<開業1年・6>全線開通遅れ 危機感

北陸新幹線の早期全線開業を訴える横断幕を設けた若手経営者ら(小浜市で)

沿線自治体 足並み乱れ

着工先送り

 小浜市の県道交差点で2月7日、地元の若手経営者ら約10人が横断幕を取りつけた。縦約1メートル、横約6メートルにわたり、「北陸新幹線 小浜・京都ルート 目指せ! 早期全線開業」。参加した障害者福祉に携わる企業の北山政道社長(44)は「今のままでは北陸新幹線が小浜まで延伸するという実感を持てず、市民の関心が薄れてしまう。小浜に新幹線が延びるということを改めて県内外に発信したい」と語気を強めた。

 活動の背景にあるのは、停滞する敦賀―新大阪間の延伸計画への危機感だ。

 延伸ルートは2016年、政府・与党が小浜、京都両市を経由する「小浜・京都ルート」に決定。24年中に京都駅付近などの詳細なルートを絞り込んだ上で25年度内の着工を目指していた。しかし、京都府内で工事に伴う地下水への影響や重い財源負担への懸念が広がり、与党の整備委員会は昨年末、25年度の着工を事実上断念した。

 整備委員会委員長の西田昌司・参院議員らは2月10日、西脇隆俊・京都府知事、松井孝治・京都市長と面談。小浜・京都ルートに関して国が住民らを対象に開く予定の説明会に協力するよう要請した。西脇知事は「必要性は理解するが、整備には住民らの理解と納得が不可欠だ」とくぎを刺した。

「米原ルート」

 整備が進まない現状に業を煮やした沿線自治体からは、ルートの見直しを求める動きが出ている。

 石川県議会は昨年、米原駅(滋賀県米原市)で東海道新幹線に接続する「米原ルート」への再考を求める決議案を賛成多数で可決。続けて国会議員や県内市町の首長らでつくる「北陸新幹線建設促進県民会議」も、米原ルートを含めた検討を盛り込んだ決議を採択した。

 同県の馳浩知事は12日の県議会で「私の思いはこれらの決議と軌を一にする」と述べ、一定の理解を示す。着工時期が先送りされていることにも触れ、「国が進める事業について、約束を 反故(ほご) にするのは異常な状況だ」とした。

 これに対し、杉本知事は1月、計画ルート上の小浜市まで先行開業する案を披露した。「小浜までは誰も反対する人もいない」と述べ、県議会の支持も取りつけた。杉本知事は「全体の和は乱さない」とするが、米原ルートをけん制した格好だ。

福井市内の北陸新幹線。列車が新大阪まで直通する時期は未定だ

敦賀乗り換え

 こうした議論をよそに、利用者からは「大阪まで早くつないでほしい」との声が高まる。24年3月の北陸新幹線金沢―敦賀間の延伸開業に伴い、関西や中京と北陸を結ぶ特急「サンダーバード」「しらさぎ」の金沢―敦賀間が廃止され、敦賀駅での乗り換えが必要になったためだ。

 大阪府高槻市の会社員男性(36)は月3回程度、サンダーバードと北陸新幹線を使い、家族が暮らす福井市内に向かう。「福井―敦賀間は乗ってすぐに降りなければならない。敦賀での乗り換えも面倒だ」とこぼす。

 北陸新幹線が新大阪までつながれば交流人口の大幅な増加が見込まれ、経済波及効果は年間2700億円とも推定される。だが、全線開通に向けた道のりは険しい。(おわり)

 この連載は、福井支局 川上大介、佐藤圭史、荒田憲助、高山智仁、浜崎春香、金沢支局 戸辺悠大、古渡彩乃、石川泰平、富山支局 松本彩和、川尻岳宏が担当しました。

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