選挙後の円一段安警戒、与党過半割れで150円突破も-財政拡大不可避
外国為替市場の円投資家は、20日投開票の参議院選挙で石破茂首相が率いる自民、公明の連立与党が過半数を失った場合、さらなる円安進行を予測している。
メディア各社の世論調査は連日、与党が参院選で苦戦し、非改選議席と合わせ過半数を割り込む可能性を示す。衆院に続き参院でも与党が少数に転じれば、首相退陣や連立再編など政権基盤の動揺は必至。野党各党が打ち出す消費税減税などが政策に反映されることで財政支出の拡大は避けられないとの見方が広がっている。
16日の円相場は対ドルで一時149円台前半まで下落し、トランプ米大統領が関税政策の詳細を公表した4月2日以来の150円が迫る。財政不安で日本の長期金利は17年ぶりの高水準を付ける一方、政局不安が円安要因となり、通貨オプションのコール(買う権利)とプット(売る権利)の予想変動率差から算出するドル・円のリスクリバーサル1週間物は15日、約1年ぶりにプラスに転じた。
SBIリクイディティ・マーケットの上田真理人金融市場調査部長は「通常、金利上昇に伴って円は買われるが、今回は『悪い金利上昇』として、日本株と債券、円が同時に売られる可能性が高い」と話す。上田氏は、自民党の支持率がさらに悪化する世論調査の結果が明らかになれば参院選前に150円を突破する可能性もある上、実際に与党が過半数を失えば「152円まで下落し得る」と予想する。
米関税政策は円相場を波乱に陥れ、日本銀行の金融政策の先行きも不透明にしており、市場では早期の利上げ観測は後退している。過去3カ月の円のパフォーマンスは主要通貨全てに対し下落。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、8日時点で投機筋による円のロングポジション(買い持ち高)は4月初め以来の水準にまで減った。
みずほ証券の大森翔央輝チーフ・デスク・ストラテジストは、与党が過半数を大幅に割り込むことになれば2月以来の水準となる155円までの円安を招く可能性があると予想。「財政支出の拡大に伴い、円と金利に対する市場の信頼は失われるだろう」とよむ。
ブルームバーグのストラテジストは次のように指摘する:
円は急落が続いており、150円はもはや壁ではなく、単なる速度制限標識のように見える。国内外の要因が複雑に絡み合った状況は、円が重要な節目までさらに弱含む可能性を示唆している
MLIVストラテジストのMark Cranfield
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政治リスクの浮上に先立ち、日本の貿易赤字と経済成長の鈍化を背景に円は投資先としての魅力を失いつつあり、安全資産としての地位も揺らいでいる。国際通貨基金(IMF)のデータを基にブルームバーグが試算したところ、今年1-3月に世界の外貨準備で円からスイスフランに前例のない規模の大移動が起きていた。
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一方、下馬評での不利を覆して自民党が予想を上回る議席数を獲得できれば、円が反発する展開も予想されている。みずほ証ではその場合、円は144円まで上昇するとの見方を示す。ただし、8月1日には米国への輸出品に25%の関税がかけられる猶予期限が迫っており、引き続き日米貿易交渉の行方に相場の方向性が左右される可能性は高い。
ソニーフィナンシャルグループの石川久美子シニアアナリストは、「参院選が終われば、日米通商交渉が進展するとの期待もある」と指摘。与党が過半数を維持すれば、安心感から円高方向に振れる可能性はあるものの、焦点は日米交渉の行方に移るため、円の上昇は「一時的な動きにとどまる」との認識だ。