世界最高峰の野生生物写真コンテスト2025、幽霊のようなカッショクハイエナほか受賞作18点
英ロンドン自然史博物館が毎年開催している野生生物写真コンテスト「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の最優秀賞に輝いたのは、南アフリカの写真家ウィム・ファン・デン・ヒーバー氏。めったに見られない近危急種(near threatened)のカッショクハイエナ(Parahyaena brunnea)が、かつてダイヤモンドの採掘が行われていたナミビアのゴーストタウンをうろつく姿を撮影することに成功した。(WIM VAN DEN HEEVER, WILDLIFE PHOTOGRAPHER OF THE YEAR)
2025.10.18
その完璧な一枚を撮るのに10年かかった。ナミビア南部の海岸沿いにある廃鉱山の町で、ウィム・ファン・デン・ヒーバー氏は足跡とふんを発見し、世界で最も珍しいハイエナであるカッショクハイエナの写真を撮るチャンスを見いだした。大西洋から流れ込む霧のなか、カメラトラップ(自動撮影装置)を設置して待った。そして、待ち続けた。
忍耐は実を結び、カッショクハイエナの幽霊のようなポートレートを「想像しうる最も完璧な構図」で撮影できた。廃墟となった建物の傍らで、夜を見つめる姿だ。この写真「ゴーストタウンの訪問者(Ghost Town Visitor)」により、ファン・デン・ヒーバー氏は10月14日、英ロンドン自然史博物館が主催する第61回野生生物写真コンテスト「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の最優秀賞に輝いた。
この写真は「野生が人間の文明を利用する不気味な対比」だと審査員のアカンシャ・スード・シン氏はプレスリリースで述べた。「喪失と回復力、そして自然界の静かな勝利という多層的な物語であり、野生生物と自然保護の写真として忘れがたい作品です」
「フォトジャーナリズム・インパクト賞」の受賞者はブラジルのフェルナンド・ファシオーレ氏。オオアリクイの孤児がリハビリセンターで飼育係の後を追っている。母親は車にひかれて命を落とした。ファシオーレ氏は、ブラジルでオオアリクイが減少している主な要因である交通事故の深刻さを訴えたいと考えた。(FERNANDO FACIOLE, WILDLIFE PHOTOGRAPHER OF THE YEAR)
夜行性で単独行動を好むカッショクハイエナは、めったに見ることができず、写真に収めるのも簡単ではない。それでも、オットセイの子どもや打ち上げられた死骸を求め、ナミブ砂漠の海岸に向かう途中、かつてダイヤモンドの採掘が行われていた廃虚の集落コールマンスコップを通ることは知られている。(参考記事:「ギャラリー:世界のゴーストタウン10選」)
直接撮影するのは難しいと判断し、ファン・デン・ヒーバー氏はカメラトラップを使うことにした。この方法も課題が山積みだった。照明、誤作動、砂漠から吹き込む大量の砂。構想から10年、幾度もの失敗を経て、ついにその一枚を撮影した。
「逆立ちして喜びました」とファン・デン・ヒーバー氏は振り返る。「本当に、本当にうれしくて、信じられませんでした」
氏にとってこの写真は、シンプルなメッセージを伝えるものだ。野生生物は私たちから切り離された存在でも、遠く離れた存在でもない。「都市や都市環境の中でさえ、自然は私たちと共存する道を見いだしています。私たちにそれを受け入れる意思さえあれば、共存は可能です」とファン・デン・ヒーバー氏は語る。「それが基本的に、私が伝えようとしている物語です」
「フォトジャーナリスト・ストーリー賞」はスペインのハビエル・アスナル・ゴンサレス・デ・ルエダ氏が受賞した。ゴンサレス・デ・ルエダ氏の作品は、米国における人間とガラガラヘビの複雑な関係を描き出している。毎年恒例のヘビ狩りイベントは1930年代に始まった。ガラガラヘビの捕獲数を競い合う大会だ。こうした競技会は人気を失いつつあるが、ガラガラヘビに対する嫌悪感が根強い州もある。このヘビはボランティアによって殺され、皮を剥がれている。(JAVIER AZNAR GONZÁLEZ DE RUEDA, WILDLIFE PHOTOGRAPHER OF THE YEAR)
野生生物が直面する脅威にスポットライトを当てる
2025年のコンテストには、113の国と地域から過去最多となる6万636点の応募があった。最優秀賞に加えて、野生生物を際立たせた写真に対して18の賞が授与された。
ブラジルの写真家でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探究者)でもあるフェルナンド・ファシオーレ氏は、「道路の孤児(Orphan of the Road)」で「フォトジャーナリスト・インパクト賞」を授与された。この心痛む写真は、交通事故で親を失ったオオアリクイの子どもがリハビリセンターでの夕食後、飼育係の後を追う姿を捉えている。サバイバルスキルを身につけた後、野生に戻される予定だ。
スペインのフォトジャーナリスト、ハビエル・アスナル・ゴンサレス・デ・ルエダ氏の「ヘビ狩りイベントの終わり(End of the Round-up)」は、米国における人間とガラガラヘビの複雑な関係を描いている。氏がこの作品群に込めた思いは、悪魔のように扱われながらも、最先端医療の研究対象となり、米国の風景から消えつつあるガラガラヘビの保護だ。これらの写真と、それらが伝える物語により、ゴンサレス・デ・ルエダ氏は「フォトジャーナリスト・ストーリー賞」に選出された。(参考記事:「愛され、嫌われるガラガラヘビ、米国でいまだに続く「ヘビ狩りイベント」」)
スペインのジョン・A・フアレス氏は、体外受精(IVF)によってキタシロサイを絶滅から救うという画期的な科学を捉えた写真で、「フォトジャーナリズム賞」に輝いた。写真はミナミシロサイの胎児で、感染症により死んでしまったが、代理母への胚移植が初めて成功した事例だ。この画期的な成果により、キタシロサイの胚をミナミシロサイの代理母に移植できるようになり、絶滅の危機にあるキタシロサイを救う道が開かれた。(参考記事:「世界初、体外受精でサイが妊娠、残り2頭のキタシロサイの救済に光」)(JON A JUÁREZ, WILDLIFE PHOTOGRAPHER OF THE YEAR)