ビッグモーターの次は「最大手の上場企業」…不正が相次ぐ中古車業界で行われていた「錬金術」の中身 ロレックスを見せびらかし「不正によって手に入れた」

旧ビッグモーターで発覚した保険金の不正請求をきっかけに、中古車販売業界で不祥事が次々と明らかになった。金融庁は実態を明らかにするため複数の企業に立ち入り調査をしたが、そのうちの1社で別の社内不正が浮上していることが分かった。ビッグモーター問題を取材してきた自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんがリポートする――。

全国展開する中古車販売会社のネクステージ(プレスリリースより

2月27日、情報提供者のA氏から一通のメッセージが届いた。

「名古屋の上場している大手中古車販売会社で、内部で大きな不正があり、管理職が数名解雇処分になるみたいです」

このメッセージのあと「明日2月28日お昼にオンラインで会長からお達しがある。すでに、不正に関わった複数名の社員は自宅待機になっている」という内容が続いた。

・本社は名古屋で上場 ・会長から通達

これらの情報から、はじめは保険金の不適切請求が発覚し、今年1月24日に金融庁から保険業法に基づく業務改善命令が発出されたグッドスピード(名古屋市)かと思ったが、「会長」が直々に通達を行うところで、これはネクステージだと確信した。

ビッグモーターに代わり業界最大手に

ネクステージは1998年に中古車販売として創業し、東証プライム市場と名証プレミアに上場している。公式サイトによると全国に350店舗を展開。中古車だけではなく各店舗で人気の新車も販売しており、複数の正規輸入車ディーラーの経営も手掛けている。

ここ10年で10倍以上の急成長を遂げ、直近の2024年11月期の売上高は5527億円と過去最高を記録した。「ガリバー」を運営するIDOMや、ビッグモーターの最盛期の売上高5200億円(2022年9月期)を大きく超えて、日本最大の中古車販売業者に位置付けられている。

ビッグモーター問題への対応としては2023年8月、不正車検や保険金水増し請求について社内調査した結果、「不正な案件については確認されませんでした」と発表した。

しかし、2023年9月には、週刊誌の取材を受け、複数の社員が友人の名義などを使って車の保険契約を捏造していたことを公表し、ビッグモーター出身の当時の浜脇浩次社長が辞任した。それ以降、創業者で会長の広田靖治氏が社長を兼務している。


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その結果、ネクステージでは社員による「横領行為」があったという複数の証言が得られた。

筆者のところには、関与したとみられる数名の社員の実名が届いている。社内の仕入れ担当者や買い取り責任者が中心で、彼らは複数の手口で不正を働いており、中には中古車業界では伝統的な手口もあった。

・新車の一部を転売

ネクステージは中古車だけでなく新車も扱っており、多様なメーカーと取引している。代理店とのやり取りの中で、勝手に新車の一部を転売していた。

転売の売上金は、元社員を含む関与社員が新車受け入れのために作った会社に入金。関係者は「元手はゼロであり、1社あたり年間数千万円の大儲けとなる」と説明した。

・無料プレゼント用の品や買い取った車のパーツを転売

顧客に無料でプレゼントする1個数万円のカー用品をネットオークションで転売していた者もいたという。また、顧客から買い取った車に付いている高額なパーツや高級ホイール、タイヤなどを買取後にこっそり外してヤフーオークションやメルカリで売却していた。金目のパーツを勝手に転売するという手口は、中古車業界ではよく聞く話だ。

・業者オークションでの不正

中古車店と業者オークションは密接な関係があるが、中にはオークションでの不正な価格操作が行われる実態もある。ネクステージの場合も同様で、業者からのキックバックや相場の操作などが行われていた。期間限定で月数百万円の不正な利益を得ていたという情報もある。

ロレックスは「不正によって手に入れた」

今回取材した関係者が、こうした横領行為を見聞きしたのは7~8年前のこと。一部の社員はもっと前から手を染めていた可能性もある。

中心人物とされるある幹部社員は、7年ほど前から年収に見合わないロレックスなどの高級腕時計を「不正によって手に入れた」など周囲の人々に自慢していた。

また、別の社員は新車の軽自動車を「原価ゼロ」で買ったことを自慢していたという。「犯罪」という意識がないままに横領を繰り返していた可能性が否定できない。

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