【大河ドラマ べらぼう】小田新之助役・井之脇海さんインタビュー「死ぬときは多幸感に包まれていました」「横浜さんのパワーに感激」「蔦重と歌麿のラストシーンは泣けました」
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第33回で劇的な最期を遂げた新之助。聡明で優しく、少し頼りない部分も魅力になっている愛されキャラでした。涙なしには見られなかった33回は、どんなふうに収録されたのでしょう。新之助を演じた井之脇海さんにお聞きしました。
蔦重を守りたかった新之助
――「丈右衛門だった男」(矢野聖人さん)が蔦重(横浜流星さん)に襲いかかろうとしたとき、新之助は飛び込んでいきました。ドラマの序盤では切腹もできなかった新之助ですが、怖さや迷いはなかったのでしょうか?
井之脇さん:なかったです。新之助は思考が優先するタイプなので、切腹のときは頭で考えすぎて踏み切れませんでしたが、今回はじめて「蔦重を守りたい」という衝動だけで体が動きました。新之助は丸腰だったのですが、とにかく助けなければという思いで、身を挺して蔦重を守ったのです。
――刺された後、蔦重に抱きかかえられて歩くシーンはいかがでしたか?
井之脇さん:演出からは、蔦重に全体重をかけてほしいと言われ、生まれたての小鹿みたいになって横浜さんに支えてもらいました。65キロほどある僕の体を横浜さんにゆだねていたので申し訳なかったのですが、そんな状況でも彼のお芝居はすばらしく、お互いの本気が感じられる思い出深いシーンになりました。
――「蔦重を守れてよかった」と語るシーンも印象的でした。
井之脇さん:蔦重に抱きかかえられた状態でセリフを発することで、あの体勢でしか出ない声になりました。自分で話しながら蔦重への思いも確認でき、また横浜さんのお芝居で新之助を思う蔦重の気持ちも伝わり、演じながら新之助だけでなく僕自身も幸せな気持ちになりました。
横浜さんのパワーに感激
――新之助は笑みを浮かべたまま亡くなりましたが、最期の表情はどう解釈されていますか?
井之脇さん:笑おうと思って笑っていたのではないと捉えています。たぶん新之助も気づいていないぐらい、無意識の多幸感に包まれていたような気がします。親友を守ったという大義を成し遂げられたことが心の底からうれしく、充実した気持ちがあふれていたのだと思います。思い残すことなく死ねたという気持ちがにじみ出るような表情にできればと思って演じていました。
――ふく(小野花梨さん)たちのところに行けるという気持ちもあったと思いますか?
井之脇さん:それもあったと思いますし、胸を張って、おふくととよ坊のもとに行けるという思いもあったような気がします。もし打ちこわしがうまくいかず、蔦重も守れていなかったら、死んでも死にきれなかったでしょうし、おふくに合わせる顔もなかったと思います。幸い達成できたので、安心して二人のもとに行けるという気持ちになっていたと思います。
――井之脇さんご自身は、演じていてどんな気持ちになりましたか?
井之脇さん:横浜さんがすごいなと思っていました。新之助が死んだあとも、ワーッと叫びながら橋の向こうまで僕を連れて行こうとするのですが、あれは台本にはない描写でした。僕は死んだ状態でしたが、横浜さんのパワーを間近で感じ、これほど新之助を思ってくれているんだと感激しました。でも、心を動かされると顔が動いてしまうので、表情を固めて死ぬ演技をしたまま感動していました。今まで死ぬシーンは演じたことがなかったので、難しかったです。
――最後、新之助の土まんじゅうの前で蔦重と歌麿(染谷将太さん)が話すラストシーンはいかがでしたか?
井之脇さん:収録のとき二人の演技を見ていたのですが、泣けました。まだ僕が死ぬシーンを撮っていない段階でしたが、そこであのお芝居ができるのは本当にすごいと思いました。新之助の最期が「いい顔だった」と言ってもらえたのがとてもうれしく、成仏できそうです。悲しいけれど愛のあるシーンでした。
庶民の目線で世の中を見ていた新之助
――新之助を演じきったお気持ちは?
井之脇さん:達成感がありました。浪人からはじまり、足抜けをして百姓になり、最後は打ちこわしをする革命戦士になって、一人の人生のなかでいろいろな側面を演じることができました。新之助が亡くなるシーンが僕のクランクアップだったので、これで終わりだという思いも強かったです。
――新之助は、当初かっこ悪い部分もありましたが、ラストでこんな展開になると知っていましたか?
井之脇さん:最初の本読みのとき、森下先生から大まかな展開は聞いていました。「後半は革命戦士になってかっこよくなり、たぶん死ぬよ」と(笑)。最後かっこよくなるなら、最初はへっぽこでギャップがあっていいのかなと想像しながら演じていました。
――庶民に身近な新之助とおふくカップルを応援する声も多くありました。視聴者の声援は、どう受け止めていますか?
井之脇さん:きちんと生活している人のにおいを出せるように演じられたらと思っていたので、温かく見てくださったのは純粋にうれしかったです。庶民の目線で世の中を見て戦ってきた新之助は、みなさんを代弁する役だったと思います。現代も米が高騰し、打ちこわしのようなことが起こる可能性もゼロではなく、新之助の叫びはタイムリーに響くものだったと思います。
――おふくたちが殺された場面も反響が大きかったです。
井之脇さん:あのシーンは苦しかったですね。下手人を殴っていいんだよ、と新之助に言いたかったです。たぶん家を飛び出したときは、殺してやりたい気持ちもあったと思いますが、彼は聡明だったので、いざ目の前にするとすべての状況を理解し、殴ることすらできなかった。新之助らしいですが、演じていてとても悲しかったです。
――今後も物語は続いていきます。視聴者のみなさんにメッセージをお願いできますか?
井之脇さん:33回で、蔦重率いる隊列が来たとき打ちこわしが止まるシーンがあります。その台本のト書きに「それはエンターテイメントが起こした奇跡の瞬間だ」と書いてありました。僕の大好きなト書きで、この一行にドラマのメッセージが凝縮されていると思います。エンタメが世の中を変え、影響を与えていく様子が今後も描かれていくと思います。困難に巻き込まれながら、必死に生きていく蔦重や周りの人たちを最後まで見守っていただけたらと思います。
井之脇さん(いのわきかい)さん 1995年生まれ、神奈川県出身。子役時代から活躍し、映画『トウキョウソナタ』で複数の新人賞を受賞。主な出演作品は、ドラマ『義母と娘のブルース』『ブラック・ジャック』や、W主演を務めた『晩餐ブルース』など。NHKでは、連続テレビ小説『ごちそうさん』『ひよっこ』『ちむどんどん』、大河ドラマ『平清盛』『おんな城主 直虎』『いだてん』などに出演。 (ライター・田代わこ) <あわせて読みたい>
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