統計調査-令和6年度(確定値)の結果の概要(文部科学省)

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スポーツ栄養Web編集部

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