14・5億円だまし取った大阪・ミナミの「地面師」手口の詳細 ニセ借用書で住民票を入手

送検のため大阪府警本部を出る福田裕容疑者=6日午前9時6分

物件を所有する不動産会社代表になりすまして土地取引をもちかけ、売買代金計約14億5千万円をだまし取ったとされる「地面師」事件で、グループ側が、不動産会社代表に金を貸したとする虚偽の「借用書」を役所に提出し、代表の住民票の写しを入手していたことが6日、関係者への取材で分かった。

法律上、本人でなくても訴訟提起などの必要性が認められれば写しが交付される制度を悪用した格好だ。グループ側は住民票記載の個人情報を基に、作成した精巧な偽の身分証を悪用して代表になりすまし、関連書類を次々と入手、取引相手を信用させていたとみられる。大阪府警は6日、詐欺容疑で会社役員、福田裕容疑者(52)を送検。グループの手口など実態解明を進める。

府警は詐欺容疑に先立ち、電磁的公正証書原本不実記録容疑などでも福田容疑者を逮捕。逮捕容疑は昨年1月、ほかの男女と共謀し、大阪市内の区役所で、不動産会社代表名義の偽の運転免許証などを使って、虚偽の印鑑登録を申請、法務局にも偽の書類を提出してグループの男が新たに代表に就任したとの内容で不動産会社の登記簿を変更したとしている。

関係者によると、グループ側はまず、区役所の窓口に「不動産会社の代表に数十万円を貸した」との借用書を示して代表の住民票の写しの交付を請求。入手した写しに記載された個人情報を基に、偽の運転免許証を作成し、それを利用して代表になりすまして印鑑登録を勝手に変更、「正規」の印鑑登録証明書を入手していた。さらに、その印鑑登録証明書や偽の株主総会の議事録を法務局に提出し、登記簿の内容も変更していた。

結果的にグループ側は、自らを物件所有者と示す公的書類を入手。これらを用いつつ、グループの一人が「(本来の所有者の)おいにあたる」などと交渉相手に噓をいい、土地取引を持ち掛けていたという。

本来の所有者の住民票写しを入手できたことがなりすましの発端となった形だが、大阪市によると、提出された借用書などの記載内容の確認は行うが、原則、当事者への連絡などは行わないという。

福田容疑者の詐欺の逮捕容疑は、昨年2~3月、所有者になりすまして大阪・ミナミの3物件の売買契約を締結し、不動産会社2社から計約14億5千万円をだまし取ったとしている。

地価高騰 「われ先に」の心理利用

「地面師」グループが売買をもちかけた3つの土地・建物は、いずれも地価が高騰する大阪・ミナミの繁華街に位置する好物件だった。転売での利益も期待できるため、購入希望者が多く、不動産業界の「われ先に」との心理が利用された可能性がある。

ミナミの一角にある古びた6階建ての店舗兼マンション。シャッターが下りた1階の駐車場には空き缶やごみ袋が散乱。2階以上もベランダに洗濯物などはなかった。

一方で、国立文楽劇場からもほど近く、周囲にはインバウンド(訪日客)も多く行き交うなど絶好の立地で、「購入希望者は結構いたはずだ」と不動産業界で働く40代男性は話す。男性によると、実際に売買交渉を試みた不動産関係者もいたというが「(所有者は)売却の意思が薄く、断られていた」と明かす。

福田裕容疑者は、この物件だけで売却代金として4億5千万円をだまし取ったとされるが、男性は「立地を踏まえれば、考えられない安値。相場はもっと高い」とする。

国土交通省の公示地価(1月時点)によると、この物件がある土地は1平方メートルあたり760万円で、前年からの上昇率は22・6%に達した。

別の不動産関係者は「もし安値で購入できたら、簡単に利益が得られる」と話す。そのため、通常は下見や測量などを重ねた上で慎重に売買契約を締結するが、手続きを省略する会社も業界内に存在するという。

地面師か、不動産所有者なりすまし14・5億円詐取疑いで男を逮捕 大阪府警

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