「自分が仙台をJ1に連れて行きたい」高卒ルーキーFW安野匠、限られた出場時間でも「常に1点取れるくらいの能力を」
FW安野匠
[5.10 J2第15節 大宮 3-0 仙台 NACK]
ベガルタ仙台の高卒ルーキーFW安野匠はRB大宮アルディージャとの上位対決の後半44分、相手が脳震盪の疑いによる選手交代を行ったことに伴う“6人目の追加交代”で途中出場し、ピッチの上で0-3完敗の瞬間を迎えた。ピッチに立った時点で3点差がついており、出場時間はアディショナルタイムを含めても7分間弱。相手が固く守るなか、シュートチャンスは訪れなかった。
しかし、その起用法も自らの現在地を示すもの。試合後、19歳の若きストライカーは限られた出場時間を言い訳にすることなく、「今日みたいに時間が短くても、勝っていても負けていても、どういう状況でも絶対に1点は取れるというメンタリティと技術をつけないといけない」と奮起を誓った。帝京長岡高から今季仙台に加入した安野は、同校で鍛えた基礎技術とゴールセンスに加え、ピッチ上でそれらを発揮するための熱いメンタリティを兼ね備えるストライカー。森山佳郎監督の評価も上々のようで、高卒1年目にして3月26日のルヴァン杯1回戦・栃木SC戦で先発プロデビューを果たした。
その試合は後半41分までのプレーで無得点に終わったものの、第7節・富山戦(◯1-0)で後半41分からピッチに立ち、J2リーグ戦初出場。その後も第9節・今治戦(△1-1)で同39分から、第10節・熊本戦(◯1-0)で同29分から、第12節・甲府戦(◯2-1)で同45+1分からと着実に出場機会を与えられ、チーム内で一定の地位を築いてきた。 またJ2リーグ戦5試合目となったこの日は初めてビハインドでの起用。前線をかき回す役目だけでなく、ストライカーとしての使命がより強調される形でピッチに立つところまでこぎ着けた。もっともこの日の仙台は前半のうちに0-2のビハインドに追い込まれたなか、FW陣で先に投入されたのはFW荒木駿太とFW梅木翼。安野は“6番目の交代カード”という序列であったのも事実だ。 もちろんゆくゆくは先発争いに挑んでいきたい安野だが、まずはこの序列を覆していくための働きが次の関門となる。安野自身もその現在地を受け止め、自らの勝負どころを見据えている。 「ここまで試合に出られているのは少しずつステップアップできていると言えるけど、出場時間が短かったり、試合の状況によって出られているというのがある。常に出続けられる選手になりたいし、いまは行くとしても途中からだけど、途中からでも『こいつを出せば使えるな』とか『こいつを出せば試合を決められるな』という信頼感がまだない。その信頼を掴むためには練習から、練習試合、そしてこういう試合で常に1点取れるくらいの能力をつけないといけないと思います」 この試合であれば、0-2で迎えた後半開始からの投入を決断してもらえるような信頼を得たいところだ。「『お前が試合を決めてくれ』『3点取って来い』と言われるような選手にならないといけない」。そう次のステップを見据えるなか、他のFWをも上回るようなゴールへの欲求を表現することで違いを見せようとしている。 「FWなので常にゴールを狙っていくというところは他の選手と変わらないかもしれないけど、でもそのゴールに対する思いも人一倍あると思う。どういう状況でも自分がチームを勝たせたいと思っているし、仙台にいる他のFWともタイプが違うと思っていて、背後に抜けるとか、がむしゃらに闘うプレースタイルなので、いまはそういうところを活かして他の選手にないところを伸ばして点を取っていくところを意識しています」 普段の練習や試合経験を通じ、プロのレベルには徐々に慣れつつある。ただ、適応しただけにとどまるつもりはない。 「もちろん最初と比べたら慣れてきたところはあるけど、慣れで終わってしまったら三流の選手なので。ここからJ1に行って、そこから海外に行ってとステップアップするためにも、もっと基準を上げて点を取っていかないといけない。もちろんJ2はレベルが高いし、すごくいい選手もいるし、見習うべき選手がたくさんいる。でも目指している場所はここじゃない。だからこういうところでまずしっかり点を取っていかなきゃいけないなと思います」 そんな大きな野心も抱く19歳は今季の目標として「自分が仙台をJ1に連れていきたいという思いがもちろんある」と言い切る。昨季はJ1昇格プレーオフ決勝で涙をのんだ仙台は今季、J1自動昇格を目標に掲げて昇格レースに食い込んでいるなか、“戦力としてJ1に導く”という使命はより具体的なものとなっているようだ。 「高卒1年目で試合に関わらせてもらって、こうして首位争いができているという今のチームにいられることが嬉しいことだし、この経験をさせてもらっていることが嬉しい。このチームで自分が上に行かないとこの先、生きていけないなと思っているので、そこは本当に意識しています」 またプロ1年目という立場の安野にとって、初めて経験するファン・サポーターの存在も大きな励みになっている。この日は0-3の完敗に終わったにもかかわらず、敵地に集まったサポーターからはチャントの大合唱が巻き起こった。次節に首位・千葉との直接対決を控えるなか、ここで下を向くなというメッセージを明確に突きつけられた形だった。 その大声援は19歳の心を打った。 「負けている状況の中でも応援してくれているサポーターの皆さんがいて、わざわざ遠くまで来て自分たちのことを応援してくれているので、まずはチームを勝たせることもそうだし、何よりそういう人たちに笑顔で帰ってもらいたい。自分たちはこの11人、(ベンチ入りも含めた)20人だけで戦っているわけじゃなくて、サポーターがあってこそ自分たちがある。これからも応援し続けてもらいたい思いがあるので、だからこそ自分が試合を決めたい」 自身に集まる期待もひしひしと感じている。「期待してくれているというのは期待に応えないといけないということ。期待されるというだけじゃそれまでの選手で終わってしまうので、その期待に応え続けられる選手になりたい」。そのためにも、まず目指すは“第1号”。「やっぱり勝たなきゃ意味がないんで。自分はまず早くJ1初ゴールを取らないといけない。ゴールで早くファンの人たちに感謝を伝えたいと思います」。熱い思いはストライカーとしての仕事で表現する。 (取材・文 竹内達也)●2025シーズンJリーグ特集▶お笑いコンビ・ヤーレンズのサッカー番組がポッドキャストで配信中