世界卓球2025ドーハ 「梅村礼の眼」 男子シングルス準々決勝 モーレゴード 対 戸上隼輔 スーパープレーの「次の一本」が鍵だった

[国際大会]

 世界卓球2025ドーハでは、2019年以来6年ぶりに、元全日本チャンピオン、日本代表にして、現在はTBE(タマス・バタフライ・ヨーロッパ)に勤務し、世界の卓球事情に通じた梅村ならではの眼で世界卓球で繰り広げられた名勝負を解説する。 ここでは、男子シングルス準々決勝モーレゴード(スウェーデン)対戸上隼輔(日本)の一戦について話を聞いた。

モーレゴードは苦しい流れの中でも勝機を模索していた

▼男子シングルス準々決勝モーレゴード(スウェーデン) -14,-3,7,8,10,9 戸上隼輔(日本)

モーレゴードが戸上の厳しい攻撃の中で見いだした「勝機」

 試合後のインタビューでモーレゴードが言っていましたが、最初の1ゲーム目、2ゲーム目は戸上選手の攻撃が厳しすぎて、本当にどうにもならなかった。でも、その中で「勝機を見出せた」のが、戦術の変化とボールのプレースメント(長短を含むコース取り)だったんですね。 厳しく攻められながらも、短く落としたり深く突いたり、前後のゆさぶりも入れながらコースを変えて、少しずつ自分のペースを取り戻していった。その判断力はやはり大舞台での経験も豊富で「点数の取り方を知っている」モーレゴードらしく素晴らしいものだったと思います。

スーパープレーの「次の一本」が鍵だった

 戸上選手が今日の試合で惜しかったのは、スーパープレーを決めた「その後」でしたね。1本決めて波に乗りかけたところで、次のボールが空回りしてしまう場面が何度かありました。あそこでもう1本取れていれば、4対1で戸上が勝っててもおかしくなかったと思います。 でも、そこをモーレゴードにうまくかわされてしまいました。ちょっと下がって待ってからのカウンターとか、浅く返して誘うようなボールで、逆に戸上に「打たされた」感じになっている場面もありました。強く打ってはいるけど、打たされてる。そういうポイントがいくつもあって、最終的にはモーレゴードの術中にはまった印象です。

フルスイングの落とし穴

 あと、戸上選手は勢いに乗ってる時は本当に強いんですけど、今日はその勢いが時々「早く点を取りに行きすぎる」方向に傾いていましたね。10の力で打たなくても、7とか8でもいい場面もたくさんありました。1本しっかり入れて、体勢を整えてからもう1本、っていう展開ができてれば結果は違ったかもしれません。 でも、実際は、不利な体勢のまま強引にフルスイングしてミスというケースも見られました。入っても相手にコースを読まれてカウンターを決められて、レシーブや3球目のコース取りでも主導権を握られてという、最後にはボディブロー的にじわじわダメージを受けていったような試合でしたね。

モーレゴードの駆け引きと対応力

 モーレゴードの戦術で特に印象的だったのは、バックドライブへの対応です。最初の1〜2ゲームは戸上が打ち抜いてましたけど、モーレゴードはその打球傾向を読んで、3ゲーム目以降はしっかりラケットに当ててくるようになっていました。相手は読まれてるって感じると、今度は無理にコースを変えたくなる。その結果ミスが出たり、甘くなったボールがカウンターを食らう流れが生まれていました。 それでも戸上選手は点を取っていたし、攻撃の威力も十分ありましたけど、最後は「どこに打っても待たれてるかも」という迷いが出てしまった。そうなると、どうしてもリスクを背負いすぎてオーバーミスが増える。そのあたりはさすがモーレゴードの対応力の高さと感心しましたが、戸上にとっては今後の課題かもしれませんね。

レシーブのバリエーションと「遊び心」

 とはいえ、今日の戸上選手には以前にはなかった駆け引きも見えました。例えば、チキータできるサービスもストップしてみたり、フォア前をバックハンドで止めにいってみたり。ちょっとずつレシーブの引き出しは増えていますね。 ただ、そこに「遊び心」がもう少しあると、さらに化けると思います。たとえば、ゴズィー(フランス)のストロベリー(逆回転チキータ)みたいなちょっと意外性のあるレシーブを1本でも混ぜておくと、相手はその後の展開が読みにくくなる。別にそれで点が取れなくても、「こういうのあるよ」っていうだけで、相手にとっては大きな情報になるものです。

トップ選手に勝つために必要な"手数"

 戸上選手が、今後さらに格上の選手に勝っていくには、やはり「手数」が必要です。しかも、その中に1つか2つ「相手が想定していないこと」があると、一気に流れを変えられる。 たとえば、カルデラーノ(ブラジル)のように、フォア前のレシーブでスピンのかけ方をちょっと変えて払いを2バウンドさせたり、そういうちょっとした「トリック」みたいな技が、彼の強力な両ハンドという持ち味をさらに活かすことになる。そういう遊びの中から生まれる工夫が、彼の超攻撃的なプレースタイルをもっと生きる方向に導いてくれると思いますね。

卓レポX(旧ツイッター)

(取材/まとめ=卓球レポート)

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