二松学舎大、トップの疑惑扱った講師を不採用 教授会「不正にふた」

毎日新聞 2025/5/12 05:30(最終更新 5/12 05:30) 有料記事 3421文字
二松学舎大前学長による論文盗用を疑惑段階で授業で取り上げた非常勤講師。前学長の不正に触れたことなどを理由に採用を見送られ、「大きく失望した」=東京都千代田区で2025年3月5日午後2時48分、平塚雄太撮影

 二松学舎大(東京都千代田区)前学長による論文盗用を巡り、疑惑が報じられた段階でこの問題を授業で取り上げたなどとして、大学側が文学部専任教員(専任講師、准教授)の募集に応じた非常勤講師の30代男性を不採用にしていたことが毎日新聞の取材で判明した。

 大学側は「前学長に対する名誉毀損(きそん)の恐れがある」と主張する。

 これに対し、研究業績や面接結果などを踏まえて男性を「採用候補者」とし、大学側に上申した文学部教授会は「報道されたことに触れて何が問題なのか。前学長の不正に蓋(ふた)をしたいだけだ」と反発している。

 大学側は男性から事情を聴かずに不採用の判断をしており、名誉毀損問題や大学運営に詳しい専門家も「考えられない対応」と指摘する。

 <主な内容> ・前学長、論文盗用で懲戒処分 ・学生「あまり真剣に聞いていなかった」 ・大学側、男性にはヒアリングせず ・男性「何が問題か、全く分からない」 ・前文学部長「学問の場で恥ずかしい」 ・「かえって大学側に名誉毀損リスク」

 ・大学運営の専門家も非難

前学長、論文盗用で懲戒処分

 前学長の疑惑が浮上したのは、2023年4~5月にさかのぼる。

 発端は、前学長の複数の論文や著作に対し、捏造(ねつぞう)や盗用を疑う通報が大学に2件寄せられたことだった。

 毎日新聞が直後の6月に疑惑を報道。大学側は外部有識者を交えた調査委員会を設置し、9月から論文や著作計7点を対象に調査を始めた。前学長は9月26日付で学長を辞任した。

 調査委は翌24年2月、論文1点の盗用を認定し、他の論文と共著書の2点についても「存在しない可能性が極めて高い」などと指摘した。

 これを受け、前学長は8月に減給の懲戒処分を受けた。

 一方で、欠員が生じた文学部では24年7~8月、25年春に向けて専任教員を募集した。

 文学部教授会は複数の応募者を選考した結果、文学部で非常勤講師を務める男性を唯一の採用候補者とし、大学側に上申した。

 ところが、最終面接に当たる学長面接を行った佐藤晋・現学長は24年12月、文学部長(当時)の江藤茂博教授に「『研究業績』等に基づく教員資格審査についてその結果を否定するものではありませんが、学長として総合的に判断した結果として今回の採用は見送ることとしました」と文書で伝えた。

学生「あまり真剣に聞いていなかった」

 「総合的な判断」とは何を意味するのか。

 二松学舎大総務・人事部は取材に、男性が調査委の結論が出る前の23年7月に授業で前学長の疑惑に触れたことが採用見送りの一因になったことを明らかにした。

 そのうえで、「調査中の段階で真偽が不明だったにもかかわらず、授業で研究不正と断定するかのような説明をした可能性があり、前学長個人の名誉を毀損した恐れがある」と説明した。

 総務・人事部によると、授業は「漢学と文章表現」という文学部の必修科目で、1年生を中心に約100人が受講していた。

 講義後、学生から問い合わせや批判の声が教務窓口に相次いで寄せられたといい、大学側は複数の学生にヒアリングを行った。

 その結果、ある学生は「あまり真剣に聞いていなかった。前学長の著書の文面が配られたと思う」などと語り、別の学生は「(非常勤講師の男性は前学長が)盗用したとされる事例を挙げ、『いま話題の』と言っていた。前学長の名前が出たと思う」などと話したという。

 こうした学生の話や当時の感想などを例示しながら、大学側は男性が前学長の論文について「(盗用を意味する)剽窃(ひょうせつ)の見本」という趣旨の説明をし、名誉を毀損した恐れがあると認識したとしている。

大学側、男性にはヒアリングせず

 また、大学側は結果的に調査委が盗用と認定しなかったものを授業で取り上げたことも問題視し、「学生に誤った情報を伝えて混乱を招いた」(総務・人事部)とも主張する。

 しかし、採用見送りを決めるまでの間、男性へのヒアリングはしていない。

 つまり、学生と男性の双方から事情を聴いて多角的に事実関係を把握することなく、男性の採用を見送った形になる。

 その点について、総務・人事部は「(採用見送りの理由は)これだけではない。それ以外の理由もあった」などと釈明したが、それ以外の理由は明らかにしなかった。

男性「何が問題か、全く分からない」

 では、男性は本当に「剽窃の見本」という趣旨の説明をしたのか。

 男性を取材すると、「学…

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