古巣の激震に”冷ややか”なオコン、F1ルーキー達は「きな臭かった」と非難―ドゥーハン降格とオークス辞任のアルピーヌ
わずか6戦での新人ジャック・ドゥーハンの降格とチーム代表オリバー・オークスの突然の辞任――F1界全体に衝撃を与えた古巣アルピーヌF1の人事劇に対し、エステバン・オコン(ハース)は「特に驚いていない」と冷淡な反応を示し、このチームの内部事情を垣間見せた。
わずか6戦での交代劇とオークスの衝撃辞任
ドゥーハンの降格は、アルゼンチン人ドライバー、フランコ・コラピントの昇格と同時に発表された。シーズン序盤の段階から、ドゥーハンの契約には「6戦後に交代可能」とする条項があると報じられていた。また発表に先立って、コラピントのスポンサーが口を滑らせていた経緯もあり、ドゥーハンの降格は既定路線とみられていた。
開幕6戦でドゥーハンはポイントを獲得することができなかったが、ベテランのチームメイトであるピエール・ガスリーも7ポイントと、アルピーヌの2025年型「A525」は安定的にポイントを獲得できるだけの競争力を欠いている。
予選では何度か好調な走りを見せたドゥーハンだが、マシンのポテンシャルの限界もあり、ポイント圏内でのフィニッシュは果たせなかった。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
ジャック・ドゥーハン(アルピーヌ)とともにドライバーズパレードに向かうリアム・ローソン(レッドブル・レーシング)、2025年3月23日(日) F1中国GP(上海インターナショナル・サーキット)
一方、オークスの辞任は、兄であるウィリアム・オークスが「犯罪収益の移転」の容疑で逮捕された直後に発表された。チーム側は辞任の理由を「個人的な事情」と説明しているが、そのタイミングの一致からさまざまな憶測が広がっている。
この事態を予期させるような兆候は表面上まったく見られなかっただけに、パドックには大きな衝撃が走った。
だが、昨年までアルピーヌに在籍していたオコンにとって、一連の人事は驚くに値しないものだったようだ。
第7戦エミリア・ロマーニャGPに先立ちオコンは、「残念ではあるけど正直、特に驚いてはいないし、あまり言うこともない」とした上で、「今の自分の状況には満足してる」と付け加えた。
オコンは、昨年のモナコGPでチームメイトのガスリーと接触し、レースを台無しにしたとしてチームから非難を浴びた。その後、アルピーヌとの関係は急速に悪化し、激しく対立した末にチームを離脱するに至った経緯がある。
それだけに、アルピーヌというチームがドライバーをどう扱うかについて、オコンは他の誰よりも深く理解している存在といえる。
パドック内の反応:新人たちからの非難
ドゥーハンの心情を最も理解できる存在といえば、ドゥーハンよりもはるかに早いわずか2戦でレッドブルのシートを失ったリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)だろう。ただ、彼には幸運な側面もあった。レッドブル傘下のBチーム、レーシング・ブルズに戻ることができたからだ。
ローソンは、旧知の仲であるドゥーハンを擁護し、すでに本人とも連絡を取ったことを明かした上で「F1は本当に非情な世界だ」と批判的な姿勢を見せた。
「ジャックは、F1に残るに値するものを示したと思う。確実に、F1にふさわしい存在だった。だけど、たった5戦で、しかもルーキーイヤーに持てるすべてを証明してみせろだなんて。一体、どうしろっていうんだ?」
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記者会見で話すリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)、2025年5月15日(木) F1エミリア・ロマーニャGP
英専門メディア『The Race』によると、レーシング・ブルズのルーキーであるアイザック・ハジャーも、ドゥーハンの境遇に強い共感を示した。「正直、開幕前からちょっと、きな臭かったよね」とハジャーは語った。
「シーズン開幕前の段階から、彼には大きなプレッシャーと期待がかかっていた。決して良い環境とは言えなかったし、かなり不公平に思える。まだ6戦しか経っていないし、しかも彼のクルマはロケットのように速いわけでもなかったからね。ちょっと酷すぎるよ」
「ルーキーに経験を積ませたいなら、レースに出さなきゃ始まらない。出場機会がなければ成長なんてできない」と、ハジャーは”同期”への共感を示した。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
メディア対応するアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、2025年5月15日F1エミリア・ロマーニャGP(イモラ・サーキット)
同じくハースの新人、オリバー・ベアマンも「想像するだけで最悪な状況だっただろうし、彼の扱いは本当に不公平だったと思う」と語り、「人をすぐに切り捨てる最近の風潮」を批判した。
「僕自身もルーキーの立場だからこそよく分かるけど、特にシーズン序盤の四分の一は本当に大変なんだ。6戦中4戦は僕らルーキーにとって初めて走るサーキットだったし、スプリントも2回あった」
「それなのに、彼がよく知っているヨーロッパのサーキットに行く前に、シートから降ろしてしまった。だから僕の意見では、本当に酷すぎると思う」とベアマンは付け加えた。
Courtesy Of Haas
メディア対応するオリバー・ベアマン(ハース)、2025年5月15日F1エミリア・ロマーニャGP(イモラ・サーキット)
僚友ガスリーは慎重発言
一方、現在もアルピーヌとの契約下にあるガスリーは、慎重に言葉を選ばざるを得ない立場にあり、ネガティブな点ではなく、この先への期待に焦点を当てた。
ドゥーハンについてガスリーは「できる限り彼をサポートしようとしてきた。彼は素晴らしい奴だし、本当に速い。F1への道のりは決して平坦じゃないから、僕の経験を活かしてできる限りサポートしたかったんだ。彼にはうまくいってほしかったからね」と語った。
さらに、ドゥーハンとコラピントは「本当に仲が良い」と明かし、「フランコも素晴らしいドライバーだ。それが彼をチームに迎え入れた理由でもある。ウィリアムズでも上手くやっていたしね。ジャックとも良い仕事ができたし、フランコともきっと良い関係が築けると思う」と付け加えた。
また、オークスについては「彼とのやり取りはとても明快で透明性があったし、彼がチームに持ち込んだ考え方を僕は気に入っていた」とし、「寂しいけど、彼の決断を尊重する」とコメント。チームのビジョンや目標は変わらず、内部の混乱は感じていないと強調した。
コラピントは、エミリア・ロマーニャGPからオーストリアGPまでの5戦にわたり、アルピーヌA525をドライブする予定であり、シミュレーターや旧型マシンによるテストを通じて準備を進めている。
今回の起用は、将来を見据えたドライバー評価の一環とされているが、チームの説明通りに「5戦限定」で終わるのかどうかは不透明だ。
この動きに関連し、オコンはドゥーハンについて「ジャックのことは悲しいけど、何度か素晴らしい走りをしていたし、予選での速さもあった」と語り、「いずれまたF1に戻ってくるはずだ」とエールを送った。
また、コラピントについても「F1にいる資格はある」と評価し、F1界の現実についてこう指摘した。
「今のグリッドには、才能あるドライバー全員を乗せられるほどのシートがないのが現実なんだ」
一方、自身も2019年にレッドブルからトロロッソへとシーズン途中で降格された経験を持つガスリーは、ドゥーハンに対してアドバイスを送った。
「大事なのは、自分にとって重要なことに集中することだと思う。周囲の雑音やネガティブなエネルギーは必ず出てくるけど、そういったものは一旦脇に置いて、自分のすべきことに集中するしかない」
「僕は(レッドブルから降格された後も)レースに出られていたから、自分の速さを証明するチャンスがあった。でも彼の場合、シミュレーター作業がメインになるだろうし、次にクルマに乗れる機会がいつ来るかわからない」
「精神的にはすごく大変だと思うけど、とにかく強くあることが大切だ」