トランプ氏、グリーンランド担当特使を任命 アメリカが「所有しなければならない」

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画像説明, アメリカのトランプ大統領(左)とランドリー・ルイジアナ州知事(3月)

アメリカのドナルド・トランプ大統領は21日、デンマーク自治領グリーンランドを担当する特使を任命した。トランプ氏はかねて、グリーンランドをアメリカに併合したい考えを示しており、この北極圏の巨大な島を領有するデンマークとの間に新たな対立が生まれている。

アメリカのグリーンランド担当特使にトランプ氏が任命したのは、ルイジアナ州のジェフ・ランドリー知事(共和党)。

トランプ氏はソーシャルメディアへの投稿で、ランドリー氏について、「グリーンランドがいかに私たちの国家安全保障に不可欠か」を理解しており、アメリカの利益を増進させるとした。

ランドリー氏の新たな役割に関するBBCの質問に対しては、アメリカが「国家防衛」のためにグリーンランドを必要としており、「私たちはそれを手に入れなければならない」とトランプ氏は回答。ランドリー氏が「先頭に立って取り組む」とした。

ランドリー氏は、「グリーンランドをアメリカの一部とするためにボランティアとしての役割」を果たすことを光栄に思うと、ソーシャルメディア「X」に投稿した。

特使は非公式に任命されるもので、正式な外交官とは異なり、受け入れ国の承認は必要ない。

この動きはデンマークの怒りを買っている。同国政府は米大使を呼び出し、「説明」を求めると表明。グリーンランド自治政府の首相は、「自分たちの未来は自分たちで決める」、「領土の一体性は尊重されなければならない」と述べた。

トランプ氏は1月にホワイトハウスに戻って以来、グリーンランドへの長年の関心を復活させている。同島の戦略的立地と鉱物資源に目をつけている。

手中に収めるためには武力行使も排除しないとするトランプ氏の姿勢は、デンマークに衝撃を与えている。デンマークは北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、歴史的にアメリカと緊密な関係を築いてきた。

トランプ氏は、「どうにか解決しなくてはならない」とし、「私たちがグリーンランドを必要とするのは国家安全保障のためであり、鉱物資源のためではない」とした。そして、近隣の海域における潜在的な脅威として、中国とロシアの船舶に特に言及した。

グリーンランドは人口約5万7000人。1979年以来、広範な自治を続けているが、国防と外交政策はデンマークが握っている。大半の住民は将来的なデンマークからの独立を望んでいる。世論調査では、圧倒的多数がアメリカの一部になることに反対している。

デンマークのラース・ルッケ・ラスムセン外相は、ランドリー氏が特使に任命されたのは「とても不穏」なことだとし、アメリカに対しデンマークの主権を尊重するよう警告。

「デンマーク、フェロー諸島、グリーンランドからなる私たちの王国が存在する限り、その領土の一体性を損なうような行動は受け入れられない」と、デンマークの放送局TV2に話した。

「特使が任命されたことで、私たちにとって何かが変わるわけではない。自分たちの未来は自分たちで決める。グリーンランドはグリーンランド人のものであり、領土の一体性は尊重されなければならない」と述べた。

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長もXへの投稿で、欧州連合(EU)は「デンマークおよびグリーンランドの人々と全面的に連帯する」とした。

今回の特使任命は二つの点で重要な意味を持つ。アメリカが、グリーンランドはデンマークとは別の土地だと考えていることが一つ。そして、新しい特使がグリーンランドをアメリカの一部にするため手伝うと表明している点だ。

この人事はまた、トランプ氏のグリーンランド支配への野心が衰えていないことも示している。

さらに、最近の米国家安全保障戦略が「西半球」と呼ぶ、アメリカ大陸全体をカバーする影響圏について、トランプ氏が支配拡大を決意していることも示している。これは、南米ヴェネズエラに対する軍事的・言語的な攻撃と共通する。

トランプ氏は大統領1期目の2019年にもグリーンランドを買収しようとした。デンマークとグリーンランド自治政府の両方がこの提案を拒否し、「グリーンランドは売り物ではない」とした。

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画像説明, グリーンランドの首都ヌークの旧市街にある家々

特使に任命されたランドリー氏は、過去にグリーンランドに関して個人の見解を示している。今年1月には自身のXアカウントで、「ドナルド・J・トランプ大統領は完全に正しい! グリーンランドが確実にアメリカに加わるようにする必要がある。あちらにとっても、私たちにとっても素晴らしいことだ! 成し遂げよう!」と書いている。

ランドリー氏は退役軍人で元警察官。2023年に知事に選出され、それ以前は連邦下院議員やルイジアナ州司法長官などを務めた。特使としての新たな職務は、知事の仕事に影響しないとしている。

北極圏では、氷が解けて新たな航路が開かれ、貴重な鉱物資源へのアクセスが増えており、戦略的競争が激化している。

グリーンランドは北米とヨーロッパの間の北極圏に位置していることから、アメリカおよびNATOの安全保障計画にとって重要な土地でもある。

アメリカは第2次世界大戦以降、グリーンランドに基地を置き続けている。大戦中は、ナチス・ドイツがデンマークを占領した後、アメリカはグリーンランドに侵攻し、軍事基地や無線局を設置した。

アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領は今年3月、この基地を訪れ、グリーンランドの人々に「アメリカと取引をする」よう求めた。

アメリカはグリーンランドの首都ヌークに置いていた領事館を1953年に閉鎖したが、トランプ政権1期目の2020年に再開した。ヨーロッパのいくつかの国やカナダも、グリーンランドに名誉総領事館を置いている。

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