『あんぱん』嵩が出たNHK番組はかなり重要? やなせたかし「アンパンマン誕生の出発点になった」
『あんぱん』では、やなせたかしさんが立川談志さんとやった番組『まんが学校』が再現されました。
2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の103話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」がNHKの番組『まんが教室』に出始めたことが話題になりました。こちらは嵩のモデルである『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんが出演していた『まんが学校』が元ネタです。
やなせさんは、1964年から1966年度まで『まんが学校』(毎週月曜日18時~18時25分)に、「マンガの先生」というポジションでレギュラーで出演しています。放送開始当時まだ28歳だった立川談志さん(『あんぱん』では立川談慶さん演じる「立川談楽」として登場)が司会をしており、スタジオで子供たちがマンガの描き方を練習したり、クイズを解いたりする番組でした。
やなせさんの書籍によると、この仕事は1964年のある日の午後、四谷の荒木町にあったやなせさんの自宅にやってきた、NHKのディレクターをしていた丸谷賢典さんという人物からいきなり頼まれたものだそうです。急なオファーにやなせさんはかなり驚いたそうですが、基本的に仕事を断らない彼は、慣れないTV出演も引き受けました。
『まんが学校』は、基本的にクイズ番組の要素が強かったものの、やなせさんは制作陣に頼んで番組最初の2分間を子供たちに絵の描き方を教えるコーナーにしてもらい、『あんぱん』のように絵描き歌も作っています。また、番組のOP、ED曲の作詞もしていました。
また、白黒TV時代のNHKの影響力を侮っていたやなせさんは、『まんが学校』に出演するようになった後、驚くような体験をしたことも振り返っています。やなせさんは各地で一気に知名度が上がり、地方で子供たちに話しかけられたり、「漫画家になりたい」という子供を持つホステスに相談をされたりしたそうです。後年には、『まんが学校』を見て育った画家やイラストレーターたちが、やなせさんを「先生」と呼んで話しかけてくることも多かったといいます。
そして、この番組で認知され、子供たちと関わる仕事の経験を得たことで、やなせさんに重大な転機が訪れました。それまで大人向けのマンガを描いていたやなせさんのもとに、子供向け雑誌から仕事の依頼が来るようになったのです。
やなせさんは学習雑誌に「めいろあそび」「まちがいさがし」のほか、交通標識を守る、手洗いうがいの大切さを説く絵などを描く仕事に乗り気ではなかったとのことですが、「この道はアンパンマン誕生への伏線となる最初の出発点になった」(自伝『アンパンマンの遺書』より引用)と語っていました。
やなせさんは『まんが学校』出演当時、各地でサインを求められても漫画家として代表的なキャラがおらず、何を描くべきか困ったことも振り返っています。『アンパンマンの遺書』では、「歌手に持ち歌があるように、誰でも知っている人気キャラクターを持たなければ、この世界では存在しないと同じということを痛切に思い知った」と述べており、こういった体験も「アンパンマン」が生まれる道につながったのかもしれません。
明日の『あんぱん』104話では主人公「のぶ(演:今田美桜)」が、嵩がカフェで女性たちに囲まれているのを目撃することが予告されています。理由は不明ですが、やなせさんと同じように『まんが教室』の人気で、嵩の知名度が全国区クラスになってしまったのでしょうか。
参考書籍:『アンパンマンの遺書』(岩波書店 著:やなせたかし)、『人生なんて夢だけど』(フレーベル館 著:やなせたかし)、『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』(文藝春秋 著:梯久美子)
(マグミクス編集部)