人生初めての冷麺を「ガスト」で体験してみた / SNSで話題になった冷麺の実態はいかに
今年の夏は、「挑戦の夏」にしていきたい。9月にこんなことを言い出す人間が驚異的にろくでもないのは自覚しているため、弁解させてほしい。このたび人生初めての冷麺に挑んだのだが、初挑戦にあたって筆者なりに色々こねくり回して考えたのである。
どうせなら、「本格冷麺店」を探して訪れてみようか。しかし一度その味が基準になってしまうと、それはそれで己の首を絞めることにもなりそうである。ならばどうするか。そこで筆者の脳内に登場したのが、以前SNS上で冷麺に関して話題になっていたファミレス「ガスト」だ。
「ガスト」は2025年5月22日より「涼麺フェア」を開催しており、それに伴って「ガストの冷麺が美味しい」との評判の声が盛んに上がっていた。「ガスト」ならば、仮にその味に溺れることになっても気軽にリピートしやすい。これは相当に丁度良いのではないか。
その結論に至った筆者は、決意にみなぎっていた。どれだけ決意にみなぎっていたかと言えば、「その程度の算段をつけるのに9月までかかったのか」という指摘が飛んでこようと辛うじてやり過ごせるほどだった。
雲一つない晩夏の午後、筆者は「ガスト」を訪れた。店員の方に「冷麺をお願いします」と毅然と言い放つことを試みたが、注文はタッチパネル式であったため頓挫した。
ともあれ、やるべきことは決まっていた。画面上の「海老と蒸し鶏のコク旨冷麺」の表示に指で触れる。価格は税込900円だった。
心中はおおむね期待に占められていたが、一抹の不安もあった。何を隠そう、かねてから「冷麺は嚙み切りづらい」ことも伝え聞いていた筆者は、ほのかに怖気づいていた。その及び腰が今回の挑戦を緩やかに、しかし着実に遅らせていた側面も否定できない。
が、まもなく到着した涼やかで麗しい冷麺によって、不安は忘却の彼方へ追いやられた。見れば、調味料の穀物酢とコチュジャンも付け添えられている。
誘われるようにして箸を取った。初実食を遂げるべく、そしてもろもろの世評が正しいか確かめるべく、麺をすすった。
火照った身体に爽快に沁みる、透き通るような口当たり。それでいて商品名の通り、スープに豊かに溶け込んだコクと旨味が舌の上でたゆたう。例えるなら、まるで口の中で味わい深い「涼」を取ったかのようだった。
気になっていた食感については、確かに嚙み切るのにやや力が要る。筆者が日ごろ他の麺類でやっているように、欲望のまま無軌道に口に含んでしまうと喉に詰まらせる可能性は高い。
とはいえ、食べるのが困難というわけでは決してない。落ち着いて少量ずつすすれば問題はない。むしろそうしてペースを落とすことで、麺の風味や舌触り、もちもちとした弾力、滑らかな喉越しをじっくり堪能することができる。
もし刺激が欲しくなったら、付け添えの調味料を投入すればいい。穀物酢はまろやかながら味覚を毛羽立たせる酸味をもたらしてくれるし、コチュジャンは別角度のコクとひりつく辛さでテイストを様変わりさせてくれる。
これが「ガストの冷麺」か、と思う。冴え冴えと血肉が引き締まるような感覚と、滋味の生む幸福に弛緩するような感覚のあいだで、心地良く揺さぶられる食体験であった。
無論まだ1種の冷麺を食べただけなので強く断言はできないが、「冷麺らしさ」と「ガストの手腕」が上手くひとところに落とし込まれた商品なのではなかろうか。少なくとも筆者は、この場所で「初めての冷麺」を遂げられて後悔はない。
そして、好評に釣られて良かったとも思う。「涼麺フェア」の期限は明示されていないが、どうやらまだ続きそうではあるので、興味の湧いた方はぜひ足早に「ガスト」へ向かってほしい。
筆者もなるべくリピートしたい所存であるし、何なら出遅れてしまった分、永遠にフェアが続くことを望んでさえいる。都合良くこんなことを言い出す人間がろくでもないのは自覚しているが。