焦点:ウクライナの鉱物資源、トランプ氏「ディール」迫る一方でロシアが支配拡大
[ロンドン 19日 ロイター] - トランプ米大統領は今月、ロシアに侵略されているウクライナに軍事支援の見返りとして同国のレアアース(希土類)の供給を求めたが、ウクライナの天然資源を狙っているのはロシアも同様だ。ロシアは既に地上部隊がウクライナの巨大なリチウム鉱床に迫っている。
ウクライナの軍事ブログ「ディープ・ステート」の公開情報に基づくデータによると、ロシア軍は既に稀土類の埋蔵地を含めたウクライナ領土の5分の1を掌握。足下ではシェフチェンコ・リチウム鉱床までわずか6.4キロに迫り、3方向から進軍しているという。
米政府の推計によると、ウクライナのリチウム埋蔵量は約50万トンで、ロシアの埋蔵量はこの2倍に上る。シェフチェンコ鉱床は、ロシアが自国領だと主張するウクライナの4つの州の1つであるドネツク州に位置している。ウクライナ最大級のリチウム鉱床の1つで、商業採掘が可能な深度に鉱床がある。
ポーランドの軍事コンサルタント、ロハンの所長で、ウクライナでの調査から最近帰国したコンラッド・ムジカ氏は「現在の戦況から判断すると、ロシア軍は今後数週間以内にこの地域に到達する可能性が高い」と予測。ロシアにとってウクライナの鉱物資源の掌握は戦争の主要目的ではないものの、戦略的目標の一つとなっているという。ムジカ氏が話を聞いたウクライナの指揮官によると、ロシア軍の攻撃を分析したところ、天然資源を手に入れることが目的の1つであることが明確になったという。
ロシアに任命されたドネツク州政府高官は、ロシア国営原子力企業ロスアトムの鉱業部門がシェフチェンコ鉱床に関心を示していると明かした。ただ、ロシアの天然資源省が採掘許可を発行するタイミングについては「その時期が来たときだ」とした。この高官は1月の地元国営メディアのインタビューで「(採掘許可の発行が)いつになるか予測するのは難しい。現時点でこの鉱床は『グレーゾーン』にあり、軍事行動が継続しているため開発の可能性はない」と述べる一方、将来の開発に積極的な姿勢も見せた。
<戦況はロシア優勢>
ロシア軍は数か月にわたりウクライナ東部で進軍を続け、膨大な軍事資源を投入して容赦なく攻勢をかけている。
ゼレンスキー氏は今月のロイターのインタビューで、かつて機密扱いだった地図を執務室の机上に広げ、希土類を含む多数の鉱床が記された東部の広大な領土を示した。そのうちの約半分は、現在の前線ではロシア側にあるように見えた。
ゼレンスキー氏は、トランプ氏が提示した最初のレアアース供与協定の草案については安全保障上の保証が不十分だとして拒否している。一方でロシア支配地域の資源の処遇についてトランプ氏と話し合いたいとの意向を示している。
ゼレンスキー氏によると、ロシアはソ連時代に行ったウクライナの地質調査の詳細を把握しており、1991年にウクライナが独立した際にこうした資料をモスクワに持ち去った。現在、ロシアがウクライナの天然資源をどの程度を掌握しているのかについて、信頼できる独立した推計はほとんど存在しない。
だが、ウクライナが徐々に鉱物資源の支配を失いつつあるという事実は疑いようがない。
経済学者で政治アナリストのワシリー・コルタショフ氏は、トランプ氏の「壮大な鉱物資源取引」への意欲は、ウクライナが戦争に敗北すれば無意味になると指摘。今月のロシア国営テレビで「誰が何を得るかを決めるのはトランプ氏や彼のレアアースへの欲望ではない。戦場で勝利しているのはロシアだ」と訴えた。
<ロシアの反応>
トランプ氏がウクライナにレアアース供与協定を示したことに対するロシア政府の反応はこれまでのところ控えめだ。
プーチン氏とトランプ氏の首脳会談が視野に入り、米ロ間で関係修復や戦争終結の方法について協議が進む中、ペスコフ大統領報道官はトランプ氏の提案について「米国は将来的にウクライナ支援を無償で続けるのではなく、対価を支払わせようとしていることが読み取れる」とコメントするにとどめた。
一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は先の会見で、戦況の変化を受けてゼレンスキー氏は既に支配権を失った資源を米国に差し出そうとしていると述べ、より直接的な言い回しでトランプ氏の提案を批判した。
さらに、トランプ氏のウクライナの鉱物資源への関心を、第二次世界大戦中にナチスがウクライナを略奪した行為になぞらえた。「第二次世界大戦中に旧ウクライナ・ソビエトの領土は占領され、ナチスは経済を略奪し始めた。彼らはウクライナの地から家畜を奪い、黒土を運び去った。今、同じことが非暴力的に起きている。それはウクライナ政権が全てを差し出しているからだ」
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As Russia Chief Political Correspondent, and former Moscow bureau chief, Andrew helps lead coverage of the world's largest country, whose political, economic and social transformation under President Vladimir Putin he has reported on for much of the last two decades, along with its growing confrontation with the West and wars in Georgia and Ukraine. Andrew was part of a Wall Street Journal reporting team short-listed for a Pulitzer Prize for international reporting. He has also reported from Moscow for two British newspapers, The Telegraph and The Independent.