『あんぱん』暢(のぶ)さんが「ドキンちゃんのモデル」はホントか? やなせさんの書籍だと意外な「名作」の名前が

『あんぱん』で主人公ののぶが「ドキンちゃん」をイメージした格好をしているのに気付いた方は多いでしょう。史実でも、やなせさんは奥さんの暢さんをモデルにしているのでしょうか。

今田美桜さん(2018年12月、時事通信フォト)

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんとその妻の暢さんの人生をモデルにした2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』第23週では、「柳井嵩(演:北村匠海)」が、手塚治虫さんがモデルの天才漫画家「手嶌治虫(演:眞栄田郷敦)」から、アニメ映画『千夜一夜物語』のキャラクターデザインを依頼されました。

 手嶌は114話で、主人公「のぶ(演:今田美桜)」を見て、「漫画のヒロインのような顔立ちをしている」と語っています。115話では、手嶌は自分が気に入った嵩の女性の絵に、のぶの姿が反映されていることも見抜きました。

 これはいずれ嵩が『アンパンマン』の重要キャラ「ドキンちゃん」を生み出すときの、伏線になっているのかもしれません。一説にはドキンちゃんのモデルは、暢さんではないかと言われているのです。

『あんぱん』の脚本を書いている中園ミホさんは、いくつかのインタビューで、オーディションに来た今田さんの顔立ちがドキンちゃんにそっくりで驚いたことを語っています。ドラマのガイドブックでも、のぶがこれまで着てきた和服や洋服はドキンちゃんをイメージしたオレンジが基調になっていることが説明されていました。

「ドキンちゃんのモデルは暢さん」説は、やなせさんの書籍『アンパンマン伝説』(フレーベル館)の、一節がもとと思われます。やなせさんは正義側の味方が多すぎるため、「ばいきんまん」の仲間としてドキンちゃんを登場させました。名前の由来については「流し眼キラリ 胸がドキン だからドキンちゃん」と説明されています。

 そして、やなせさんは同書のなかで

「ドキンちゃんはなぜかぼくの母親の面影があり性質は妻に似ている」

 とも語っていました。

 やなせさんは暢さんだけでなく、ドキンちゃんに母の登喜子(ときこ)さんも重ねていたようです。『あんぱん』では嵩がたまに描く「プライドが高くて強情そうな女性」に、母「登美子(演:松嶋菜々子)」が反映されていることも語られました。

『アンパンマン伝説』では、やなせさんはドキンちゃんを「強烈な個性のわがまま娘」「かわいくて美人だがわがまま、生意気、意地悪で人を傷つけてよろこぶ性質」と述べています。たしかに劇中の登美子と重なる部分があるようです。

 また、やなせさんは同書で「典型的なドキンちゃんタイプ」として、1939年に映画化された名作『風と共に去りぬ』(著:マーガレット・ミッチェル)の主人公「スカーレット・オハラ」をあげていました。

 別の自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)でも、やなせさんは「キャラクターがくっきり出ている」「主役以外のキャラクターが鮮明に個性的」な作品の模範例として『風と共に去りぬ』の名前を出しており、『アンパンマン』シリーズを描くときに意識して参考にしていたことを明かしています。

 同書ではドキンちゃんとスカーレットの共通点のほか、スカーレットが思いを寄せる名家の美青年「ジョージ・アシュレー・ウィルクス」が、ドキンちゃんが大好きな「しょくぱんまん」、アシュレーのおとなしく優しい妻「メラニー」が「バタコさん」に当てはまることが語られていました。ちなみにスカーレットを愛し結婚するも、最終的に彼女の前から去ってしまう「レット・バトラー」は、やなせさんのイメージだと「(強いていうなら)アンパンマンとばいきんまんを足して二で割る」ような存在だそうです。

 ドキンちゃんは暢さんと母の登喜子さん、『風と共に去りぬ』のスカーレットと、やなせさんの好きな女性が混ざり合ったようなキャラなのかもしれません。『あんぱん』ではいまのところ『風と共に去りぬ』の名前は出てきていませんが、嵩はどのようにドキンちゃんを思いつくのでしょうか。

※本文の一部を修正しました。(2025.9.9 08:42)

(マグミクス編集部)

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