年収360万円、貯金ゼロ…「20代女性と結婚したい」60代の未婚男性に結婚相談所が伝えた"残酷なひと言" 男性は「自分の優秀な遺伝子を残したい」というけれど…
結婚相談所には年齢問わず、さまざまな男女が訪れる。主宰する結婚相談所でカウンセラーを務めている大屋優子さんは「相談者の中には、登録すれば希望条件に合致する相手と結婚できると勘違いしている人がいる。60代半ばの男性は『自分の優秀な遺伝子を残したい』と相談所にやってきたが、相手は絶対に見つからないだろう」という――。
※なお、本稿は個人が特定されないよう、相談者のエピソードには修正を加えている。
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“若い女性と結婚できる”という大誤解
「20代女性と結婚したい」
私の婚活サロンの無料相談ラインに自分の年齢も氏素性も記載することなく、ある日このLINEが届いた。結婚したいのだという意思は伝わった。だけど理解できたのはそれだけで、こちらからの問いかけには答えることなく、また「20代女性希望」という一言の返信が来る。
さらにもう一度、「結婚相談所での婚活をお考えなら『独身証明書』や『収入証明書』などの公的書類が必要ですし、一度ご相談にいらっしゃいますか?」と返信しても「20代女性を絶対希望」とだけ返信された。
当然ながら、こちらも会話が成立しないので、その方へのリアクションはできなかったが、結婚相談所で婚活すれば、自分の希望通りの年齢の女性と結婚できると思っているこんな男性が一部にいることも事実である。
結婚相談所は、結婚したい方が真剣に婚活をする場所。全国から老若男女問わず何万人もの方々が登録している。その数は年々増え続けており、決して安くはない入会金や月会費を支払い、活動にあたって絶対に必要な年収証明や、所持資格の証明書も提出する。書類を用意するだけでも一苦労だが、それだけ真面目に人生のパートナーとの出会いを求めている人が多いのだ。
そんな結婚相談所の婚活に
「結婚相談所は最後の砦」 「結婚相談所にはモテないブスしかいない」
そんなとんでもない時代錯誤な誤解をしている人も実は少なくない。
また、結婚相談所に登録したら、選びたい放題に自分の希望するパートナーを紹介してもらえるという妄想を抱いている人も一部には存在する。
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だが、彼の場合、月収30万円で賞与なしなら年収は360万円。住まいは県営住宅の賃貸住まいだそうで、転職を繰り返してきたから蓄えもさほどない。自分の蓄えがないのは、恵まれなかった職場のせい。家も買いたかったがローン申請ができなかった。だから賃貸住まいなんだとふんぞり返っていた。
彼の今があるのはすべて「周りのせい」であり、自分の実力ではないのだという。子供時代から神童と呼ばれるほど優秀で、掛け算の九九はクラスで一番に覚えた。その後、中学、高校と進学したというが、家庭の事情で大学には進学できなかった。
それは親が学費を出せなかったためだと言い、大学に行けなかったことも「親のせい」であるというのが彼の主張だった。「俺ならどこの大学にも行けたのに」と、あきらめざるを得なかった家庭環境を心底恨んでいた。この彼の話は、『他責思考』の代表選手と呼んでも誰にも否定されないだろうなあと思いながら話を聞く。
“優秀な遺伝子を残したい”から結婚したい
彼に結婚したい理由を聞いてみた。「1人は寂しいから」に加えて「自分の優秀な遺伝子を残したいから」だという。この言葉に私は驚きを隠せず「お子さんを望んでいらっしゃるのですか?」とつい大きな声で聞き返した。彼の実姉に「あんたの子供が見たかった」「あんたの子なら優秀だろうね」と言われたことが結婚相談所に登録したいと思う引き金になったらしい。
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「お子さんを望んでいらっしゃるということですが、何歳くらいの女性とのご結婚をお考えでしょうか?」 「40代だと子供は難しいから、いってても30代までかな。20代でも構わないがね」
当然だろ、何を聞いてやがるんだ、という表情で彼は自信満々に答える。これにのけぞるほど驚かされたのはこちらのほうだ。心の中で「何を言ってやがるんだ」と大声で叫びたいのは私のほうである。
結婚相談所で結婚していくカップルの年齢の差は、4歳くらいまでがもっとも多く、中には男性が女性より一回り以上年上の年齢差のご縁もないとは言えないが、これには男性側の年収が著しく高い、医師や弁護士などの士業や会社経営者などの理由がある場合がほとんど。
たとえ年収が2000万円を超えていたとしても、簡単に10歳以上年下の女性と結婚できるわけではない。医師だろうが、資産家だろうが、若い女性と結婚したいなら、大変な努力が必要だということは、婚活している高年収男性たちも理解している。
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月日がたった別のある日、婚活無料相談にやってきたのは60代半ばの初婚男性。髪は白髪交じりで、バーコードヘア。おでこの後退は進行中。お酒を嗜む中年男性特有の少しふくれた赤い鼻には、黒いプツプツとした毛穴が目立っている。襟がヨレっとした薄いグレーのポロシャツに、着古した印象のベージュのジャンパー。ズボン丈が短いのか、ノーブランドのスニーカーから足首がだぶついた毛玉が目立つ黒いソックスが見える。
見た目は申告年齢よりやや上に見える。60代半ばといえばそうかもしれないが、70代半ばだとしても年齢相応だ。彼の話を聞くところによれば、今まで仕事に恵まれず、職を転々としてきた。だから結婚するチャンスがなかったのだと言う。タイミングがなかっただけで結婚はしていたはずだ、という話しぶりである。
まず彼は饒舌に、過去の不遇な職場での扱いをとどまることなく語る。こんな会社に勤めていたが、上司がとんでもない野郎で、辞めてやった。こんな条件でと就職したのに、実際は与えられたノルマを達成する必要に迫られ、話が違うとケツをまくってやった。彼の罵詈雑言はとどまることを知らず、勤めていた会社の悪口や愚痴がわんさか出てくる……。
私は婚活カウンセラーではあるが、就活カウンセラーではないのに。
「今なら結婚できる環境が整った」から
そんな不遇な過去の会社から、十数社目かの転職。昨年から勤務している彼の現在の会社は、社長に見初められて、自分の能力に期待されて昨年から勤め始めたという。給料は30万円で賞与はないらしいが、社長には70歳くらいまで勤めていいよと言われているんだと自慢たっぷりに語ってくれた。彼曰く「だから今なら結婚できる環境が整った」から結婚相談所に来たのだそう。
雇用形態を聞くと「パート」扱いだという。年齢が60歳を過ぎているので、パートにしかなれないが、社長は自分を頼りにしていて、「俺なしでは会社は回らないんだ」と自信満々に豪語する。去年入社したばかりなのに、である。
結婚相談所の婚活において、男性は年収記載が必須だ。業種や正社員かパートなのか、預貯金などの資産や、持ち家なのかなども記載することがある。特に預貯金や不動産資産については、シニア層の婚活には有利に働くことがあるので、資産状況については面談時にお伺いするようにしている。この理由は、すでに会社を勇退していたとしても、不動産や預貯金、株などの大きな資産をお持ちの方もいるからである。
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年収が高いだけでは、若い女性と結婚できない。見た目の若作りはもちろんのこと、楽しい会話や女性が喜ぶデートプラン。年齢差を乗り越えても、幸せな結婚生活を持てるという安心感を提供できなければ実現はない。つまりは、お金さえあれば誰とでも結婚できるわけではないのである。
ましてや彼は前述の通り、申し訳ないけれども見た目が“しょぼくれたオッサン”そのもので、イケてる雰囲気はどこを探しても見当たらない。その上、転職したての年収360万円のパート勤務。預貯金も持ち家もない。彼の横に、もしも30代や40代の女性が並んでいたら、違和感しか抱かないような風体である。
結婚は等価交換である。与えられるだけの結婚はないし、若い女性が積極的に年上男性との結婚を望むには、それなりの理由が存在する。「身の丈に合った」とはよく言ったもので、与えられるものと与えるもの、つまりはギブアンドテイクのバランスがとれていれば、歳の差婚はなくはない。
恋愛結婚ではこの限りではないかもしれないが、結婚相談所という場所での婚活となれば、条件によっては、ということも起きる。
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「外国人女性なら可能性はあるかもしれない」
こうしたことを全く理解していないのはこの男性で、そんな現実について言葉を選びながらお伝えすると、彼の顔が怒りからか真っ赤になっていく。サンタクロースのそりを引くトナカイのような赤い鼻だけでなく、顔全体がみるみる赤く染まった。彼の背後から「メラメラ」という効果音が聞こえてきそうである。
結婚相談所なんだから希望の相手を紹介してくれるのが当然なんじゃないか、それがあんたの仕事だろう、と食い下がられる。
「今からお子さんが授かったとして、大学に進学するころには平均寿命くらいになりますが、お子さんの教育費はいかがお考えですか?」 「今の会社で頼られているんだから、大丈夫だ」
エビデンスもないのに、その自信はどこから来るのか、なぜ大丈夫なんだか理解に苦しむ。
諦めない彼に、どうしてもお子さんと望むなら可能性があるかもしれないのは、外国人女性との結婚で、その話を少ししてみた。経済的安心感や日本で働きたいという理由から、日本人と結婚したい外国人女性がいること。その結婚には、渡航費用や手数料、紹介料を含めると100万円単位のお金が必要なことなどを説明してみた。
彼はさらに激昂し、なんでそんなに金がかかるんだ。なんで俺が外国人と結婚するんだ。英語なんか話せるわけないだろ、と威張りだす始末。手が付けられないとはまさにこのこと。