大腸がんとも関連、不足がちなビタミンDを適切に補うには、研究
日光を浴びれば体はビタミンDを作ることができる。しかし、日光浴による皮膚がんのリスクを避けつつ、十分な量のビタミンDを得るには工夫が必要になる。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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ビタミンDは健康に欠かせない栄養素だ。骨を強く保つだけでなく、筋肉や免疫機能の働きを助ける働きもある。にもかかわらず、ビタミンDの適切な摂取の量や方法に関しては、激しい議論が続いている。
多くの人がビタミンDを十分に取っていないという点で研究者の意見は一致している。しかし、実際のところ「十分な」量とはどの程度か、どこからがビタミンD欠乏症とみなされるのか、(特に若くて健康な人にとって)サプリメントにどれほどの効果があるのかについては、さまざまな見解がある。
ビタミンDの取り方についての助言もまた、矛盾に満ちている。ビタミンDの供給源として最も優れているのは日光だが、一般には、皮膚がんを予防するために肌は覆うべきだとされている。また、ビタミンDを豊富に含む食事をしなさいと言われても、そもそも大半の食品にはビタミンDがあまり含まれていない。
そうした中、2025年4月に学術誌「Nutrients」に掲載された論文が、混乱に拍車をかけている。既存の科学文献をレビューした同論文は、ビタミンDには抗炎症作用と抗酸化作用があるため、ビタミンDの血中濃度を「最適な」レベルに保つことは、大腸がんの予防と、がんの経過の改善に「不可欠」だと書いている。この結果を受け、ビタミンDは大腸がんのリスクを下げると報じる記事がいくつも出た。
だがこの研究は、大腸がんの予防や治療にビタミンDが効果的だと実際に証明したわけではない。事実、同論文に含まれているランダム化比較対照試験の中で、がん患者を対象としたものはごく一部であり、その多くは臨床的に有意な結果を示していなかった。(参考記事:「急増する若い世代の大腸がん、子供の頃の腸内細菌が関連か、研究」)
上記のレビューや、その他多くの研究が示しているのはむしろ、ビタミンDそのものや、特定の病気の予防や治療におけるビタミンDの影響について、われわれの理解はまだあまり進んでいないという事実だ。(参考記事:「ビタミンDが腸内細菌を変えてがんを抑える、驚きの関係、研究」)
「ビタミンDは重要な役割を担っていますが、それはおそらく世間で言われているほど広いものではないと思われます」と語るのは、米ペンシルベニア大学医学部の医学教授で、内分泌を専門とするアン・カッポラ氏だ。「だからこそ、(ビタミンDを取るのに)何をしたり何を摂取したりすべきかや、ビタミンDがどれだけ重要かについての認識に、混乱が生じているのでしょう」
ビタミンDについて知っておくべきこと、ビタミンDの健康効果、矛盾する助言をどのように受け止めるべきかについて、以下にまとめた。
ビタミンDの健康効果
ビタミンDには、体が食事からカルシウムを吸収するのを助けて骨を丈夫に保ち、骨粗しょう症を予防する効果がある。ビタミンDはまた、より深刻な疾患である骨軟化症や、子どもの骨が弱くなったり脚が曲がったりするくる病を防いでくれる。
加えて、ビタミンDは筋肉の動きや神経間の情報伝達、細菌やウイルスに対する免疫防御でも、重要な役割を果たしている。
ビタミンDの投与が、一部のがん、2型糖尿病、認知障害、心血管疾患をはじめとする慢性疾患や自己免疫疾患、感染症のリスクを低下させることを示す研究は多い。
一方、これらの研究を対象とした大規模なレビューでは、こうした効果の多くは決定的でない、または統計的に有意でないと判断されている。たとえば、2025年4月に医学誌「The Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載されたレビュー論文は、ビタミンDのサプリメントに呼吸器感染症を予防する効果はないと結論付けている。