「コウシエンは日本のU-18スーパートーナメント」ニッポン高校野球に憧れる“後進国”球児・関係者「いい意味でロボ」「酷暑のプレーは…」(Number Web)
イタリアの夏に甲子園はないが、高校球児はいる。 大人に混じってセリエAのベンチ入りする18歳がいる一方、チェコやオランダの選手とピッツァで交流を深めた16歳もいる。 日本同様、酷暑にあえいだ欧州で、異国の高校球児はどんな野球の夏を過ごしたのか。 「イタリアでは暑さを避けるために、7月から8月にかけてはU-18年代の公式戦はありません。州別リーグ戦は4月に開幕して6月には終わりますから。今は全国選手権にあたるプレーオフに備えているところです。プレーオフは9月末からですね」 イタリア屈指の強豪野球クラブ、「ボローニャ・フォルティトゥード」の育成部門部長ダニエレ・ナティッリの語り口は明快だ。 ボローニャはセリエA(イタリア1部リーグ)優勝14回を誇る名門で、年代によって4つにカテゴリー分けされる育成部門には高校生年代にあたるU-18チームがある。 イタリアの高校生チームの大まかなシーズンの流れはこうだ。日本の都道府県にあたる州ごとにリーグ戦を春から戦い、その上位チームが地域代表としてプレーオフ出場権を得る。夏の中断期間を経て、秋からのプレーオフ・トーナメントで国内優勝タイトルを目指す。 U-18ボローニャは過去に4度全国制覇しており、今季も国内最激戦区のエミリア・ロマーニャ州リーグを制した。秋からのプレーオフでも有力な優勝候補だ。
夏の暑さを避けて休養、というのは理に適っているようだが、根っからの野球人であるナティッリ部長はむしろ中断期間を歯がゆく思っているらしい。 「育成年代の試合数が少なすぎて、選手個人やチームの強化が進まないんです。国内で数をこなせている方のうちですら、U-18チームの年間試合数は最大で20から22試合だけ。夏の暑さには閉口しますが、我々としては夏の間も選手たちに(試合の強度は問わず)少しでも多くのゲームを経験させてやりたい」 国内きっての野球どころであるボローニャやパルマの近郊では、例年7月下旬から8月上旬にかけ、親睦と普及を主眼とした民間の育成年代トーナメント大会がいくつか開催されている。 中には40年近い歴史を持ち、チェコやオランダ、ポーランドなど国内外50チームが参加する大掛かりな大会もある。 どのイベントも主眼はイニングを重ねながら、野球の楽しさを再認識すること。U-18年代部門の試合は最大7イニングもしくは最長2時間、投手の投球数も1日最大85球に制限され、勝敗は二の次だ。 大会期間中には所属チームや国の垣根を超え、同年代とピッツァを食べながら交流するイベントも盛んに行われる。いかにも牧歌的だが「この夏の民間大会がイタリアにおける普及と存続のために果たす役割は大きい」と、ナティッリ部長は強調した。
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取材した8月初旬の午後、ボローニャの気温は35度を記録していた。甲子園球場で1回戦が白熱していた時期だ。 欧州野球の育成現場には日本の高校野球はどう映るのだろう。 「コウシエン? ああ、聞いたことありますよ。日本のU-18年代によるスーパートーナメントですよね」 セリエA時代は強肩のキャッチャーで鳴らしたというナティッリ氏に日本の高校生選手の印象を尋ねると、このように惜しみのない賛辞が返ってきた。 「規律の取れた正確なプレー。いい意味でロボットのように精密に動きをトレースできて、フィジカルに勝るアメリカを技術で凌駕できる生きたお手本」 国内きっての強豪ボローニャのU-18チームの練習頻度は週に3回、平均2時間程度だ。 イタリアの学校教育には基本的に高校年代まで球技の「部活動」がない。スポーツの部活動は学校生活の中に存在しない概念だ。 野球をやりたい学生はサッカーや他のスポーツ同様、民間のクラブに入団登録し、平日に練習をしながら週末に年間リーグ戦やカップ戦に参加する。
今夏の第107回全国高等学校野球選手権大会の予選参加校は日本全国で3396校あった。今年度のイタリアU-18リーグに出場したチーム数は国中合わせて70のみだ。 イタリア球界の育成関係者にしてみれば、1世紀を越える歴史をもち、4万人超の観客が巨大スタジアムを埋め尽くす上に全試合が地上波で生中継される「コウシエン」なる代物はファンタジーであり、憧憬の対象でしかない。想像の域をはるかに超えている。 真夏の炎天下での大会開催の是非を問うても、日本の高湿度や過酷な日程などの実感に乏しいことは確かだろう。
ならば、日本の夏を知るイタリア球児に話を聞かねばなるまい。 「やはり、この時期にプレーするのは難しいと思います」 セリエAクラブ「フィオレンティーナ・ベースボール」のU-18チームの主戦ピッチャー、ルポ拓真に話を聞いたのは、沖縄尚学と日大三高による決勝戦の翌日だった。 イタリア人の父と日本人の母を持つ彼は、フィレンツェ市内の高校に通う16歳で、昨年のU-15世界選手権ではアッズーリ(※イタリア代表の愛称)のユニフォームで快投した。 イタリア球界で育つ彼に、日本の高校野球はどう映るのか。〈第2回へつづく〉
(「甲子園の風」弓削高志 = 文)