イランは単独でトランプ氏やイスラエルに対抗－同盟国の支援望めず

イラン指導部はこれまで、代理勢力や同盟国のネットワークを用い、中東地域内外で力を誇示してきた。しかし今、同国はこうしたネットワークなしで米国およびイスラエルに単独で対抗しなければならない。

　　トランプ米大統領の命令で米軍がイラン核施設を爆撃し、同国は過去数十年で最も危険な局面にある。だが、ロシアと中国は支持を表明するだけで、傍観者の立場を取っている。イランが何年にもわたり武器や資金を提供してきた武装勢力は同国を支援する戦いに加わることができないか、それに消極的だ。

テレビ演説したイランの最高指導者ハメネイ師（６月18日）

　　脆弱（ぜいじゃく）な抑止のゲームが何十年も続いてきた中東地域は、全ての地政学的秩序が塗り替えられようとしている。イスラム組織ハマスによる2023年10月７日のイスラエル攻撃は始まりに過ぎなかった。

　　それは幾つもの紛争につながり、数十年に及ぶ同盟関係を試すことになった。今年１月にホワイトハウスに返り咲いたトランプ氏にとっては、イランを直接かつ積極的に攻撃するという、歴代の米大統領があえて行おうとしなかったことを実行するチャンスを得た。

　　今月13日のイスラエルによるイラン攻撃開始以降、ネタニヤフ首相はイラン核開発の脅威除去よりも踏み込んだ目標について語り、同国の体制転換の可能性もほのめかした。ただ、かつての同盟国が距離を保ち、孤立化したイランが一段と予測不可能になるリスクがある。

　　アダム・ファーラー氏らブルームバーグ・エコノミクス（ＢＥ）のアナリストは、「イランが過去数十年で最も重大な試練に直面するのに際し、ロシア政府ないし中国政府から実体的な支援が提供される公算は引き続き小さい」と指摘する。

　　その上で、「ロシアと中国はイラン政府との間で２国間戦略パートナーシップを維持しているものの、正式な軍事同盟国ではなく、両国それぞれの制約や広範な戦略的考慮により、大規模な軍事・経済支援を提供する可能性は低い」との分析を示した。

　　イランは主要新興国から成る「ＢＲＩＣＳ」からも支援を得られそうにない。ブラジルやロシア、インド、中国などが設立したＢＲＩＣＳには24年にイランが加わったものの、イスラエルおよび米国によるイラン攻撃に同グループは沈黙を保っている。

　　ロシアと戦略的協力条約を締結したイランは、プーチン大統領によるウクライナ侵攻で、戦闘用ドローン（無人機）の重要な供給源となっていた。

　　ロシア当局者は、イランが武器の提供を求めていないとしながらも、この条約に相互防衛義務は含まれておらず、ロシアとしてもイランに武器を供与する意図はないことを明言している。

米国によるイラン核施設攻撃を受けた抗議デモ（６月22日、テヘラン）

　　イランのアラグチ外相は22日に訪問先のトルコで記者団に対し、モスクワに赴いて23日にプーチン大統領と情勢を協議する計画を明らかにした。同外相は温かい言葉を期待できても、実際の支援はほとんど望めない見通した。

　　これは15年の状況と大きく異なる。当時ロシアはイランと共にシリアに部隊を派遣し、アサド大統領の政権を救おうとしたが、その政権は24年、反体制派によって最終的に打倒された。

　　イランの現体制が崩壊すれば、ロシアは中東におけるもう一つの重要な同盟国を失うリスクを抱えることになる。同国はイスラエルと米国によるイラン攻撃を非難してはいるものの、プーチン大統領はウクライナでの戦争で軍事的にも経済的にも手一杯の状態にある。

　　中国もまた、米国による攻撃を国際法違反として「強く」非難した。イラン原油輸出の約90％は中国向けだが、同国はイランへの支援を申し出ていない。

　　ペルシャ湾岸のイランの近隣諸国は自制を求めるとともに、イランが中東にある米国資産に報復した場合、地域に壊滅的な影響を及ぼす可能性があると警告している。

　　サウジアラビアやアラブ首長国連邦（ＵＡＥ）などの国々は、米国とイランの核交渉を後押しするため、自らの地政学的および経済的影響力を数カ月にわたって行使しようとしてきた。しかし最終的には、軍事力が交渉を圧倒する形となった。

　　イランの代理勢力である武装集団も、ほとんど影を潜めている。これまでイランの「抵抗の枢軸」で最強とされてきたレバノンのヒズボラもハマスと同様にイスラエル軍の打撃を受けた。一方、シリアのアサド政権の軍に対するイスラエルの攻撃も、その崩壊の一因となった。

　　ヒズボラは引き続き脅威であり、米国は22日、レバノンにいる政府職員の家族や緊急対応以外の職員に退避を命じた。それでもヒズボラは23年のハマスの攻撃直後のように、イスラエルに対し攻撃を仕掛けることでイランを支援する姿勢は見せていない。

　　イエメンのフーシ派は例外で、米国によるイラン攻撃があれば、米国の商船や海軍艦艇を標的にすると警告を発していた。ただフーシ派は、トランプ氏が５月に同派との停戦前に命じたのと同様の米軍による再度の空爆というリスクを抱えることになる。