ADHDの子どもは近視が少ない?1万人調査研究で見えた傾向

ADHDの子どもが近視になりにくい理由は何ですか?
脳内のドーパミンが目の成長と関係していると考えられています。
ADHDの薬、メチルフェニデート(MPH)が近視の進行に与える影響は何ですか?
MPHを使用している子どもは、近視になりにくくなる傾向があります。
コロナ禍の生活変化は子どもたちの視力にどのように影響しましたか?
スクリーン時間の増加で、近視の割合が増加しました。

注意欠如・多動症(ADHD)の子どもは、近視になりにくい傾向があるかもしれない。 そんな意外なつながりが、香港で1万人以上の子どもを対象に行われた大規模な調査から明らかになりました。

この研究を行ったのは、香港中文大学の眼科チームを中心とした研究グループです。 医師や研究者たちが協力し、香港に住む6歳から8歳の小学生たちの「目」と「発達」について、6年かけて調べたものです。調査は2016年から2021年にかけて行われました。

参加したのは、全部で10,424人の子どもたち。 そのうち、正式にADHDと診断されていたのは474人でした。

残りの9,950人はADHDと診断されていない、いわば「ふつうの子どもたち」です。

この研究の特徴は、とても丁寧で正確な方法を使っていることです。 ADHDと診断されたかどうかは、病院の記録をもとに確認されており、診断は精神科の医師が国際的な基準にしたがって行いました。

子どもが薬を使っているかどうかも、医療記録から正確に調べられています。

また、視力の検査も大学にある子ども向けの眼科センターで行われ、一般的な健康診断よりもずっと詳しく、専門的な検査がおこなわれました。 たとえば、目薬を使ってピント調整の力をゆるめたうえで、正確な視力や目の奥行き(目の長さ)を測ったりしています。

さらに、生活の様子についても保護者へのアンケートを通して詳しく調べました。 どれくらい外で遊んでいるのか、本やゲーム画面をどのくらい見ているか、家族に近視の人がいるか、家の収入や生活環境はどうか、こうしたいろいろな情報をあわせて分析し、「どんな子どもが近視になりやすいのか?」を探ったのです。

その結果、ADHDのある子どもたちは、そうでない子どもたちに比べて、近視になる割合が明らかに少ないことがわかりました。 年齢や性別などの影響をのぞいて計算すると、ADHDの子どもでは約21%、そうでない子どもでは約26%が近視でした。

なかでも特に注目されたのが、「メチルフェニデート(MPH)」という薬を使っているADHDの子どもたちです。 この薬は、ADHDの子どもによく処方されるもので、集中しやすくしたり、落ち着いて行動できるように助けてくれる働きがあります。

調査対象となったADHDの子ども474人のうち、116人(約4人に1人)がこの薬を使っていました。 その子たちは、薬を使っていないADHDの子どもや、ADHDでない子どもに比べて、さらに近視の割合が低いことがわかりました。 近視の割合は約19%。

しかも、この薬を使っている期間が長いほど、その傾向は強くなることも確認されました。

また、ADHDのなかでも「注意がそれやすい」タイプの子どもほど、近視になりにくい傾向があることもわかりました。 一方で、「じっとしていられない」「落ち着きがない」といった多動的な特徴とは、特に関係は見られませんでした。

研究チームは、「脳の中のドーパミンという物質が、目の成長にも関係しているのではないか」と考えています。 ドーパミンは、ADHDの症状に関係しているだけでなく、目の形が変化して近視になる流れにも関わっているとされているからです。

MPHという薬は、脳内のドーパミンを増やす作用があり、そのことが近視の進みにくさと関係している可能性がある、というのです。

ただし、これはあくまで「可能性」にすぎず、「薬を飲めば近視にならない」と断言できるわけではありません。 今回の研究では、ある時点での子どもたちの状態を比べているだけなので、実際に時間がたつにつれてどう変わっていくのかを調べるには、今後さらに長期間にわたる研究が必要です。

また、この研究では新型コロナウイルスの流行による生活の変化にも注目しました。 コロナ禍のあいだ、外に出て遊ぶ時間が減り、家の中でスクリーンを見る時間が増えたことが、多くの子どもにとって近視の進行につながったと考えられます。

実際、ADHDのある子どもたちでも、コロナの前は23%だった近視の割合が、コロナ中には32%に増えていました。 ADHDでない子どもたちでも同じような傾向がありました。

この研究は、ADHDと近視という一見つながりのなさそうなテーマを結びつけた、ユニークで注目すべき調査です。 今後さらに研究が進めば、目と脳のつながり、そして発達特性に合わせた視力ケアや学習支援がもっと深まっていくかもしれません。

(出典:Investigative Ophthalmology & Visual Science)(画像:たーとるうぃず)

「ADHDの子どもは、近視になりにくい」

これは初めて知る情報です。

意外なところの違い。

困難だけでなく、むしろメリットになるようなことがどんどん見つかってほしいと期待します。

自閉症の人は「左利き」が約2.5倍。ADHDの人にも多い

(チャーリー)

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