都市部のアライグマに「家畜化」の初期の兆候か 米研究

研究では、都市部に生息するアライグマが農村部のアライグマから分岐しているかどうかを調べるため鼻の長さに注目した。/jfox16

(CNN) 賢く適応力に優れた都会のアライグマは、ペットやその他の家畜にとって重要な身体的特徴である鼻を短く進化させている可能性がある。生物学者によれば、この新たな発見は、アライグマの家畜化の初期段階における初めての記録となる可能性がある。

米アーカンソー大学リトルロック校のラファエラ・レシュ助教に着想が訪れたのは、キャンパス内を歩いていたときだった。ごみ箱に缶を投げ入れたところ、ガラガラという音ではなくドスンという音がした。レシュ氏はすぐにその理由に気が付いた。アライグマがごみ箱から頭を出したのだ。

レシュ氏は、多くのアライグマが昼間でも都会にたくさんいて快適に暮らしていることを思い出し、好奇心が湧いた。そして疑問が浮かんだ。数千年も前にイヌが家畜化されたときと同じような過程の初期段階を見ているのではないか。

「そのとき初めて、都市部と農村部のアライグマに違いがあるのではないかと考え始めた。都市部の個体は家畜化へ向かう軌道に乗っているのではないかと」(レシュ氏)

このひらめきにごみが関わっていたのは、むしろ当然だとも言える。化石記録によると、オオカミは3万年も前から人間の周りに現れ、ごみや食べ残しをあさっていたという。数千年をかけて、世界各地でオオカミの行動や身体的な特徴は人間との共存に適したものへと変化した。つまり「家畜化」だ。

「ごみこそがきっかけになる。人間が行くところ、必ずごみがある。動物たちはごみが大好きだ」とレシュ氏は述べた。「人の存在に耐え、攻撃的にさえならなければ、我々が捨てたものは何でもごちそうになる。次に家畜化される動物がアライグマだとしたら、ふさわしくもあり、しかも面白い」

レシュ氏と学生チームは、この仮説を確かめるため、都市部のアライグマが家畜化の兆候として知られる「短い鼻先」を獲得しつつあるのか調べた。

アライグマに「家畜化症候群」を探す

研究は「家畜化」の指標として知られる鼻が短くなっているかどうかに注目した/Catie Clune

進化論の父チャールズ・ダーウィンは1800年代、家畜化された動物には野生の個体には見られない、いくつかの共通した身体的特徴があることに気が付いた。短い鼻先や小さな歯、垂れ耳、巻き尾、白い毛の斑点などの特徴は「家畜化症候群」として知られている。2014年に学術誌ジェネティクスに掲載された論文は、この一連の特徴が出現する理由について「家畜化症候群」と呼ばれる説明を提唱した。

14年の論文によれば、攻撃性が低く従順な個体ほど人間との共存に適応し、その結果として従順性が自然選択されるという。この特性は、初期胚(はい)の発生に影響をあたえるとみられている。具体的には、全身を移動して頭部や顔の特徴を形成する神経堤細胞と、毛皮の色を形成する色素細胞の減少に影響を及ぼしていると考えられる。

レシュ氏は「従順さを選択することで、これらの細胞に何らかの欠陥が生じ、それが我々が観察するさまざまな特徴を説明するのに役立つようだ」と述べた。

今回、レシュ氏はこの特徴のうち鼻先の長さに着目し、人間と生活圏を共有する都市部のアライグマが、農村部の個体と異なる進化を遂げ始めているのか検証することにした。

レシュ氏と学部生11人、大学院生5人は、全国の愛好家や市民科学者が投稿した野生生物観察記録のオンラインデータベース「アイナチュラリスト」に掲載されている1万9000枚以上のアライグマの写真を精査した。その結果、完璧な横顔を捉えた画像が249枚見つかった。

次に研究者は画像解析ソフトを使い、鼻の先端から涙管までの「鼻先の長さ」と、鼻先から耳が頭に届く部分までの「頭の全長」を測定した。それぞれの写真が撮影された郡を地図上で確認したところ、明確な傾向が浮かび上がった。都市部のアライグマの鼻先は、農村部のアライグマより3.6%短かった。

「大きな差ではないように聞こえるし、ある意味ではそれほど大きくないかもしれない。しかし、アライグマが家畜化のごく初期の段階にある可能性を考えると、かなり明確なシグナルだ」(レシュ氏)。論文は学術誌フロンティアーズ・イン・ズーロジーに掲載された。

ただし、この短い鼻先という表現型(特徴)が、全く別の何かの兆候である可能性もあると、ノースカロライナ州立大学のキャサリン・グロスマン助教は指摘する。グロスマン氏は今回の研究に関与していない。「これが家畜化なのか、それとも家畜化と同じ表現型なのかは分からない」

アライグマと家畜化された動物

古代文明の動物遺物を研究しているグロスマン氏は、アライグマは家畜化された他の種とはいくつかの点で異なると指摘した。「家畜化された動物は非常に特殊な社会構造を持っている。アライグマはそうした動物の一つではない」

たとえば野生のオオカミやヒツジ、ウシなどは、明確な社会的序列を備えた群れで生活し、縄張りを持たない。

レシュ氏は「こうした特徴は、その種が家畜化される可能性において確かに重要だが、家畜化の形態には柔軟性も見られる」と述べた。

レシュ氏は、野生のネコとオオカミの社会構造と階層構造は大きく異なるが、それでも最終的には家畜化されたと指摘した。アライグマについては、群れで生活する動物ではないかもしれないが、確かに社会的な動物だと言い添えた。

レシュ氏は次に、大学が所蔵する数十年にわたるアライグマの頭骨のコレクションを分析して、今回の発見を検証することを目指している。また、農村部と都市部のアライグマの行動を比較することも計画している。

ただし、時間旅行の力がない以上、アライグマが実際に家畜化の過程に入りつつあるのかどうかについて、レシュ氏には知る由もない。

もしアライグマが本当に家畜化へ向かっているのだとすれば、数千年後には垂れ耳や白い斑点、巻き尾なども発達し始めるかもしれないとレシュ氏はいう。「しかし、私がわくわくする部分は、この物語の始まりの段階を探求できることだ。そして、それがどのように進化していくのかを我々が目にすることはないとしても、その始まりを記録することはできる」

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