2つのブラックホールが合体して太陽の225倍の質量を持つ巨大ブラックホールが誕生
by Caltech-LIGO アメリカ・イタリア・日本にある重力波観測装置を用いた国際共同研究ネットワークのLIGO-Virgo-KAGRA(LVK)が、史上最大のブラックホールの合体を検出しました。この合体により、太陽の約225倍の質量を持つ巨大ブラックホールが誕生しています。
LIGO Detects Most Massive Black Hole Merger to Date - www.caltech.edu
https://www.caltech.edu/about/news/ligo-detects-most-massive-black-hole-merger-to-dateMerger of two massive black holes is one for the record books - Ars Technica https://arstechnica.com/science/2025/07/physicists-detected-the-most-massive-black-hole-merger-to-date/
アメリカのハンフォードにある重力波観測所の「LIGO」は、2015年に世界で初めて重力波を直接検出した施設です。この時に検出した重力波は2つのブラックホールの合体により発生したもので、最終的に太陽の62倍の質量を持つブラックホールが形成されました。
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その後、LIGOはイタリアのVirgoおよび日本のKAGRAと協力し、国際共同研究ネットワークのLVKを結成。これにより、LIGOだけでなくVirgoおよびKAGRAも用いることで、2015年に初めて重力波を観測して以来、合計約300回もブラックホールの合体を観測することに成功しています。 これまで観測してきた中で最も大規模なブラックホールの合体は、2021年に発生した「GW190521」と呼ばれる出来事でした。この時、合体で発生したブラックホールの質量は太陽の140倍です。
さらに、2023年11月23日に観測された重力波「GW231123」では、太陽の約100倍と約140倍の質量を持つブラックホールが合体し、太陽の約225倍の質量を持つブラックホールが誕生しました。今回報告されたのは、このGW231123についてです。 今回合体したブラックホールは単に質量が大きいだけでなく、高速で回転してもいます。これについて、LVKメンバーの一員であるカーディフ大学のマーク・ハンナム氏は、「これは重力波を通して観測された中で、最も質量の大きいブラックホール連星であり、ブラックホール形成の理解に真の挑戦を投げかけるものです。これほど巨大なブラックホールは、標準的な恒星進化モデルでは存在が許されません。ひとつの可能性として、この連星にある2つのブラックホールは、より小さなブラックホール同士の合体によって形成された可能性すらあります」と語り、一度合体して形成されたブラックホールがさらに合体して巨大になった可能性を示唆しました。 カリフォルニア工科大学のLIGOエグゼクティブディレクターを務めているデイウ・ライツェ氏は、「今回の観測は重力波がいかにして宇宙全体にわたるブラックホールの根本的かつ異質な性質を独特な方法で明らかにしているかを改めて証明しています」と語っています。
GW231123で観測されたブラックホールの大質量と極めて高速な回転は、重力波検出技術と既存の理論モデルの両方の限界を押し広げています。信号から正確な情報を抽出するには、高速回転するブラックホールの複雑なダイナミクスを考慮したモデルの使用が必要でした。
LVKのメンバーであるポーツマス大学のチャーリー・ホイ氏は、「ブラックホールは非常に高速で回転しているように見えます。アインシュタインの一般相対性理論の限界に近い速度です。そのため、信号のモデル化と解釈は困難です。これは、私たちの理論的ツールの開発を前進させるための優れたケーススタディです。この複雑な信号パターンとその意味をコミュニティが完全に解明するには何年もかかるでしょう。最も可能性の高い説明は依然としてブラックホールの合体ですが、より複雑なシナリオが、その予期せぬ特徴を解読する鍵となる可能性があります。今後が楽しみです」と語りました。
LVKによる第4期観測は2023年5月に開始され、前半の追加観測データ(2024年1月)の追加観測データは2025年夏の後半に公開される予定です。なお、GW231123は2025年7月14~18日にスコットランドのグラスゴーで開催されるGR-Amaldiにおいて合同で開催される第24回国際一般相対性理論と重力会議(GR24)および第16回エドアルド・アマルディ重力波会議で発表予定です。GW231123の検出と研究に使用された較正データは、重力波オープンサイエンスセンター(GWOSC)を通じて他の研究者が分析できるように公開されます。
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