極寒より猛暑の影響大、欧州で気候変動による死者増加へ-研究論文

欧州での気温が上昇するにつれ、極寒での死者数は減少するものの、それを上回るペースで猛暑による死者数が増えると予想されている。

  27日に医学誌ネイチャー・メディシンで公表された研究論文によると、英国やアイルランド、スカンジナビアなど北欧地域の都市では、冬季の寒さが和らぐため死者数が全体的に減少する見通し。だが、この減少を上回るペースで南部での死者数が増加し、全体としては極端な気温による死者数が増えるという。

  研究者らは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出量が増加し続けると、気温上昇による死者数は2099年までに欧州854都市で約230万人増加すると予想。バルセロナ、ローマ、ナポリ、マドリードなど地中海地域の都市では死者数の増加が最も大きくなると見込まれている。

  ここ数年は夏季の気温が例年を上回り、脆弱(ぜいじゃく)な高齢者を中心に死者数がすでに大幅に増加している。03年の欧州での熱波では7万人余りが死亡。22年の夏季には欧州大陸全土で記録的な猛暑が続き、大規模な適応策が講じられたにもかかわらず6万人強が死亡した。

  気温は郊外よりも都市部で上昇する傾向がある。建物や舗装された道路が熱を吸収するためだ。欧州の多くの都市では日陰や緑地が少なく、エアコンの普及も十分ではない。

  ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の環境健康モデリング研究室責任者で研究論文のシニア著者、アントニオ・ガスパリーニ教授は、今回の研究結果は猛暑による死者数の増加が極寒による死者数の減少を上回ることを示す「説得力のある証拠」だと指摘。「これらの結果は気候変動の『有益な』効果を唱える理論を覆す」と語った。

  イースト・アングリア大学気候研究ユニットのディレクター、ティム・オズボーン氏は、今回の研究は高齢化社会や各都市特有の脆弱性を考慮しており、これまでの研究よりも詳細だと評価。「新たな研究で明らかになったことは、気候変動の正味の影響として、将来、気温に関連した死者が増えるということだ」と述べた。オズボーン氏は今回の研究には関与していない。

  論文によると、涼しさを維持するための大規模な適応策を講じても、気温上昇による健康リスクの増大を完全に相殺することは非常に難しいという。ただ、CO2排出量を削減し、気温上昇を気候変動対策の枠組み「パリ協定」の目標に沿った水準に抑えれば、死者数は3分の1に減少するとした。

  ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の助教で論文のリード著者、ピエール・マセロ氏は「われわれの研究結果は、気候変動の緩和と気温上昇への適応の双方を積極的に追求する喫緊の必要性を強調している。何もしなければ悲惨な結果になり得る地中海地域にとって特に重要だ」と警告した。

原題:Climate Change Will Lead to Higher Deaths in Europe, Study Shows(抜粋)

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