監督・柿本広大が振り返る『BanG Dream! Ave Mujica』制作舞台裏③

――前回「スタッフに恵まれた」というお話がありましたが、制作を振り返って「この人がいなければ完成しなかった」というキーマンをあえて挙げるとすると? 柿本 たくさんいらっしゃるんですけど……まずひとり目は、CGスーパーバイザーの奥川(尚弥)さんです。彼がいてくれたことで、過去のTVシリーズと比べて『It’s MyGO!!!!!』と『Ave Mujica』は段違いのクオリティになったと思います。これまでのシリーズでは同じCGモデルを流用していたんですが、今回、新キャラクターが軸になると決まって、モデルを一気に作り直したんです。そこで奥川さんをはじめとする社内スタッフで「これまでどんな部分で苦労していたか」というリストを作って、ライティングや芝居をさせる上でこれまでできなかったことを洗い出していったんですね。それを、奥川さんの技術と知識で、現場が動き出す前段階までにひとつひとつクリアしてくれたんです。おかげで演出の幅がグッと広がりました。絵コンテにも初挑戦してもらったのですが、そちらも素晴らしいクオリティでした。とても感謝しています。

――ふたり目は? 柿本 CGディレクターの皆さん、とくに名前を挙げさせていただくと山之口(創)さんですね。『Ave Mujica』最終話のライブや第11話の初華の独白などは、大変な作業量のうえにきめ細かな表現を重ねて、画面に情熱を叩き込んでくれました。絵コンテを担当してくださった岡(こずえ)さんの熱い仕事も忘れられません。最終話では、コンテの打ち合わせ前に舞台設定を考えてきてくださったり。この作品に、大変な情熱をもって仕事をしてくれるスタッフが周囲にいっぱいいたおかげで、僕の仕事がどんどんなくなっていったんです(笑)。作品を支えてもらうというだけでなく、僕の手や目の届かないところまでも力強く引き上げてもらった印象です。本当にうれしいことです。……まだまだ挙げたい人がいるのですが、かまいませんか?

――どうぞどうぞ(笑)。 柿本 美術監督の山根(左帆)さんと対馬(里紗)さんにもとても助けられました。光と影の芝居がしっかりとできたのは、このおふたりの力によるものです。そして忘れてはならないのが、音楽プロデューサーの緒方(航貴)さんと松本(拓輝)さんですね。音楽制作の面からAve Mujicaの物語に寄り添い続け、ともに支えてくださった信頼のお二方です。最終話の曲をどんな感じにするかの打ち合わせをしたんですが、ちゃんと『バンドリ!』の楽曲でありながらMyGO!!!!!の、Ave Mujicaの楽曲になっていて。おふたりと音楽チームには感謝しかありません。……まだまだキリがないんですが、制作のさまざまな面で、多くのスタッフの熱い仕事に触れられるのは監督の特権でもあるので、またどこかでお話できる機会があればと思います。この作品は本当にスタッフとキャストに恵まれています。自慢ですね。

――キャストというと、柿本監督は音響監督も担当していますが、Ave Mujicaのメンバーを演じた5人の印象はいかがでしたか? 柿本 皆さん本当に素晴らしかったです。まず佐々木(李子)さんはドロリスと初華の演じ分けからして凄まじかったですね。ドロリスと初華は同一人格ですけど、ほんとうに絶妙な演じ分けをされていて、息を吐く仕方まで変えるところにプロフェッショナルを感じました。睦役の渡瀬(結月)さんは1人13役をお願いすることになり、他のキャストに先んじて演技プランを共有する機会をいただいたのですが、それぞれの役に解釈をつけて正確に演じ分けてくださって、その様子がまさにモーティスでした。岡田(夢以)さんは、ご本人は細やかな気遣いをされる、その場の雰囲気を柔かくしてくれるようなお人柄なのに、いざ収録となると本当に海鈴そのもので。海鈴はAve Mujicaでは珍しく喜劇的な面も持っているのですが、その演じ分けも見事で、役者さんってすごいなとあらためて感動しました。米澤(茜)さんは……とにかくびっくりしましたね。台本を丸暗記していらしたり、ほぼ初めての現場にもかかわらず、役が求める声をその場で出せるということにも。人が「役者」になる瞬間を目の当たりにした気がします。

――いちばん壮絶な物語を背負った祥子役の高尾奏音さんは? 柿本 高尾さんは最初から盤石でしたが、祥子というキャラクターと本当に真摯に向き合い、彼女のすべてを一緒に背負ってくれていました。背負うものが多すぎて心配になるくらいでしたが、終わってみれば彼女の器に大きく助けられたと思います。

――スタッフ&キャストを振り返ってもらいましたが、『Ave Mujica』の放送が終了した今、柿本監督としてはどのような心境ですか? 柿本 『Ave Mujica』は『MyGO!!!!!』とは真逆の、物語においても音楽性においても倒錯した物語です。作品を作るこちらも覚悟を決めて、彼女たちと、彼女たちの世界を表現しきるというコンセプトからブレることなく作り上げることができました。そして、そういう作品を、その世界に没頭できる環境で制作させていただけたことに、いちばん感謝しています。

――結果として、これまで『バンドリ!』シリーズに触れてこなかった方にも刺さっている印象があります。 柿本 それはとてもうれしいですね。これまでのシリーズの枠組みを外して作るという、最初のコンセプトを完遂できたこともあり、報われた気持ちです。やりきれなかった部分はしっかり反省して、次回作に活かしていきたいですね。

――偶然ではありますが、『It’s MyGO!!!!!』『Ave Mujica』の前後には他のガールズバンドアニメもヒットしました。この結果についてはどのように捉えていますか? 柿本 バンド活動をしている女の子たちがたくさん描かれる、大ガールズバンド時代が本当に来たんだなと……。(『ガールズバンドクライ』の)トゲナシトゲアリとMyGO!!!!!の対バンもできましたし、作品の枠を越えて手を取り合うことができたのも、やはり音楽の力が大きいのかなと思っています。音楽を聞くとき、好きな曲やジャンルから入って少しずつ裾野を広げていくように、好きな作品から入って、アニメにおける音楽の粋を凝らした、いろいろなバンドアニメを楽しんでもらえたらうれしいですね。

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