ガザ北部で物資求める67人をイスラエル軍が殺害、ハマス運営の保健省発表 深刻な飢餓を警告
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ヨランド・ネル中東特派員(エルサレム)、ジャック・バージェス記者(BBCニュース)
パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスが運営する保健省は20日、北部で国連の援助物資を待っていた少なくとも67人を、イスラエル軍が殺害したと発表した。
世界食糧計画(WFP)は、25台のトラックからなる援助物資の車列がイスラエルからガザに入り、検問所を通過した直後に「飢えた市民の大群に遭遇し、その後、銃撃を受けた」と発表した。
イスラエル国防軍(IDF)は、「差し迫った脅威を排除するために警告射撃を行った」と説明し、報告された死者数については異議を唱えている。
ガザの保健省は19日、ガザ地区で極度の飢餓が深刻化しており、極度に疲労し衰弱した状態で医療施設に到着する人が増えていると警告している。
同保健省は、「身体が衰弱した数百人が、飢餓による死の危機に直面している」としている。国連も、ガザの住民が飢えていると指摘し、緊急に必需品を搬入する必要があると訴えている。
ガザ保健省は20日、過去24時間で「飢饉(ききん)による」死者が18人確認されたと発表した。
ガザ北部で負傷した大勢は、ガザ市内のアル・シファ病院に搬送された。同院のハッサン・アル・シャエル医療部長は20日、BBCアラビア語に対し、施設の「対応能力を超えている」と語った。
病院の外で取材に応じた女性は、BBCアラビア語に対し「住民全体が死にかけている」と訴えた。
「子どもたちは飢えで死んでいる。食べるものが何もない。大勢が水と塩だけで生き延びている(中略)本当に水と塩だけだ」
ガザの民間防衛隊は20日、イスラエル軍の攻撃によってガザ全域で93人が殺され、さらに数十人が負傷したと発表した。ガザ北部では80人が殺害されたほか、南部ラファの支援拠点付近で9人、同ハンユニスの支援拠点付近で4人が、銃撃で殺害されたとしている。
ガザ市在住のカセム・アブ・ハーテル氏はAFP通信に対し、小麦粉を手に入れようとしたものの、現場では食べ物を得ようと必死な群衆が「危険な混雑の中で押し合って」いたと語った。
「戦車が無差別に私たちを砲撃し、イスラエルの狙撃兵がまるで森で動物を狩るように人々を撃っていた」と、ハーテル氏述べた。
「目の前で何十人もが殉教した。誰かを助けるなど、誰にもできなかった」
WFPは、支援を求める市民に対する暴力を「全く容認できない」と非難している。
WFPはソーシャルメディアに投稿した声明で、「栄養不良が急増しており、9万人の女性と子どもが緊急の治療を必要としている」と指摘した。また、「住民のほぼ3人に1人が何日も食事を取っていない」と述べた。
5月下旬以降、食料を求めるパレスチナ人が殺害される事案がほぼ毎日のように報告されている。ガザの保健省によると、19日にはガザ南部にある2カ所の援助物資配布拠点付近で、イスラエル軍の銃撃により少なくとも32人が殺された。
こうした事案の多くは、アメリカとイスラエルが支援する「ガザ人道財団(GHF)」の周辺で発生している。国連や複数の国際人道団体から批判されているGHFは、イスラエル軍の管理区域内にある拠点から援助物資を配布するため、民間の警備業者を利用している。他方、一部の事案は、国連が搬入した援助物資の拠点付近でも発生している。
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こうした中でイスラエル軍は、ガザ中部の人口密集地域に避難命令を出した。対象となったのは、1年9カ月にわたる対ハマス戦争で、イスラエル軍がこれまで地上作戦を展開していない地域。
IDFは20日、デイル・アル・バラフに住む住民および避難民に対し、直ちに地中海沿岸のアル・マワシ地区へ移動するよう呼びかけた。
この避難命令は、地上攻撃の開始が差し迫っている可能性を示唆しており、数万人規模のパレスチナ人に加え、同市に拘束されているとみられるイスラエル人の家族にも大きな不安を引き起こしている。
IDFはこの地域で空爆を実施しているが、地上部隊の展開はまだ行っていない。
イスラエル軍は20日、デイル・アル・バラフ南西部の複数の地区で、住民に自宅を離れてさらに南へ避難するよう命令するビラを空から投下した。
同軍は、「(イスラエル)国防軍は、この地域で敵の戦力およびテロ・インフラを破壊するため、強力に作戦を継続している」と述べた。また、これらの地区にはこれまで地上部隊を投入していないと付け加えた。
避難対象となったデイル・アル・バラフには、テントで生活する避難民が密集している。
イスラエルの消息筋はロイター通信に対し、この地区にこれまで軍が立ち入らなかったのは、ハマスがそこで人質を拘束している可能性があるからだと説明した。
ガザ地区に残る人質50人のうち、少なくとも20人は生存しているとみられている。
イスラエルとハマスの戦争が続く中、ガザ地区の人口200万人以上の大半が少なくとも1度は避難を強いられている。イスラエルによる繰り返しの避難勧告は、広範囲にわたる地域を対象としている。
キリスト教カトリック教会のローマ教皇レオ14世は20日、「戦争という野蛮行為を直ちに終わらせるべきだ」と訴え、「無差別な武力行使」に対して警鐘を鳴らした。
イスラエルは、2023年10月7日にハマス主導で行われた攻撃により約1200人が殺され、251人が人質として連れ去られたことへの報復として、ガザでの戦争を開始した。
その後のイスラエルによる攻撃で、ガザではこれまでに5万8895人以上が死亡したと、ハマスが運営する保健省が発表している。同省の統計は、国連をはじめとする国際機関が最も信頼できる死傷者数の情報源として引用している。