アングル:テスラのロボタクシー、本格展開は険しい道のり

 電気自動車メーカーのテスラはついに自動運転タクシー「ロボタクシー」の運行を発表した。写真は、テスラのロボタクシーがサウスコングレスアベニューを走行する様子。6月22日、オースティンで撮影(2025年 ロイター/Joel Angel Juarez)

[24日 ロイター] - 電気自動車メーカーのテスラ(TSLA.O), opens new tabはついに自動運転タクシー「ロボタクシー」の運行を発表した。だが、ここからが困難な部分が始まる。
同社は22日、米テキサス州オースティンで、モデルYを利用した小規模で厳重に監視された試験運行として初の無人タクシーを実施した。テスラが次に直面するのは、ソフトウエアを改良して1年程度のうちに数百万台のテスラ車にアップロードするという、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の野望を実行に移す極めて困難な課題だ もっと見る

ロイターが取材した業界アナリストや自動運転技術の専門家の多くは、こうした急激な事業拡大は極めて困難になるだろうと語った。テスラの事業展望についてさまざまな見解を示しつつ、ロボタクシーの事業が急ピッチで展開していくことを期待しないよう戒めた。

テスラが米グーグル親会社アルファベット(GOOGL.O), opens new tab傘下のウェイモや中国の自動車・ハイテク企業のようなライバル企業を追い越す上で、活用できる利点があると指摘する専門家もいる。テスラは大量生産の能力を有するとともに、ソフトウェアの遠隔アップデートを先駆けて導入し自動運転機能の更新に活用できる。また、ウェイモやライバル企業の大半のようにレーダーやライダーといったセンサーを利用せず、代わりにカメラと人工知能(AI)だけに頼っている。

モーニングスターのシニア株式アナリスト、セス・ゴールドスタイン氏は「事業展開がとても迅速に進む可能性があるだろう。もしもソフトウェアが機能すれば、テスラのロボタクシーは世界中のどこの道路でも運行できる可能性がある」と述べつつ、まだ「試験運行の段階だ」と慎重な態度を示した。

テスラはオースティンの一定の場所で十数台の車両を使い、緻密に計画した試験を実施したとみられる。安全を監視する人員が助手席に同乗し、遠隔操作員が待機し、悪天候を避ける計画を立てて、テスラを応援するインフルエンサーを乗客に選んだ。

マスク氏は長年、同社がまもなく自社の自動運転ライドシェアサービスを運営し、テスラ車であれば新車・中古車を問わず収益を生み出す乗客向けロボタクシーに姿を変えさせると語ってきた。サウスカロライナ大学のブライアント・ウォーカー・スミス教授は「そのような状況に至るまでの道のりは、オースティンで実施した試験運行よりも桁違いに難しい」と指摘する。

ロイターはマスク氏もテスラにコメントを求めたが、回答を得られなかった。マスク氏は4月、「完全自動運転のテスラ車が来年後半に数百万台走行しているだろう」と述べていた。

テスラのAIに依存した手法であれば、複雑な交通状況に対応できるようロボタクシーを機械学習で訓練することが課題になるだろう、とカーネギーメロン大学のフィリップ・クープマン教授は話す。訓練は何年もかかる可能性があるとし、「ウェイモがどれだけ時間をかけたかを見れば、テスラがより早く実現できると考える根拠はない」と語る。

<ウェイモの視点>

ウェイモの自動運転を目指した取り組みは、グーグルが自動運転開発事業に着手した2009年までさかのぼる。15年にやはりオースティンで卵型の試作車が公道を初めて走行した。

ウェイモはそれ以来、特定の複数都市で計1500台のロボタクシー部隊を築き上げており、26年末までにさらに2000台を追加配備する計画だと広報担当者は語った。

ウェイモが規制上の課題と技術的な課題を克服したことが事業展開の地ならしに役立っているため、テスラがより迅速に事業拡大できるとみるアナリストもいる。

市場調査会社フォレスターのアナリスト、ポール・ミラー氏は「ウェイモやほかの先駆者が規制改革を促し、運転者や歩行者に自動運転車両の存在を認識させた」と言う。

ミラー氏によると、テスラが大量生産できるメーカーである点も有利に働くという。ウェイモはジャガーの高級電動スポーツタイプ多目的車(SUV)「I―PACE(アイペース)」を調達し、テスラが自社の車両に一体化しているよりも高価なセンサーや技術を搭載している。

ウェイモはロイターの取材に、テスラのロボタクシー事業に関するコメントを控えた。

ウェイモのジョン・クラフチック元最高経営責任者(CEO)は懐疑的だ。テスラがオースティンで示した慎重な態度は、自社技術の安全性に自信を持っていないことを示していると述べた。「テスラの技術は必要とされるほど安全でなく、ウェイモが示してきた断固とした手法や十分に立証された安全性にまったく及ばない」。

<反対車線を走行>

テスラのスピードを重視した戦略が市民の信頼を損ねた場合には、同社の事業進展と自動運転業界全体の進展を遅らせる可能性があると指摘するアナリストもいる。

テスラはこれまでに「完全自動運転(FSD)」運転者補助システムに関して法的・規制的問題に直面している。FSDは完全な自動運転ではなかった。最近の連邦安全調査で、調査官は雨天やそのほかの荒天がシステムのカメラの機能を妨げた死亡事故を含む衝突事故について、FSDがどのように関与しているのか調べている。

テスラがロボタクシーの初乗車に招いた応援者のインフルエンサーらは、おおむね好意的な態度を示した。しかし、招かれたある乗客がX(旧ツイッター)に投稿した動画には、ロボタクシーが信号のある4車線の交差点を通り過ぎて、反対車線を6秒程度走行する様子が映っていた。その時に対向車はなかった。

ロイターは、動画に映る建物や看板の様子から、現場がオースティンのウェスト・リバーサイド・ドライブとバートン・スプリングス・ロードの交差点だと確認した。

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Rachael Levy is a Pulitzer Prize-winning enterprise correspondent. She has written about Wall Street, Elon Musk's companies, American health care and national security, among other topics. She earlier reported for the Wall Street Journal and other outlets. Phone: 202-967-6233 Contact her securely on Signal: levy.99 https://www.pulitzer.org/winners/staff-reuters

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