「MacBook Neo」から「Studio Display XR」まで。春の新製品に見るアップルの“入り口戦略”
春が近づき、多数のアップル製品が一気に発売された。
本誌でもすでに「iPhone 17e」のレビューを掲載しているが、本連載では特に、Macとディスプレイを中心に「少しAV目線に振った」お話をしてみたいと思う。
今回、iPhone 17eとともに大きな注目を集めたのが「MacBook Neo」だ。低価格でデザインの良いMacであり、どこまで使える製品なのか、気になる人は多そうだ。
今回はこれらに加え、「MacBook Air(M5)」、「MacBook Pro(M5 Max、メモリー128GB)」の貸し出しも受けている。
また同時に、純正ディスプレイのハイエンドモデルである「Studio Display XDR」も借りることができた。
画質や音質などを含め、注目製品の実力を見ていこう。
まずMacBook Neo(以下Neo)を中心に見ていこう。
この製品はとにかくカラーバリエーションにこだわっている。キーやボディのゴム足まで本体色に合わせているほどだ。一般的に、カラバリモデルでもこの種のパーツは共通化されることが多い。
細かいパーツを色分けすると、製造段階での部品管理が過大なものになりやすい。色によって人気が違うことは多く、その際、ボディはともかくキーボードやゴム足まで「各機種同じように在庫し、製造ラインで管理する」ことになると、非常に面倒だ。コストを下げるには、ボディだけカラバリを用意し、細かなパーツでは妥協することが多い。
しかしNeoはカラバリを貫いた。これは、アップルの重視するポイントが他社と異なっていたことを示す。
だが、中に付属するUSB-Cケーブルと充電器は白で統一。iPhoneで量産が続いてコストが下がり切っているものを採用している。
カラバリ重視でもコストは考えているわけだ。
一方で、ボディは全て再生アルミニウム製。仕上げも質感も良いが、重量はプラスチックなどに比べ不利になる。Neoの重量は、Mac Book Air(以下Air)と同じ1.23kg。サイズも少し小さいだけだ。
実はこれもまた、アップルがコストを重視しているからでもある。
アップルは全社的に再生アルミニウムを使っており、CNCによる生産を全面的に採用している。そこでは下手にプラスチックで専用ボディを作るより、アルミの方がコストメリットは出る。仕上げの良さや高級感では、プラスチックよりも有利だ。
重量を減らすことやサイズを小さくすることを重視すれば別の判断もあるだろうが、「1gでも軽くすること」よりも「仕上げがいいこと」を重視する判断もある。
共通化できるところは徹底的に共通化した上で、「クオリティの高いカラバリ」という差別化点を重視し、安価な製品を作ったことになる。
では、安価とはいえどのくらいの性能なのだろうか?
Geekbenck 6によるベンチマークテストの結果は以下のとおりだ。この結果だけで比較すると、「2020年に発売されたM1搭載MacBook Airなどと同じか、多少優れるくらい」の性能といっていい。
6年前のプロセッサーと同じくらいだから、けっして速くはない。M5搭載のMacBook AirはNeoに比べ倍の価格だが、速度は2.5倍以上になる。複雑なビデオ編集をしたり、CADやCG作成で大きなデータを扱ったりする場合には、さらにはっきりとした差が生まれる可能性はある。
ただ「なにもできないほど遅い」のではない。ウェブを見て、文章を書いて、4Kの動画を軽く編集するくらいならまったく問題ない。
筆者も何回か取材に持ち出してみたが、困りはしなかった。「画像や動画を編集した後の書き出しが遅い」「LightroomのAI関連機能を使うとM3 Proに比べ2倍くらいはかかる」という問題はあったが、それも「1日に数回行なう作業が、30秒から1分弱に伸びた」という感じである。
Neoはメモリーを8GBしか搭載しておらず、「まったくメモリーが足りない」と感じる人もいそうだ。本格的なソフト開発やWindowsの仮想マシン動作、大量の素材を使ったビデオ編集などには、確かに向かない。
ただ、前出のような一般的な要素であれば、8GBでもちゃんと動作する。
時間を短縮することは、プロにとって収入に直結する。そういう人はMacBook AirやMacBook Proを選ぶべきだ。
一方で、多少遅くとも「できる」ことが重要な場合もある。お金のない若者向けのMacとして、家族に安価なMacを増やしたい場合などに、Neoの能力が足りないわけではない。
若いYouTuberやTikTok向けの動画クリエイターの中には、iPhoneだけで全てをこなしている人もいる。それを考えると、同じプロセッサーを使うNeoで「なにもできない」わけではない。
Windowsで8GB、というとかなり動作が遅くなる。しかしMacの場合、8GBは「思ったよりなんとかなる」「ギリギリよりはもうちょい余裕がある」環境といえる。
これは別にMacが優秀なのではなく、「数種類しかない自社ハードウェアに最適化すればいい」というアップルに対し、多彩なハードウェアへの対応が求められるWindowsは不利である、と考えた方がいい。
もう一つ、Neoの美点を挙げるとすれば「画質がいい」ことだ。
アップルは、自社製品に搭載されるディスプレイにかなりこだわりがある。上位機種はもちろん、下位機種でも「色が極端に違う」ディスプレイは採用しない。
比較の前に、もう1つ製品を紹介しておきたい。
それが「Studio Display XDR」だ。
Studio Display XDRはアップルのフラッグシップディスプレイだ。サイズは27インチで、解像度は5K。バックライトはミニLEDで、ピーク輝度は1,200ニト。性能はかなりいい。
前モデルは32インチ・6Kだったので、ワンサイズ小さくなって解像度も下がった。そこはマイナスだが、最大120Hz駆動に対応したこと、ビデオ会議用に12メガピクセルのカメラを搭載したことなど、機能的には優位と言える。
輝度・解像感ともに良好。テレビのように強い輝度の突き上げはないが、いかにも「モニター」然とした、自然な発色である。ミニLEDによるコントラストも良好だ。
今回貸し出しは受けていないが、Studio Display XDRの半額(26万9,800円)で買える「Studio Display」もある。こちらも27インチ・5Kだが、輝度が600ニト・リフレッシュレートも60Hzで、ミニLEDは不採用。PC的な作業をするときにHDRは不要、という意見もあるので、そうした場合にはこちらも選択肢になるだろう。
ただ、価格だけで言えば有機ELやミニLED採用のディスプレイは、10万円台で存在する。デザインを含めたMacとのマッチングなどを重視しないなら、Studio Displayはそれらとの競合が激しくなる。
今回は、MacBook AirやMacBook Proといった、同時に借りた機種を含めて、簡単に室内で撮影してみた。厳密なレビュー用という話ではなく、「どれだけ色味が近いか」といったイメージを捉えてもらうためのもの、という位置付けだ。
NeoからStudio Display XDRまで、傾向がかなり似ているのがお分かりだろうか。MacBook ProやStudio Display XDRは解像感とピーク輝度に優れ、肉眼で見るともう少しはっきりと画質の違いがわかる。
逆に言えば、Neoは低価格だがディスプレイで相当がんばっている……という話でもあるのだ。
一方で、今回貸出を受けたMacBook ProとStudio Display XDRには「Nano-textureガラス」という反射防止機構がある。見た目はいわゆるマット仕上げに近くなり、さらに発色の変化・輝度の低下も小さい。
以下の写真は、あえて編集上で輝度を上げたもの。NeoとMacBook Airは反射の影響が見えてくるが、Nano-textureガラスを使った2つのディスプレイはマットな質感のままだ。
音についてはどうか?
Neoはがんばっていると思う。ただし、他のMacに比べると良くも悪くも特徴が強い。
Neoのスピーカーは本体側面にある。そこから机の上などで反射した音が耳に届くような印象だ。
机への反響がないと音が少し薄く感じるので、机の上で使うことを強く想定しているのだな、という印象を受けた。
ノートPC用としてはしっかりとしたステレオ感があり、悪くない。
ただ、MacBook AirやMacBook Proと比較すると物足りなさも感じる。
全体に低音が足りない。これは小さなスピーカーであるためしょうがない部分はある。
次に、音場が平たい。
音場は、ディスプレイを中心として、上半身を覆うように4分の1の球を構成するような形が望ましい。
MacBook Proは、ほぼこの理想に近い。キーの横にあるスピーカーから、広く丸い音場を構成する。
MacBook Airの場合、スピーカーはヒンジに近い部分にあり、そこからの反射で聞こえる。その結果として、上下の音場は狭めで、自分に向かって平たい音場が作られる……という感じだろうか。
Neoはさらに音場が低くなり、キーボードの面に沿って平らに構成されるようなイメージになる。
ステレオの音楽を聴くならそこまで問題はないが、映画を含む空間オーディオ・コンテンツの場合、ちょっと物足りないところだ。
とはいえ、どの製品でもヘッドフォン、特にアップル製のものを組み合わせて使った場合には、当然ではあるが、ほとんど同じように音が聞こえる。
低価格な製品としては優れた音質であること、ヘッドフォンの併用もあり得ることを考えると、これはこれでいい、というのが筆者のイメージだ。
全体に、これだけのものを10万円以下で買えるのは破格だ。さらに、アメリカ市場なら599ドル、教育機関と学生には100ドルのディスカウント付きだ。アメリカの相場観で言えば、「これだけの製品が5、6万円で買える」感覚と言える。
MacBook Airを選んだ人の一部は、Neoを買っても問題ないだろう。だが、Airを買える財力があるなら、Airの方が良いのはいうまでもない。MacBook Proでも同様だ。数倍の性能は、作業時間の短縮や作業の高度化に必ず役に立つ。
一方で、安価な製品を求める学生には、Airの半額でこの性能が手に入ることはまさに破格。コストパフォーマンスだけで言えば、他社製品はなかなか太刀打ちできない。
すでにiPhoneを使っている学生がMacを選ぶならこの製品になるだろうし、安さやカラバリでNeoを選んだ学生が、連携を求めてiPhoneを選ぶ……ということもあるだろう。
数年後より高度な作業が必要になった時、Neoを買った人はAirやProを選ぶ可能性が高いし、スマホはiPhoneを選ぶだろう。
アップルはNeoを、かなり力を入れて作っている。利益率も高くはないだろう。だが、「アップルのエコシステムへの入り口」としては最高の存在だ。だからこそ、アップルはこの値段でNeoを売るのだ。