企業買収の活発化が日本株の台風の目に、割安な機械や金融株に好機
2025年の日本株市場では企業の合併・買収(M&A)が台風の目となりそうだ。
東京証券取引所の資本コストや株価を意識した経営要請や、アクティビスト(物言う投資家)の活発化で企業価値の向上を迫られている上場企業にとって、買収は成長戦略を実現するための有力な選択肢となりつつある。投資家も日本独自の要因として意識。買収の標的になりやすい工作機械や金融といった割安な業種に視線を注ぐ。
経済産業省が23年に策定した「企業買収における行動指針」で、企業に対して真摯(しんし)な買収提案には真摯な検討を求めたことから、買収が進みやすくなっている。対象企業の取締役会の同意を得ない敵対的買収でも、社外取締役を中心とした特別委員会で検討して株主利益の確保に努めることが標準となった。
みずほ信託銀行の石井孝史株式戦略コンサルティング部長は、「最近は株主アクティビズムだけではなく、ストラテジックバイヤーによる同意なき買収が増えている」と指摘。他社を取り込んで成長を図る動きが見られ、相談件数も多いとし、アクティビスト対策といった「ディフェンスサイド」での対応支援に加え、「企業買収も含めた企業価値向上提案を模索する『オフェンスサイド』の支援もある」と話す。
ブルームバーグのデータによると、東証株価指数(TOPIX)の構成企業に対する24年の買収提案は66件。世界的な金融危機の影響で企業の吸収・合併や再編が相次いだ09年とほぼ同水準になった。
国内では過去最大規模となるカナダのアリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案や、ホンダと日産自動車の持ち株会社設立検討など、大型買収のオファーが相次いだ。
企業買収が新たな次元に入ったとの印象を与えたのはニデック。M&A巧者として知られる同社は、工作機械メーカーの牧野フライス製作所に対する株式公開買い付け(TOB)を表明した。
みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストは、ニデックの提案は牧野フと事前交渉をせずに、突然買収に乗り出した点で異例だと話し、今年はこうした同意なき買収が増えるとみている。工作機械業界はトランプ関税の影響を受けやすい上、自動車産業向けの納入も多いことから、ホンダと日産の持ち株会社構想が業界再編を後押しする面もあると言う。
野村証券のエクイティ・ストラテジスト、藤直也氏と北岡智哉氏も、同意なき買収を含むM&Aの活発化を見込む。20年以降の同意なき買収の対象となった企業は、株価純資産倍率(PBR)や自己資本利益率(ROE)が低い傾向があると指摘した。
買収は対象企業の株価急騰につながることが多いが、企業買収の活発化が大きな収益機会となる金融セクターの株価パフォーマンスにも期待が持てそうだ。金融株はバリュエーションが相対的に低く、予想される日本銀行の利上げで収益の増大が見込まれることから、投資家の間では最も人気があるセクターだ。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは、銀行株は企業統治改革の面でも、持ち合い株式解消などポジティブな要素があると語る。「他の業界よりもROE改善への意識が強い」ことから、バリュエーションが改善する余地があるとの見方を示した。