増税なき税収増!/玉木・榛葉の「マクロ戦略」/10年後に「名目GDP1000兆円」は実現可能か

号外速報(7月9日 15:30)

2025年7月号 POLITICS [号外速報] by 原田泰 (名古屋商科大学ビジネススクール教授、元日本銀行審議委員)

では実際に名目GDP1000兆円は、実現できるだろうか。2024年の名目GDP617兆円が2035年に1000兆円になるには、名目成長率4.5%を達成する必要がある。掲載したグラフは、名目GDP1000兆円への道筋を示したものだ。2012年度から24年度までの名目GDPの年平均成長率は1.8%にすぎなかったが、2000~24年度で3.5%だった(正確には3.447%だが3.5%とする)。仮に3.5%の成長が続くと39年には1000兆円を超える。自民党が「2040年までに1000兆円」の名目GDPを掲げたのは、このまま行けば達成できるからだ。しかし、2035年までに実現するには、名目成長率4.5%を達成しなければならない。

どうしたら4.5%成長を実現できるだろうか。まず、デフレ下では無理である。アベノミクスの異次元緩和以前の名目GDP成長率はマイナスだった。マイナス成長下では、いくら待ってもパイは大きくならない。

名目GDPが4.5%成長になるには、まず物価が2%で上昇する必要がある(日銀の2%物価目標は消費者物価の上昇率でGDPデフレータとは異なるがここでは同じだとする)。つまり自民党も国民民主党も2%インフレ目標を死守しなければならない。金融政策の明確な目標を共有することは意義深いことだと、筆者は思う。

物価上昇2%のもとで実質GDPが2.5%成長しなければならない。しかし、異次元緩和以降の12年間の実質GDP成長率は0.6%に過ぎなかった。とはいえ、これは2020年にコロナショックがあったからで、これを除いた2012年から19年までの実質GDP成長率は0.9%だから、2%の物価上昇のもとで名目GDP成長率2.9%は十分達成可能であり、その延長で自民党の3.5%成長も可能な範囲だろう。

しかし、名目GDP4.5%成長を実現するためには、実質GDPが2.5%伸びなければならない。今までが1%に満たない現実から、到底無理な目標と思われるかもしれないが、世界を見まわすと必ずしもそうでもない。

例えばソ連崩壊の混乱が落ちつくと、東欧の国々は順調に成長を始めた。結果、2025年にはチェコ、スロべニア、リトアニア、ポーランドの4カ国の1人当たり実質購買力平価GDPが、日本をほぼ上回っている(IMFの予測)。これらの国に、GAFAM(グーグル 、アップル、フェイスブック 、アマゾン、マイクロソフト)のようなプラットフォーマーがあるわけではない。単に、非効率な社会主義のくびきを逃れ、ドイツを中心とするヨーロッパ先進国の直接投資を受け入れただけだ。日本も社会主義的政策を捨て、豊かな先進国の投資を受け入れれば成長できるはずだ。

日本の1人当たり購買力平価GDPは2025年で4.7万ドル。今や台湾の65%、ドイツの75%の水準である。外国企業は、日本の安い労働力を使って十分儲かるわけだ。しかも低金利で資本コストも安い。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場は、その見本である。

日本の社会主義とは、例えば農業である。コメが高くなっているなら、もっと作ればよいだけだ。無理にコメを作らせないようにすれば、それだけGDPが減る。「年収の壁」もそうだ。これを取り払えば、GDPは1.9兆円増加する(拙著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』84頁、PHP新書、2024年)。他にも過剰な中小企業保護、金融や建設の護送船団行政、医療や介護への過剰な行政介入などがある。

社会主義計画経済はバラ色の触れ込みだけで何一つ成功しなかった。政府が何か素晴らしいことを実現することは難しいが、つまらないことを止めることはできるはずだ。

なお、貧しい国々がより高い成長をするのは当然だと思う人もいるだろうが、1人当たり購買力平価GDPが4万ドルを超えてからのリトアニアとポーランドの年率成長率は、それぞれ2.3%、3.2%。社会主義のくびきを廃棄すれば、日本も成長できるはずだ。

「増税なき税収増!」がスローガン

国民民主党は「税率を上げない税収増」を唱えている。名目GDPが上がると財政も好転するだろうか。これに対しては、物価や名目GDPが上がれば政府支出も増やさないとならないから、財政状況は好転しないという見方がある。確かに名目GDPと税収と政府支出の伸びが同じだと仮定すれば、財政状況は改善しない。

しかし、実際には名目GDPが伸びても比例的に増やさなくてもよい支出がある。例えば、年金には物価スライドが付いているが、これまでデフレの時には年金を減らさなかった。インフレになれば、インフレ率と同じだけ年金を上げればよいだけだ。

物価が上がることは、それまでの支出を見直す機会にもなる。給与を上げなくても人が集まるなら、給与を上げる必要もない。人手不足や資材高騰などで公共事業の入札がない場合、それを本当に建設すべきかよく考えた方がよい。

また、経験値から税収は名目GDPの伸び以上に増加する。前掲のグラフには、税収が名目GDPの伸び率と同じ比率で伸びたケースを示してある。この場合でも2035年に120兆円に達するが、実際の税収はさらに伸びるのは間違いない。

国民民主党のマクロ戦略は「パイをデカくする」ということだ。パイを増やせば税収も手取りも必ず増える。パイを大きくするには、日本の脱社会主義化が必要だ。

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