「トランプセッション」の懸念拭えず-景気リスクは関税だけにあらず
トランプ米大統領による度重なる貿易戦争の挑発は、米国にとって1930年代以来最大規模となる保護主義的な政策だ。短期的に米経済の成長にブレーキをかける公算が大きい。
それだけではない。「政府効率化省(DOGE)」のイーロン・マスク氏が進める連邦政府職員の削減や移民締め付けもある。政策の不確実性は、企業投資に潜在的な悪影響をもたらしている。
これらを全て合わせると、世界一の経済大国で経済成長が鈍化するというのがエコノミストらの間でまとまりつつあるコンセンサスだ。
減税などの経済成長を促す計画もあり、米経済が今年、大幅に縮小するリスクはほとんどないと見る向きは多いが、それでも「トランプセッション」、つまりトランプ氏が引き起こすリセッション(景気後退)が到来するのではないかとの懸念は拭いきれない。貿易戦争で報復合戦がエスカレートすれば、その危惧は一段と強まるだろう。
トランプ政権は、数十年にわたる貿易赤字によって空洞化した米国の産業を復興させ、製造セクターで適正な賃金を支払える雇用を国内に取り戻すには抜本的な改革が必要だと主張している。
ベッセント財務長官は関税の影響とそれが引き起こす世界市場の低迷に対する懸念を一蹴しているものの、世界中で株価が下落し、米S&P500種株価指数は昨年の米大統領選後の上昇をほぼ帳消しにした。
同長官は4日、トランプ政権は「経済のリバランス」を図っているとFOXニュースに説明。「中期的にメインストリートが焦点だ。ウォール街は素晴らしい成果を上げており、今後もそうだろう。しかし、中小企業と消費者も焦点だ」と述べた。
ウォール街であれ中小企業あるいは消費者であれ、米国の輸入約1兆5000億ドル(約225兆円)相当に対する新たな課税の影響が及ぶのは間違いない。4日時点で、米国の平均関税率は1940年代以来の高水準に達した。
Source: USITC, US Census, Bloomberg Economics
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のメーバ・カズン、ラナ・サジェディ両氏によれば、それだけでもスタグフレーション、すなわち低成長と高インフレの時代に入る可能性がある。「これらの関税は米経済にとってマイナスの供給ショックとして作用する」と2人はリポートで指摘した。
「ある程度の痛み」
トランプ政権発足当初に連邦準備制度が使用したモデルに基づく算出によると、直近の関税ショックで米国の国内総生産(GDP)は1.3%減り、コアインフレ率が0.8%上昇する可能性がある。
エール大学予算研究所のエコノミストは、2025年にはその半分程度の成長ショックが起こると予測しているが、その傷跡は何年も残り得ると警告している。
生産拠点の移転やサプライチェーンの再編が行われたとしても、トランプ氏による直近の関税と他国が講じる報復措置により、長期的にGDPは0.4%減少するとし、「これは、米経済が恒久的に年800億-1100億ドル縮小するのと同等の影響だ」と論じた。
Consumers are growing more pessimistic amid resurgent inflation
Source: Bureau of Labor Statistics, Bureau of Economic Analysis, University of Michigan
トランプ氏は、米国民が貿易戦争で「ある程度の痛み」を感じるかもしれないと認めているが、自身の政策による長期的な利益は膨大なものになると述べている。政権によれば、議会で審議が始まった関税と規制緩和、減税が相まって投資ブームをけん引するという。
トランプ氏のチームはタカ派的な貿易政策が実を結んでいる証拠として、人工知能(AI)向け半導体製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が米国の工場に1000億ドルの追加投資を行うという最近の発表を挙げている。
政権が打ち出した政策のもう一つの重要な一角は、安価なエネルギーだ。トランプ氏が産油国のサウジアラビアとロシアに対し増産要請に応じるよう説得した兆しがあり、増産が実現すればガソリン価格が下がり、関税で打撃を受けている米国の消費者にいくらかの救済をもたらす可能性もある。
米経済はこれまで繰り返しその強靱(きょうじん)さを示し、リセッション予測を覆してきた。それでも、トランプショックが積み重なっているとウルフ・リサーチのチーフエコノミスト、 ステファニー・ロス氏は言う。「経済にとって本当にネガティブとなるものを設計するとしたら、それがこれだ」と同氏はブルームバーグテレビジョンに語った。
原題:It’s Not Just Tariffs: US Growth Risks Are Piling Up Under Trump (抜粋)