謎に包まれていたジンベイザメの求愛行動が初めて観察される

この画像を大きなサイズで見るPhoto by:iStock

 ジンベイザメは、すべての魚類の中で現生最大の種でありながら、その繁殖行動についてはほとんど解明されていない。

 しかしこのほど、西オーストラリア沿岸で、科学者たちがジンベイザメの求愛行動とみられる場面を目撃した。この新たな観察は、彼らの謎に満ちた生態を解き明かす手がかりとなるかもしれない。

 体長が18mを超えることもあるジンベイザメは、世界最大の魚として知られている。食性は主にプランクトンやオキアミなどの微小な生物で、これらを水ごと吸い込み、エラを使って濾し取る方法をとる。

 ジンベイザメはその巨体と穏やかな性格から「海の穏やかな巨人」として知られているが、その生態の多くは謎に包まれている。

 特にジンベイザメの繁殖行動に関する情報は非常に限られており、現在までに妊娠中のジンベイザメが確認されたのは、1994年の一例のみである。

 そのため、ジンベイザメの繁殖行動に関する知識は、主に水族館での観察や偶然の目撃情報しかない。

この画像を大きなサイズで見る

2024年5月、マードック大学、ハリー・バトラー研究所の研究者たちは西オーストラリア州にある世界最大級のサンゴ礁群で世界遺産にも登録されている「ニンガルーリーフ」でジンベイザメの交尾行動の前兆と思われる興味深い現象を目撃した。

 ニンガルーリーフでは、毎年3月から7月にかけサンゴ礁が産卵するため、大量のプランクトやオキアミが発生する。この豊富な餌を求めて、ジンベイザメが多く集まる場所だ。

 そこで観察されたのは、成熟したオスが小柄なメスを追いかけ、尾びれに噛みつくという求愛行動だ。

この画像を大きなサイズで見るChristine Barry Research

 この場面を記録したのは、5月14日に現場のボート操縦士が約6.7mのメスを発見し、続いてオスがその後ろを約2~3mの距離で追跡していた時のことだ。

 オスはメスの尾びれに向かって突進し、口を開けて接触。そうしたオスの行動に対して、メスが胸びれを下向きにしながら急旋回する姿も観察された。

 観察された「追跡と噛みつき」の行動は、トラフザメやゼブラザメなどのサメ種に見られる交尾行動と似ている。

 この噛みつきは、オスがメスを抑えるために必要な行動だと考えられており、ジンベイザメにも同じ習性がある可能性が高い。

 ニンガルーリーフでは、オスのジンベイザメがメスよりも大幅に多いことがわかっている。ここに集まるジンベイザメの数は、オスが3匹に対してメスが1匹という割合だ。

 この大きな差について、研究者たちは「特に若いメスがオスから追いかけられることを避けるため、リーフ(サンゴ礁)を離れる傾向があるのではないか」と考えている。

 オスに追い回されることはメスにとって体力を消耗する負担になるため、餌場を変える可能性があるというのだ。

 さて今回観察されたオスの求愛はうまくいったのだろうか?研究者らはその可能性は極めて低いとみている。

 今回目撃した2頭のジンベイザメがまだ成熟前の若い個体同士と推測されており、人間が観察できない深い場所で交尾をしていた可能性も否定できないが、少なくとも見た限り、メスはオスの気を引く行動に気づきながらも、興味を示すことはなく、むしろ必死に逃げ回っていたそうで、オスの求愛は失敗したと可能性が高いという。

この画像を大きなサイズで見るChristine Barry Research

 ジンベイザメは2016年にIUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種に指定された。これは、野生の個体数が減少し、将来的に絶滅の危険性が高い種であることを意味する。

 現在の推定個体数は約13万〜20万匹で、主な生息地としてオーストラリア、ガラパゴス諸島、フィリピン、メキシコ、タイ、モザンビークなどが挙げられる。

 今回の研究は、ジンベイザメの繁殖行動を理解するための重要な第一歩となるだろう。繁殖のメカニズムが解明されれば、個体数の回復に向けた具体的な保全計画の策定が可能になるからだ。

 この研究論文は『Frontiers in Marine Science』誌(2025年1月3日付)に掲載された。

References: Whale shark pre-mating ritual observed for the first time | Popular Science / First Ever Observation Of Whale Sharks' Mysterious Love Life Caught On Camera | IFLScience

広告の下にスタッフが選んだ「あわせて読みたい」が続きます

関連記事: