トランプ外交の拙さ突く中国、「軍事五輪」に首脳集めた習氏に存在感

世界が注目するイベントではトランプ米大統領が主役になることが多いが、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が存在感を見せつけた。

  北京で3日に行われた軍事パレードには各国首脳が集まった。習氏は強権的なリーダーらと抱擁し、親しげに言葉を交わし、家族の再会を思わせるような場面を繰り広げた。

    中でも、ロシアのプーチン大統領および北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と即興で臓器移植や不老不死について語り合う様子は目を引いた。

  だが、最も意外な光景は、習氏とプーチン氏、そして7年ぶりに中国を訪れたインドのモディ首相による和やかな3者会談だったかもしれない。

  3人が笑顔で手を取り合い、モディ氏がプーチン氏のリムジンに同乗する様子は象徴的であるだけでなく、トランプ政権による経済制裁の威嚇に対抗し得る現実的な経済連携の可能性も示していた。

天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議(9月1日、ロシアのスプートニク通信が配信した代表取材写真)

  現時点で中印ロを結び付けているのは、主にエネルギー分野だ。プーチン氏訪中での大きな成果の一つは、ロシアと中国が大規模なパイプライン構想「シベリアの力2」に合意したことだ。

  この構想を巡っては、中国側が燃料の必要性が乏しいことやロシアへのエネルギー依存を避けたいとの理由から、長年にわたって着工を渋っていた。価格設定などの重要な詳細は未定ながら、今回の合意は中ロの協力が進んでいることを示している。

  同時にインドも、プーチン政権から原油購入を継続する方針を示した。トランプ氏が報復関税の対象として警告を発している取引だ。

  トランプ政権1期目の米国務省幹部だったマシュー・バートレット氏は「重大で深刻な転換点だ」と指摘。「エネルギー安全保障が21世紀の国家安全保障にとっていかに不可欠かを如実に示している」と述べた。

  中国で見られた新たな親密ムードは、警戒感を招いている。仮にこの3カ国が他の分野でも関係を深めた場合、ビジネス・経済・戦略面でどのような影響が生じるのかという問題が浮上する。

  現時点ではそうなる展開の可能性は低いものの、中国とロシアの連携だけでも、米国に対する強力な対抗軸となっており、トランプ氏や政権関係者らは以前から両国の新たな同盟関係がもたらすリスクについて警鐘を鳴らしている。

  そこにインドが加われば、この連携はさらに強力になる。

  世界人口の3分の1を抱える中印ロの3カ国はいずれも核保有国で、豊富な天然資源と世界有数の製造力を有している。国内総生産(GDP)は世界全体の約4分の1を占める。今世紀が始まった時点では約5%に過ぎなかった。

  中国はまた、テクノロジー面でも先頭を走る米国に迫ろうと着実に前進している。

逆効果

  もちろん、中印ロがより本格的に経済的な結び付きを強めるには多くの障壁があるが、トランプ氏が関税を通じて各国経済に打撃を与える手法を取っていることが、逆にその可能性を想像させる余地を生んでいる。

  3カ国の連携が、エネルギー分野にとどまらず、ドルに代わる決済手段の構築や投資機会の拡大といった米国の制裁や関税に耐え得る新たな方策を模索する取り組みに展開することも考えられる。習、モディ両氏は中印間の直行便再開を約束した。

  元米財務長官のラリー・サマーズ氏はブルームバーグテレビジョンの番組で、「外交政策における古典的な格言は『友を団結させ、敵を分断せよ』というものだ」が、「われわれは敵を団結させ、味方を分裂させる政策を進めてしまった」と述べ、「今こそ米国の安全保障政策を考える立場の人々は真剣に反省すべき時だ」と呼びかけた。

  ハーバード大学教授の同氏はブルームバーグテレビジョンとコメンテーター契約を結んでいる。

  ロシアとインド、中国による3カ国の戦略的連携というアイデアは1990年代後半、米欧に過度に依存した外交方針を見直そうとするロシアの思惑から生まれた。

  この構想はなかなか軌道に乗らなかったが、やがてブラジルと南アフリカ共和国を加えた「BRICS」という枠組みへと発展。今ではBRICSにインドネシアや中東の国も加わった。BRICSはトランプ氏の通商政策を議題としたオンライン会合を8日に予定している。

  プーチン氏のウクライナ侵攻以降、中国はロシアにとって最も重要な経済パートナーとなっている。一方で中国政府は、戦争を公然と支援していると見られないよう慎重な姿勢を取っている。

  それでも習氏は大胆な対応を見せつつあり、プーチン氏が重視する液化天然ガス(LNG)プロジェクトで米国の制裁対象の「アークティックLNG2」でLNGを積み込んだタンカーの中国入港を受け入れた。

  バイデン前政権の米国は、ロシア産LNGに関する制裁逃れの兆しがある船舶や企業に対し、即座に制裁を科していた。だが、今回のLNG取引に関するトランプ氏の対応は不透明で、ホワイトハウスも現時点でコメントを出していない。

力の誇示

  一方で、中国やロシアがインドとの協力を深めるには依然として多くの問題もある。事情に詳しいインド当局者によると、モディ氏の訪中は、北京への接近というよりも、米国の影響圏から距離を取るためのバランス調整との意味合いが強いという。この当局者は匿名を条件に語った。

「シベリアの力」のガスパイプライン施設(中国黒竜江省)

  中印関係は2020年の国境衝突以降、信頼関係が大きく損なわれたままで、インド側が中国からの投資規制を緩和する見通しも立っていないと当局者は述べている。

  モディ氏は天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議には出席したが、その数日後の軍事パレードには姿を見せなかった。訪中前には、米国の同盟国である日本にも立ち寄った。

  バイデン政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたダニエル・クリテンブリンク氏は、「モディ氏はインドが戦略的自立を維持するというシグナルを発信し、自国には選択肢があること、外部からの圧力には屈しないことをアピールしようとしていた」と説明。

  その上で「インドは慎重姿勢を崩さないだろう。米印両国には根本的な共通利益があることから、関係修復の機会はあると、私は慎重ながらも楽観的にみている」と語った。

  トランプ政権はこのところ、インドに対して圧力を強めている。ホワイトハウスのナバロ上級顧問(貿易・製造業担当)はロシアのウクライナ侵攻をインドが資金面で支えていると非難。「モディの戦争」だとまで述べた。

  インドとロシアの関係は旧ソ連時代にさかのぼり、現在もロシアはインド最大の兵器供給国だ。

ロシアのスプートニク通信が配信した代表取材写真。プーチン氏や習氏、金氏らが写る(9月3日)

  事情に詳しい複数の西側当局者は、習氏によるパレードに強い印象を受けたと語り、これは「軍事五輪」、つまり08年北京五輪の軍事版とも言うべきもので、米国と肩を並べる時が近いことを誇示する内容だったと分析。

  また、今回の中国での一連の動きは、習氏がプーチン、金両より自身が上と考えていることを示唆しており、中国に有利な条件でしか協力しない公算が大きいとの見方を明らかにした。

  中国人民大学の国際関係学教授で元外交官の王義桅氏によれば、今回のパレードの目的は、中国の独自技術で製造された兵器を披露し、自国の産業力を誇示することにあったという。

  政府寄りの立場とされる王氏は「あなた方は戦争で中国に勝てるわけがないのだから戦う必要などない、と世界に告げること」が狙いだと話している。 

原題:Xi Unites World Leaders Tired of Being Pushed Around by Trump (抜粋)

関連記事: