大企業・製造業DIは4期ぶり悪化、物価見通しは上方修正=3月日銀短観

 4月1日、日銀が発表した3月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス12と4期ぶりに悪化し、2024年3月以来の低水準となった。写真は、日本銀行本店。2024年3月、東京で撮影(ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 1日 ロイター] - 日銀が1日に発表した3月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス12と4期ぶりに悪化し、2024年3月以来の低水準となった。コスト上昇、海外需要の伸び悩みに加え、米国などの通商政策も悪化に影響した。大企業・非製造業のDIはプラス35と2期ぶりに改善、1991年8月以来の高水準となった。価格転嫁が進捗した。

食品価格高騰の影響がどの程度及ぶか注目された企業の物価見通しは、1年後、3年後、5年後がいずれも0.1%ポイントずつ上方修正となった。市場では、企業の中長期インフレ予想が物価目標の2%程度でアンカーされているとの見方が出ている。

大企業・製造業の業況判断DIは、前回の24年12月調査から2ポイント悪化した。

原材料価格の上昇が影響し、素材系業種を中心に業況が悪化した。中国や欧州など海外需要の伸び悩みも鉄鋼やはん用機械などから聞かれた。米国をはじめとする通商政策の影響も不透明感を強めている。

一方、自動車や非鉄金属、電気機械などは自動車生産の回復を背景に業況は改善した。

先行き判断DIはプラス12と横ばいを見込む。海外経済の減速や通商政策の不透明感による悪化懸念と、価格転嫁の進展による改善期待が綱引きしている。自動車の先行きDIはプラス9と、現状より悪化を見込む。米政権の自動車関税への警戒感が重し。ただ、トランプ大統領が打ち出した米国以外で製造された自動車への25%の関税については、短観の調査期間の関係で自動車の景況感には十分に織り込まれていないとみられる。

大企業・非製造業の業況判断DIは、前回12月調査から2ポイント改善。ロイターがまとめた予測中央値(プラス33)も上回った。建設、不動産、宿泊・飲食サービスなどで価格転嫁が進展。物品賃貸から建設需要の好調が聞かれたほか、小売からはインバウンド消費や冬物衣料の好調が報告された。

先行き判断DIはプラス28と、7ポイントの悪化を見込む。建設、不動産、卸売、小売、宿泊・飲食サービスなど幅広い業種がコスト上昇に懸念を表明している。

  大企業・全産業の25年度の設備投資計画は前年度比3.1%増と、予測中央値2.9%増を上回った。

事業計画の前提となる想定為替レート(全規模・全産業)は25年度通期で1ドル=147.06円となった。24年度通期(147.94円)に比べてわずかに円高の設定となっている。

今回の短観の調査期間は2月26日から3月31日。回収基準日は3月12日で、7割程度から回収した。

<企業の物価・販売価格見通し、3年後と5年後が過去最大>

企業の物価見通し(全規模・全産業)は1年後が前年比プラス2.5%、3年後がプラス2.4%、5年後がプラス2.3%。販売価格見通しも小幅に引き上がり、1年後が現状の水準対比プラス2.9%、3年後がプラス4.4%、5年後が5.2%。物価見通し、販売価格見通しとも、3年後と5年後の値が14年3月の調査開始以来で最高となった。

販売価格判断DIは大企業で3期ぶりに改善した。大企業・非製造業はプラス32で1983年5月の調査開始以降で最大。中小企業は、製造業が悪化する一方で非製造業は改善とまちまち。

企業の物価見通しは、食品価格高騰の影響がどの程度波及するか、日銀内で注目されてきた。SBI新生銀行の森翔太郎シニアエコノミストは、今回の結果を踏まえ、企業の中長期のインフレ予想は「物価目標である2%におおむねアンカーされているとみている」と指摘。ただ現時点では、企業のインフレ予想が2%のアンカーから上振れ方向に外れるリスクを警戒するほどではないだろうとの見方を示した。

森氏は今回の短観について「国内経済がオントラックとの日銀の見方を支持するものだが、企業部門が堅調なのは他のデータからも既に明らかだ」とし、「日銀の利上げ前倒しを後押しする結果ではないだろう」とみている。当面の利上げ路線に大きな修正はないとみられるものの「米国の関税政策を巡る不確実性が極めて大きいことから、日銀は5月会合での利上げを見送るだろう」と述べ、次回利上げは7月会合と予想している。

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