旧統一教会に解散命令、教団は清算手続きへ 献金勧誘めぐり東京高裁
黒田早織
高額献金の勧誘などをめぐり、文部科学省が求めた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求について、東京高裁(三木素子裁判長)は4日、教団に解散を命じる決定を出した。
決定は、教団の信者らによる高額献金の勧誘などの被害が42年以上にわたり、「極めて多額の財産上の損害と多大な精神的苦痛を与えた」と指摘。「一般市民が平穏に生活できる社会秩序の維持という公共の利益が損なわれた」と述べ、解散命令が必要だと判断した。
教団に対しては昨年3月、東京地裁が「献金勧誘などにより甚大な被害が生じ、現在も看過できない程度に残存している」と認め、解散を命じた。これに対し、教団が高裁に不服を申し立てていた。
教団側は最高裁への不服申し立てをする方針だが、今回の高裁の判断によって解散命令の効力は生じるため、宗教法人法に基づいて教団の「清算手続き」が始まることになる。教団の全ての財産を管理し、高額献金などの被害者に対する弁済を進めていく。
高裁の決定を受け、東京地裁は4日午前、清算手続きを担う「清算人」に伊藤尚(ひさし)弁護士(第一東京弁護士会)を選任したと明らかにした。伊藤氏は同日、東京都渋谷区の教団本部の調査に入った。全国の教会約300カ所の調査のため、100人単位の態勢を組んでいるという。
伊藤氏は4日夜に会見を開き、清算手続きには「年単位の期間がかかると思っている」と述べた。
会見する世界平和統一家庭連合(旧統一教会)清算人の伊藤尚弁護士=2026年3月4日午後9時36分、東京都中央区、内田光撮影所属事務所のサイトによると、伊藤弁護士は1982年に中央大法学部を卒業し、85年に弁護士登録。企業法務や倒産・事業再生などに関する経験が豊富だという。
旧統一教会は、韓国に教団本部を置くキリスト教系の宗教団体。韓国で1954年に創設され、日本では64年に宗教法人として認証された。
80年代に、困りごとを抱える人に対して教団の信者らが「あなたが不幸なのは先祖の因縁のせいで、解消するにはつぼや印鑑を買う必要がある」などと不安をあおり、高額の献金をさせるといった「霊感商法」が社会問題になった。
2022年7月、奈良市内で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相が銃撃されて殺害される事件が発生。銃撃した山上徹也被告(45)=無期懲役の判決、控訴中=は母親が旧統一教会の信者で、「高額献金により家庭が崩壊し、教団を恨んでいた」などとする犯行動機が報じられた。改めて教団による献金被害に注目が集まった。
東京高裁の決定後、報道陣の取材に応じる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の福本修也弁護士=2026年3月4日午前11時8分、東京都千代田区、藤原伸雄撮影宗教法人を所管する文科省と文化庁は、教団に損害賠償を命じた民事裁判の判決や、170人を超す被害者へのヒアリングなどをもとに、実態の把握に動いた。高額献金などについて80年代以降に1500人以上、約204億円に上る被害があったことを確認した。
宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合、裁判所が宗教法人に解散を命じられると定める。文科省はこの要件にあてはまると判断し、23年に解散命令を請求した。
高裁の審理では、教団が組織体質の変革を図った09年の「コンプライアンス宣言」以降の被害の状況などをどう評価するかが、主な争点になった。
高裁決定はまず、宣言後の教団の対応として①不法行為を防ぐための具体的な対策と、②献金収入の数値目標の引き下げなどが必要だった、と指摘した。
だが、①については、宣言後も「先祖を地獄の苦しみから解放する」といった趣旨の献金勧誘があったと指摘。教団は不当な勧誘そのものを防ぐより、被害者に起こされる民事訴訟の件数を減らすことに重点を置いていたとして、対策は不十分だったと判断した。
②については、教団の献金収入の予算額が、宣言後もそれ以前と同水準である500億円程度であり、予算額が大きく減らされずに全国の教会に献金の達成目標が割り当てられたと指摘。15年~21年度は予算の8~9割の献金を集めていたことなどから「宣言後も不法行為にあたる献金勧誘を継続して行っていた」と認めた。
そのうえで、献金被害の根本的な原因が自らにあることを教団は認めておらず、韓国の本部を含めた活動資金の確保を優先する姿勢が「元首相の銃撃事件を経ても変わっていない」と判断。違法な献金勧誘を防ぐには、解散命令が必要でやむを得ないと結論づけた。
教団側は、裁判に至らなかった示談については裁判所が厳密な事実認定をしたわけではないのに、その件数も地裁決定が「被害」と認めた点を批判。現在は「補償委員会」の設置などで被害者への返金にも対応しているとして、解散命令の必要性はないと訴えたが、いずれも退けられた。
解散命令手続きの流れ今回の高裁の決定に対し、教団は「安倍元首相銃撃事件の犯人・テロリストの『家庭連合を恨み、打撃を与える』という願望を国家ぐるみで叶(かな)えるものと言えます。今回の決定は、事実と証拠に裏付けられずに、証拠裁判主義に反して下された『結論ありき』の不当な判断です。我々は、この不当な司法判断を決して容認せず、(最高裁への)特別抗告を含め、信教の自由を守り抜くため闘い続けます」などとするコメントを発表した。
決定文を受け取った後、教団側の福本修也弁護士は報道陣の取材に応じ「信じられない。法治国家でこんなことがあっていいのか」と怒りをあらわにした。今後、最高裁への不服申し立ての手続きを進めるという。
一方、決定を受けて始まる清算手続きについては「協力する」と述べた。
松本洋平文部科学相は決定を受け、「旧統一教会の信者による違法な献金勧誘などにより、長期間にわたり、多数の人が多額の財産的、精神的損害を受けてきたという我々の主張が認められたものと認識している」とするコメントを出した。
木原稔官房長官は4日の記者会見で、「清算手続きが適切に進められ、速やかに被害者の救済がなされることを期待する。関係省庁に速やかに関係閣僚会議幹事会を開催し、連携して被害者救済に必要な対応を徹底するよう指示した」と説明した。
解散命令の効力が生じたことで、堀正一会長ら教団の役員は全員が退任した。信者の「信教の自由」は憲法で保障されており、信仰や布教などは続けられる。教団によると、月1回以上礼拝に参加したり献金したりしている信者は9~10万人だという。
東京高裁の決定後、報道陣の取材を受ける世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の福本修也弁護士=2026年3月4日午前11時8分、東京都千代田区、藤原伸雄撮影高裁決定は、韓国の教団本体との関係性など資金獲得のシステムについて検証しており、妥当な結論だ。コンプライアンス宣言後の対応について「社会的な批判をかわすため」と厳しく評価した印象だ。
過去のオウム真理教などのケースでは、教団幹部らが刑事責任を問われた。ただ、今回は民法上の不法行為が問題となり、数十年前から続いた被害をどう評価するかが問われた。
民法上の不法行為が1件でもあれば、解散命令という結果になるわけではない。高裁は、被害が大規模にわたる点と、教団に自浄作用がない点をふまえて、解散の結論を出したといえる。
宗教法人法は性善説に立つ制度で、法人へのチェック体制は不十分だ。「信教の自由」に過度に配慮したことで、宗教法人の財務情報なども十分に開示されていない。その結果、宗教に対する不信を招いたともいえる。法改正を含めた政府の取り組みが必要だ。法人側も自発的に情報を公開して社会の理解を深める必要がある。
この記事を書いた人
- 黒田早織
- 東京社会部|裁判担当
- 専門・関心分野
- 司法、在日外国人、ジェンダー、精神医療・ケア