コンクリートの橋が「二酸化炭素を吸収」、骨をヒントに3Dプリンターで製作 米研究

ベネチアで展示中の「ディアマンティ」が手掛けた10メートルの橋の試作品/Masoud Akbarzadeh

(CNN) 手頃な価格で多用途、驚くほどの強度を持ち、さらに各地で入手可能なコンクリートは、世界で最も多く使用されている人工素材だ。

しかし、コンクリートは膨大な量の二酸化炭素を排出し、世界の温室効果ガス排出量の約8%を占める。

コンクリート・セメント業界は長年にわたり、持続可能なコンクリート混合物や効率的な設計を通じて、環境への影響を軽減しようと努めてきた。

現在、米ペンシルベニア大学の研究チームが、強度と耐久性に妥協することなく、革新的な材料と資源節約型の設計を組み合わせる手法を開発している。

「ディアマンティ」と呼ばれるこのプロジェクトは、自然界に着想を得ている。ロボット式3Dプリンターを駆使して、持続可能なコンクリート混合物から複雑な格子状のパターンを作り出す。

3Dプリント技術で製作される橋の一部/Masoud Akbarzadeh

一般的なコンクリートのほとんどは二酸化炭素を吸収するが(一部の研究によると、ライフサイクル全体にかけて生産排出量の最大30%を吸収するという)、ディアマンティの強化コンクリート混合物は、従来のコンクリート混合物よりも142%多く二酸化炭素を吸収する。

ペンシルベニア大学建築学部准教授であり、このプロジェクトを主導した研究所の所長でもあるマソウド・アクバルザデ氏によると、最初に設計した歩道橋は、機械的強度を維持しながら材料使用量を6割削減している。

「何百万年にもわたる進化の過程で、自然はどこにでも材料が必要なわけではないことを学んできた」とアクバルザデ氏。「骨の断面を見ると、相当に多孔質でありながら荷重(または重量)を伝達する特定のパターンがあることがわかる」

ディアマンティは、三重周期極小曲面(TPMS)構造として知られる特定の多孔質骨の構造を模倣することで、橋の表面積を拡大し、コンクリート混合物の炭素吸収能力をさらに30%向上させた。

アクバルザデ氏によれば、表面積と材料特性が相まって、ミクロレベルでの二酸化炭素との反応が最大化されるという。「それが(二酸化炭素の)削減と吸収の両方に大きく貢献する」

このプロジェクトは、スイスに本社を置く化学企業シーカと協力し、米エネルギー省からの助成金を受けて2022年に始まった。現在フランスで、最初のフルサイズのプロトタイプを建造する準備を進めている。

橋の下側を示すこのデジタルレンダリングでは、表面の波状の構造が明らかになっている/Visualization by Fortes Vision. Courtesy of Masoud Akbarzadeh and Massive Form
スイスのシーカ・グループから提供された資材で製作した、長さ10メートルの試作品の拡大画像/Masoud Akbarzadeh

コンクリートの強度、耐久性、そして耐火性といった安全性は、「コンクリートが世界規模で広く使用されている理由の根幹を占める」と、世界セメント・コンクリート協会でコンクリートと持続可能な建設に関する部門を統括するアンドリュー・ミンソン氏は説明する。

セメント業界は持続可能性の向上に多大な努力を払い、1990年から2023年の間に1トンあたりの炭素排出量を25%削減した。しかし、国際エネルギー機関(IEA)によると、需要の増加によりセメント業界の排出量は15年よりも増加している。

セメントは水と混ぜると硬化する結合剤で、コンクリートなどの建設資材に使用され、砂や石などの骨材を固める。

セメントの製造には、大量のエネルギーを必要とする工程があり、窯の中で石灰石を最高2000度の温度で分解する必要がある。この工程で二酸化炭素が排出される。さらに、石灰石は炭酸カルシウムで、高温になると二酸化炭素を放出する。これがセメント製造時の排出量の大部分を占めていると、シンガポール国立大学の土木工学上級講師、ドゥ・ホンジャン氏は指摘する。同氏はディアマンティのプロジェクトには関与していない。

これに対し、ペンシルベニア大学材料科学部のシュ・ヤン博士が開発したディアマンティのコンクリート混合物は、珪藻土(けいそうど)をセメントの一部に代用している。珪藻土は化石化した藻類から作られた天然の多孔質で、シリカを豊富に含む。

このバイオミネラルはコンクリートに「経路」を作り、二酸化炭素が表面下に浸透できるようにすると、ホンジャン氏は指摘する。しかし、珪藻土の23年の世界生産量は260万トン。そのためホンジャン氏はこの素材の可能性を認識しつつ、コンクリートの膨大な需要を満たすのであれば「将来の普及拡大に向けたサプライチェーンの検討が必須だ」と述べている。

現実世界に架かるディアマンティの橋を想定したデジタルレンダリング/Visualization by Fortes Vision. Courtesy of Masoud Akbarzadeh and Massive Form

この研究のもう一つの革新的な点は、表面積の増加にある。コンクリートは二酸化炭素を吸収するが、「空気にさらされている表面のコンクリートだけが二酸化炭素にアクセスできる」とホンジャン氏は説明。「材料の革新がなくても、表面積の増加自体が二酸化炭素吸収量の増加につながる」と付け加えた。

ディアマンティのプロジェクトを実際の環境で使用する前に、チームは橋のプロトタイプを作成してテストする必要があった。

この橋はモジュール式で、ロボットアームで3Dプリントした各ブロックを張力ケーブルで接続する。アクバルザデ氏によると、3Dプリントを使うことで建設時間、資材、エネルギー使用量が25%削減される。また橋の構造システムによって鋼材の使用量が80%削減されるため、排出量の多い別の資材の使用を最小限に抑えることができる。さらに、こうした技術にディアマンティのコンクリートを使用することで、通常の建設方法と比較して温室効果ガス排出量が大幅に削減される他、建設コストも25%から30%削減されると、同氏は付け加えた。

左から右へ: 研究室で3Dプリントされた橋の一部、同じ橋ブロックのコンピューターレンダリング、橋ブロックの荷重支持経路のコンピューターレンダリング。/Courtesy Masoud Akbarzadeh

チームは実現可能性を実証するために、まず長さ5メートルのプロトタイプを製作。その後、スイスのシーカ・グループから提供された資材を使用して長さ10メートルの大型バージョンを製作し、荷重試験に合格した。このプロトタイプは現在、ベネチア・ビエンナーレ国際建築展のためにベネチアの欧州文化センターで展示されている。

アクバルザデ氏とチームは今年初めに科学誌「Advanced Functional Materials」に研究結果を発表。当初はプロジェクト初の実物大の橋をベネチアに建設したいと考えていた。

しかし、ベネチア市が大規模構造物の新規建設に関する規制を変更したことを受け、チームは欧州を代表する他の水路を探し始めた。アクバルザデ氏はデジタルデザインスタジオ「Fortes Vision」と提携し、パリ中心部のセーヌ川に架かる橋を視覚化した概念的なデジタルレンダリングを作成した。

9月、プロジェクトチームは最初の橋をフランスで建設する許可を取得した。実際の建設場所はこれから決定する予定。アクバルザデ氏は、自分たちの設計を現実世界でテストできることに興奮を隠さない。橋の建設後も引き続き、綿密な監視と評価を行っていく考えだ。

橋以外にも、チームはプレハブの床システムなど、他の建築用途を検討中。アクバルザデ氏は、ディアマンティを通じてコンクリートの「全く新しい可能性の世界」を創造できればと期待を寄せている。

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