謎の天体「暗黒彗星」、新たに7個が発見される
見た目は小惑星のようだが、彗星のような動きを見せる「暗黒彗星」。暗く見えることからこのように呼ばれるが、実のところ謎が多い天体だ。
例えば、暗黒彗星には彗星に特徴的な“尾”が見られないので、見た目は小惑星に近い。しかし、表面からのガス噴出が原因とみられる大きな加速をすることがあり、この動きは彗星に近いのだ。
これらの性質において暗黒彗星は、太陽系の外から飛来した恒星間天体として2017年に史上初めて確認された「オウムアムア」によく似ている。オウムアムアにも尾はなく、表面からのガス噴出が原因とみられる加速をしているからだ。
このように実に興味深い“謎の天体”である暗黒彗星について、このほど新たに7個が確認されたことを米航空宇宙局(NASA)が12月9日に発表した。これまでに見つかった暗黒彗星は通算14個になり、暗黒彗星の性質を少なくともふたつに分類できることが明らかになったという。
最初の手がかりとなった“小惑星”の存在
ことの始まりは、2016年3月だった。小惑星であると考えられていた天体「2003 RM」の軌道が、計算において期待されていた軌道と若干ずれていることがわかったのだ。
このずれは2003 RMが加速したことが原因だったが、実は小惑星が加速すること自体は起こりうる。異例だったのは、この加速が小惑星を加速させる典型的な原因として考えられる「ヤルコフスキー効果」では説明できないほど大きかったことだ。
天体が太陽からの放射で温められると、温められた天体は今度は逆にその熱を電磁波として放射する。この電磁波には圧力があり、さまざまな要因の影響を受けながらもごくわずかだが天体を加速させ、その軌道に影響を与える。これをヤルコフスキー効果と呼ぶ。
だが、ヤルコフスキー効果による加速はごくわずかだ。2003 RMの軌道のずれを生じさせたような大きな加速は、彗星に典型的である表面のガス噴出による加速である可能性が高い。
「そのような天体の軌道のずれが観測された場合には、そのずれは表面からのガス放出による加速によるものであり、その天体は通常は彗星だと考えられます」と、新たに発見された暗黒彗星に関する論文の共著者であるNASAジェット推進研究所(JPL)のダビデ・ファルノッキアは解説する。
しかし、どれだけ探しても、2003 RMに彗星のような尾を見つけることはできなかった。天文学者たちはしばらくの間、この天体を完全には理解できない「奇妙な天体」とするほかなかったのである。
そして翌年の2017年になると、太陽系の外から飛来したとされる恒星間天体として史上初めて「オウムアムア」が確認される。オウムアムアにも尾は見られず、あたかも表面からのガス噴出による加速を思わせる軌道の変化を見せた。
2017年に確認された史上初の恒星間天体「オウムアムア」のイメージ図。このオウムアムアと暗黒彗星は性質が似ているという。
もちろん、オウムアムアは暗黒彗星とはよく似ているものの、暗黒彗星とは異なる。「太陽系外からやって来たオウムアムアが2003 RMとよく似ていることは、2003 RMをより興味深い存在にしました」と、ファルノッキアは当時を振り返る。
それから2023年までに天文学者たちは、見た目は小惑星だが動きは彗星という奇妙な天体を、合計で7個確認した。かくして天文学者たちは、新たに「暗黒彗星」というカテゴリーを設けることになったのである。
少しずつだが進む暗黒彗星の理解
今回、新たに7個の暗黒彗星が確認されたことで、これまでに見つかった暗黒彗星は合計14個になった。これにより暗黒彗星の性質の違いが浮き彫りになり、少なくとも2種類に分類できることがわかったという。
「何らかの基準で暗黒彗星を分類できるかどうか検討を始めるために必要な、十分な数の暗黒彗星が揃いました」と、今回の論文の主著者でミシガン州立大学物理学部の博士研究員であるダリル・セリグマンは語る。
研究チームによると、光の反射率と軌道の分析から、暗黒彗星はふたつのグループに分類できるという。「内太陽系暗黒彗星」と「外太陽系暗黒彗星」だ。
内太陽系暗黒彗星は、水星、金星、地球、火星などが属する内太陽系に存在している。その軌道はほぼ円で、大きさは数十メートル以下と小さい。
これに対して外太陽系暗黒彗星は、木星、土星、天王星、海王星などが属する外太陽系に存在している。その軌道は楕円で、大きさは数百メートル以上と大きい。
こうした新たな発見こそあったものの、まだ残された謎は多い。暗黒彗星の起源はどこにあるのか。暗黒彗星の異常な加速を生み出している本当の原因は何なのか。暗黒彗星は水の氷を含んでいるのか──。
「暗黒彗星は生命に必要な物質を地球にもたらした源の新しい候補のひとつです。暗黒彗星について学ぶほどに、地球の成り立ちについて暗黒彗星が果たした役割をより深く理解できるようになるでしょう」と、セリグマンは今後の研究に期待を寄せている。
(Edited by Daisuke Takimoto)
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