韓国旅行でグーグルマップが「使えない」、その背景にある理由とは(CNN.co.jp)
(CNN) 台湾からの旅行者、エリック・ウェン氏は韓国を訪れる時、仕方なく三つの地図アプリを使い分けている。 【写真特集】韓国旅行で「使えない」グーグルマップ 世界各地で使える米グーグルの地図サービス「グーグルマップ」が、ここでは十分に機能しないからだ。ウェン氏のような旅行者は、韓国の地図アプリ「カカオマップ」や「ネイバーマップ」をダウンロードせざるを得ない。だがこうしたアプリには、グーグルでは当たり前とされる精密な機能が備わっていない。 それ以外の面をみると、韓国はハイテク通にも対応した旅行先だ。Gメールを含むグーグルのほかのサービスやユーチューブなど、外国のアプリも問題なく使える。 グーグルマップが十分に機能しない国としては、ほかに中国、ロシア、キューバなども挙げられるが、どこも長年、米国と対立関係にある。これに対して韓国は米軍が駐留する長年の同盟国で、アジアを代表する先進国のひとつだ。 問題の核心は、韓国政府が保有する地図データにある。グーグルはナビ機能付きの地図を作るのにこのデータが必要だと主張し、20年近く前から持ち出しの許可を求めてきた。韓国側は国家安全保障上の懸念を理由に断り続けている。 だが専門家らによれば、問題はもっと複雑だ。 数十年に及ぶ攻防はもともと地政学的緊張をめぐって始まり、その後さらに「デジタル主権」や市場競争の問題に発展した。つまり、「国家のデータをだれが管理するのか」「だれが利益を得て、どんな犠牲が出るのか」、そして「多国籍のハイテク大手が参入してきたら、国内企業はどうなるのか」という問題だ。 韓国当局では今、こうした問題が議論されている。韓国側は来月初めに、グーグルからの最新の要請を認めるか、退けるかの回答を出すことになっている。 ウェン氏のような旅行者は、グーグルマップが韓国で使える日がついに来れば「ずっと便利になるはずだ」と、期待を寄せている。
米ボストン大学のソユン・アン助教によれば、韓国とグーグルの攻防は2008年、グーグルマップが韓国内の一部の場所を日本名で表記したことから始まった。 韓国は1900年代前半、30年以上にわたって日本の統治下にあった。日韓の国交はその後正常化されたが、歴史問題などをめぐって緊張がたびたび再燃している。 韓国当局はグーグルに対して、地名の表記を変えるよう繰り返し要請した。グーグルはこれを拒否し、その後さらに何年間も、ほかの数カ所の地名表記をめぐる論争に巻き込まれた。 韓国は2010年代初めまでに、縮尺2万5000分の1の衛星地図を作成した。これはインターネット上で公開され、外国からも自由に閲覧できるようになった。 だが、グーグルは、より詳細な韓国の5000分の1の地図が必要だと主張している。このより詳細な地図は16年に公開されたもので、韓国の法律では政府の承認なしに海外のサーバーにエクスポートできない。グーグルによれば、現在は韓国企業の「Tマップ」が提供するこの5000分の1の地図のエクスポートが不要なバージョンを使用している。 アプリ上で韓国を見ると、都市の場所や道路、主要施設、鉄道などの基本的な地理情報が表示されている。 ただ、徒歩や車での詳しい道順は出てこない。経路を設定しようとしても、「その場所への経路が見つからないようです」というメッセージが表示されるだけだ。 グーグルは16年に、データの輸出に関する最初の正式な申請を提出した。 申請を受けて複数の公聴会や非公開会合が開かれ、激しい議論が交わされた末に、韓国側は要請をきっぱりと却下。グーグルが既存の衛星地図から、軍事上の機密情報を削除しなかったことを理由に挙げた。 グーグル側は先月初めのブログで、問題の地図に使われたのは同社以外の複数の企業が撮影し、開かれた市場で販売した衛星画像だと指摘。グーグルマップ上で韓国内の機密施設をぼかしたとしても、元の画像には残り、それをだれでも購入できると指摘した。 そのうえで、韓国政府の懸念に対応するため、グーグルマップとグーグルアース上で機密施設にぼかしを入れるなどのセキュリティー措置を講じると表明した。 しかし、高精度の地図データをグーグルに提供するべきかどうか、グーグルにはそもそもこのデータが必要なのかどうかをめぐる論争は、今も続いている。