【米国市況】国債と株下落、30年債利回り5%接近-政局警戒で円下落
2日の米金融市場では国債相場が下落(利回りは上昇)。英国債など欧州の長期債下落の流れを受けたほか、企業の社債発行が膨らむ中で売りが優勢となった。株式相場も下落し、9月は軟調な滑り出しとなった。外国為替市場では英ポンドと円の下げが目立った。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.96% 3.5 0.71% 米10年債利回り 4.26% 3.5 0.83% 米2年債利回り 3.64% 2.3 0.62% 米東部時間 16時49分今週は重要な米経済指標の発表が相次ぐ。市場で広く予想される9月利下げの可否を占う材料となる8月雇用統計は5日に発表される。
チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は「債券市場は米国だけでなく世界各地で先行きに懸念を示している」と指摘。「政策の明確な方向性や景気減速の兆しが見えるまでは、市場は高いタームプレミアムを織り込み続けるだろう。雇用統計でその兆候が示される可能性もある」とブルームバーグTVで語った。
ブルームバーグのエコノミスト調査では、8月の非農業部門雇用者数は7万5000人増加し、失業率は4.3%に上昇すると予想されている。
2日は長期債を中心に国債が世界的に売られ、英国の長期債利回りは1998年以来の高水準に上昇。米国でも30年債利回りが上昇し、一時5%に迫った。その後には買いが入り、利回りは日中のピーク水準から離れた。
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ナティクシス・ノース・アメリカの米金利戦略責任者、ジョン・ブリッグス氏は「30年債利回りは5%付近で一服しているにすぎない」とし、「5%が特別な節目だとは思わない。過去1-2週間にわたり、世界の長期金利には相応の深刻な懸念があった」と指摘。インフレが高止まりする中での米利下げは「イールドカーブをさらにスティープ化させる単純明快な構図だ」と述べた。
短期金利市場は、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合での0.25ポイント利下げを約90%織り込んでいる。年末までには計0.5ポイントをやや上回る利下げが見込まれている。
株式
半導体のエヌビディアなど大型ハイテク銘柄が売られ、S&P500種株価指数は0.7%下落。エヌビディアは4営業日続落し、3月以来の長期連続安。重要なテクニカル水準として意識される50日移動平均線(171.02ドル)も下回った。
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株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6415.54 -44.72 -0.69% ダウ工業株30種平均 45295.81 -249.07 -0.55% ナスダック総合指数 21279.63 -175.92 -0.82%ミラー・タバクのマット・メイリー氏は「9月は波乱の幕開けとなる。株式市場に季節要因の難所が迫ると懸念してきたわれわれの見方が的中したように見える」と語った。
もっとも、S&P500種が4月の安値から上昇してきた背景にはファンダメンタルズの要因がある。トランプ政権の関税措置にもかかわらず米経済は比較的堅調さを保ち、米企業の稼ぐ力は強さを維持している。
コモンウェルス・フィナンシャル・ネットワークのクリス・ファシアーノ氏は「経済に影響を与える可能性のあるニュースには注意を払うべきだが、注目すべきはファンダメンタルズだ。長期的な成果を左右するのは常にそこにある」と語った。
ただ、不透明要因が多いなか、バリュエーションが高過ぎるとの懸念は強い。S&P500種の12カ月先予想株価収益率(PER)は約22倍となっており、1990年以降でこれを上回ったのはドットコム・バブル期と、2020年の新型コロナ禍後にテクノロジー株が急伸した局面だけだ。
アメリプライズのアンソニー・サグリンビーン氏は「季節要因のサプライズがなかったとしても、通商・関税問題の不透明感や、予想を下回る可能性のある経済指標を通じて、高止まりする株価バリュエーションに揺さぶられるリスクに投資家は直面している」と述べた。
9月の相場はボラティリティー拡大や短期的な調整の可能性があるものの、UBSのチーフ・インベストメント・オフィスは、株式の組み入れが不足している投資家は段階的に買いを進め、下げ局面を活用して株式エクスポージャーを高めるべきだとの見方を示す。
同社は、企業収益の拡大や利下げ、長期的な人工知能(AI)のトレンドなどを背景に、S&P500種が2026年6月末までに6800に達すると予測している。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのウルリケ・ホフマン・ブチャディ氏は「当社ではAI、電力や資源、長寿関連に加え、米国のハイテク、ヘルスケア、公益事業、金融セクターを選好している」と語った。
為替
外国為替市場ではドルが上昇。主要10通貨では英ポンドと円の下落が目立った。ポンドは英国債の取引開始時から売り圧力にさらされ、対ドルで一時1.5%安の1.3340ドルと8月初旬以来の安値を付けた。
ジェフリーズのグローバル為替責任者、ブラッド・ベクテル氏は「英国債利回りの上昇が続き、ポンドに下押し圧力がかかっている」と指摘。その上で「フランスの政治情勢が依然として重荷となっているほか、日本の政治も通貨に影響を与えており、その結果ドル指数を支えている」と語った。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1207.14 6.51 0.54% ドル/円 ¥148.36 ¥1.18 0.80% ユーロ/ドル $1.1642 -$0.0069 -0.59% 米東部時間 16時50分円相場はニューヨーク時間午前の取引で一時、1ドル=148円94銭まで売られる場面があった。
自民党の森山裕幹事長が辞意を表明し、財政規律派と目される同氏の辞任で財政拡張路線に向かいやすくなるとの見方が台頭。また党内の混乱が石破茂政権全体に波及し、政局が流動化する可能性にも警戒感が広がった。
共同通信は関係者の話として、自民党の麻生太郎最高顧問が党総裁選の前倒しを要求する意向を固めたと報じた。
この日発表の米経済指標では、8月の製造業活動が6カ月連続で縮小。生産が落ち込み、関税引き上げの影響で製造業が低迷から抜け出せていない状況が示された。
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ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)のストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は同統計について「9月の0.25ポイント利下げ観測を裏付ける内容となった」と指摘。「8月雇用統計次第で、市場が9月の0.5ポイント利下げを織り込み始めるのか、現状の0.25ポイント利下げ観測にとどまるのかが決まる」と語った。
原油
原油は大幅反発。現物の需給にひっ迫長期化の兆候が見られたことによる価格上昇は、テクニカルな買いで勢いが付き、7月下旬以来の大幅高となった。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は1バレル当たり66ドルに接近。ウクライナはロシア領内の製油所2カ所を攻撃。エネルギー施設への攻撃は石油の流通に支障を生じさせ始めている。ロシアの製油稼働率は8月に2022年5月以来の水準に低下した。石油輸出国機構(OPEC)産原油でこの時期は供給超過が見込まれていたが、ウクライナとロシアの戦争継続が予想外の需給ひっ迫をもたらしている。
TDセキュリティーズの商品ストラテジスト、ダニエル・ガリ氏によれば、商品投資顧問業者(CTA)が日中を通して一貫して買いを入れ、これが価格上昇につながった。ただし、アルゴリズムを取引手法に採用するCTAは、今後1週間はいかなる価格シナリオにおいても、WTIとブレントの両方で売りを出す見通しで、原油価格の上昇は近く反転する可能性が示されているという。
ロシア産原油の流通に注目が集まっている背景では、米政府がウクライナ和平説得の一環として、ロシア産原油の主な買い手であるインドを標的にしている。ベッセント米財務長官は対ロシア制裁を今週政府で検討すると述べた。主要な原油貯蔵拠点であるオクラホマ州クッシングでは、低い在庫水準が続いている。
ウクライナでの戦争からベネズエラ沖への米軍艦派遣に至るまで、目先の強気要素はふんだんにあり、WTI先物のタイムスプレッドは先週末にかけて逆ざや幅を広げた。
A/Sグローバル・リスク・マネジメントのチーフアナリスト、アルネ・ローマン・ラスムッセン氏は「原油市場のセンチメントは非常にネガティブから、より中立にシフトしている」と指摘。「原油価格を支える最大の要素は地政学的プレミアムだ。もう誰もロシアとウクライナが近く停戦で合意すると考えていない」と述べた。
OPECと非加盟産油国で構成される「OPECプラス」は、10月の生産計画を決定するための会合を今週末に開く。市場関係者の間では、供給量を維持するというのが大方の予想だ。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI10月限は、前営業日比1.58ドル(2.5%)高い1バレル=65.59ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント11月限は1.5%高の69.14ドル。
金
金価格は過去最高値を更新。米利下げ見通しや、連邦準備制度理事会(FRB)の将来を巡り強まる懸念が、複数年にわたる金相場上昇に新たな勢いを与えている。
金融市場全体にリスクオフのムードが広がる中で、スポット価格は一時1オンス=3540.04ドルまで上げ、4月に記録した従来の過去最高値を更新した。
年初からの金値上がりは30%を超え、主要コモディティー(商品)のなかで群を抜いている。直近の相場上昇をけん引しているのは、今月に米金利が引き下げられることへの期待感だ。パウエルFRB議長は8月下旬にカンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール会合)での講演で、慎重ながらも9月の利下げに道を開いた。5日に発表される8月の米雇用統計は低調な内容となる可能性が高く、そうなれば利下げの論拠を強める。それが利息を生まない貴金属投資の魅力を高めている。
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UBSグループのストラテジスト、ジョニ・テベス氏は「米国の利下げが近づいていることもあり、投資家は金への資産配分を増やしている。それが相場を押し上げている」と指摘。
「当社の基本シナリオは、今後数四半期にわたって金が高値更新を続けるというものだ。金利低下と経済データの軟化、高止まりするマクロ経済の不確実性、地政学リスクが、ポートフォリオ分散で金の役割を高めるだろう」と述べた。
市場はまたトランプ大統領にクックFRB理事解任の権限があるのかという問題を、司法がどう判断するかに注目している。合法と判断されれば、大統領はクック理事を解任しハト派的な人物を後任に据えることが可能になる。これとは別に、トランプ大統領が世界各国・地域に発動した関税について、米連邦高裁はそのほとんどが大統領の権限を越えた違法行為だと判断し、審理を下級裁判所に差し戻した。トランプ政権が公約した経済的利益は先送りされる可能性が出てきたと同時に、輸入業者にとっては不確実性がさらに増した。
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オーバーシー・チャイニーズ銀行のシニア為替ストラテジスト、クリストファー・ウォン氏は「金スポット価格が最後に3500ドルを付けたのは、取引中の時間だった。従って終値でこの水準を上回ることができれば、モメンタムは強まるだろう」と指摘していた。「地政学的には未だに新たなリスクが発生しており、政治的な不確実性も再燃している。これが金上昇に弾みを付けるだろう」と述べた。
今年に入って以降のドル相場の下落も中国やインドなど、主要な買い手国の購買力を押し上げた。
スポット価格はニューヨーク時間午後3時41分現在、前営業日比63.65ドル(1.8%)高の1オンス=3539.72ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、76.10ドル(2.2%)高い3592.20ドルで終えた。
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