多様なAIモデルを進化的にマージする──特集「THE WORLD IN 2025」
世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。Sakana AIのCEOデイビッド・ハとCTOライオン・ジョーンズは、カスタマイズされた「群知能型AI」が民主化され、誰もが安価に使えるようになると語る。
現在、巨大テック企業からスタートアップまで、さまざまなプレイヤーが開発している人工知能(AI)技術のひとつである大規模言語モデル(LLM)は、大量のエネルギー投資を必要とし、どこも開発コストによって大きな赤字を抱えていて、ビジネスモデルとして健全とは言えない。特に日本は資源が限られた国であり、米国企業の模倣をしていてはいけない。
最近の急速なAIの進展が示すように、既存のAIモデルを改良する最良の方法のひとつは、単純に10倍のデータを使ってモデルを10倍大きくすることだ。ただこれは、さまざまなパラメーターを駆使して試行錯誤してきたAI研究者にとっては悔しいほどに単純な方法なので、「ビターレッスン(苦い教訓)」とも呼ばれている。だが、こうして単にデータを大きくしていくよりも、はるかに効率的に高パフォーマンスを発揮するモデルを自動で構築する方法がある。
それが、わたしたちSakana AIが2024年に発表した手法、「進化的モデルマージ(Evolutionary Model Merge)」だ。これは、「進化的アルゴリズム」を使うことで、既存のオープンでそれぞれに異なるAIモデルを複数組み合わせ、膨大な集合知として融合(マージ)していくものだ。特定の用途や目的に合わせてマージするモデルたちを選択でき、最適な新しい基盤モデルを自動でつくり出す手法である。
莫大なデータと計算リソースを使って訓練・維持をするLLMと異なり、この進化的モデルマージでは既存のモデルを活用するため、新しいデータでゼロから再訓練する必要がなく、大幅なリソース削減が可能となる。それによって、LLMに匹敵するパフォーマンスで、かつ画像や音声など異なるモーダリティを扱う高性能なカスタムモデルを、100万分の1のリソースで生み出せるのだ。その際、どのモデルをマージさせて、それを何回進化させるかを決めるのは、あくまでも人間となる。
こうしたAIの応用分野として、特に有望だと期待しているのは医療科学だ。安全性の担保が前提にあるため規制が多く、開発には途方もない時間とコストがかかるが、病気の要因や効果的な治療法など、非常に複雑なデータを読み込むためにはいまやAIが不可欠だ。これはあらゆる領域で起こりうるし、人間では扱えない難題も解決できるようになる未来も、もはや決して夢物語ではない。
進化するAIエージェント
こうしてカスタマイズされた独自のAIモデルが民主化され、誰もが安価に使えるようになると、AIは人間や動物と同じように新たなエージェントとして、わたしたちの日常生活と密接に統合され、共存していくだろう。例えば、誰もが個人のアシスタントをもち、頻繁にやりとりすることになるだろうし、AIソフトウェアエンジニアとして機能するエージェントにバグ修正を依頼するような、AIとの協業の時代も訪れるだろう。
最初期の世代である現在のAIエージェントは、まだ不十分ではあるものの、進展も見られる。実際に、わたしたちが開発したAIシステムの「AIサイエンティスト」は、LLMを使ってAIが自ら研究開発プロセスを実行する。アイデアの検討・反復、新規性の確認、実験の実行、コードの記述など、研究開発プロセスそのものを自動化するのです。もちろん各ステップで失敗の可能性もあるが、エージェントとLLMを組み合わせる技術が進歩することで、実際に十分に機能するようになった。