効かぬブレーキ、沈黙する車載、足元の制約…それでも2位―ラッセルが魅せた“極限下でのスマートドライブ”
2025年F1世界選手権第4戦バーレーンGPで、メルセデスのジョージ・ラッセルは数々の制御系システム障害とタイヤ戦略上の制約という異例の困難に直面しながらも、マクラーレンのランド・ノリスを振り切り、見事に2位表彰台を獲得した。
DRS、ブレーキ、ダッシュ…続出するトラブルの中で
ラッセルのバーレーンGPは、マシンの制御系に次々と発生した不具合との戦いでもあった。トランスポンダー(位置送信装置)の故障を皮切りに、ダッシュボード機能の一部消失、DRSの自動作動不良、さらにはブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)の障害という深刻な状況に見舞われた。
「一番大きかったのはブレーキ・バイ・ワイヤの問題だった」とラッセルは語る。
BBWの不調により、ブレーキ操作のたびに手動でシステムをリセットしなければならなかった。これを怠るとMGU-Kによる回生トルクが発生せず、リア側の制動はディスクブレーキのみに依存する状態だった。この状況は単に制動力の低下にとどまらず、前後のブレーキバランスを大きく崩す要因にもなっていた。
「終盤は本当に大変だった。クルマのあちこちに問題があって、ステアリングホイール上の表示も消えて、ブレーキペダルもフェイルモードに入っていた。リセットを繰り返しながら走らなきゃならず、ある時はブレーキが効いて、次の瞬間には効かない、なんて状態だったから、チェッカーフラッグが見えた時はホッとしたよ」とラッセルは振り返る。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
決勝レース後のトップ3会見で笑顔を見せるジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年4月13日(日) F1バーレーンGP(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
レース中盤にセーフティーカーが導入されたことで、ラッセルは予定よりも早い2度目のピットストップを強いられた。
メルセデスは当初、ソフト→ミディアム→ソフトという2ストップ戦略を想定しており、残り周回数を考慮すれば本来はミディアムタイヤを投入したい状況であった。だが、使用可能なタイヤは予選で数周使用したソフトと新品のハードのみという状況だった。
最終的にメルセデスは、ラッセルにソフトタイヤを装着させるという「恐れを知らない」決断を下した。ハードを選択した場合、リスタート時に後続勢に対して不利な状況に置かれる可能性があったが、ラッセルにはソフトで走り切れる確固たる自信はなかった。
「本当にどうやって走り切れたのか、今でもよく分からない」とラッセルは語る。
「後ろにハードタイヤを履いたシャルル(ルクレール)がいる中で残り24周って表示されてて『マジかよ、これ本当に持つのか?』って思った。でも、チームが素晴らしい仕事をしてくれたし、最高の週末になったよ」
ラッセルにとって幸運だったのは、後続のルクレールが数周にわたり、そのさらに後方から迫っていた新品ミディアムタイヤのノリスを抑え込んだことだった。これがなければ、結果は大きく異なっていた可能性もある。
「あと1周長かったら、楽勝でランドに抜かれていたと思う」とラッセルは振り返っている。
真の勝負どころは残り6周、ノリスがルクレールを攻略してからだった。
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ランド・ノリス(マクラーレン)をリードするジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年4月13日(日) F1バーレーンGP決勝レース(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
仮にマシンの状態が万全であったとしても、ノリスを抑え込むのは決して容易ではなかった。マクラーレンは週末を通して他を圧倒するパフォーマンスを発揮していた。それでもラッセルは、冷静さを失わなかった。
システム障害による影響で、予備のボタンが無線機能とDRSの手動作動を兼ねることとなったため、誤ってDRSを作動させてしまう場面もあったが、アドバンテージを得たとしてペナルティを科されないよう、「1秒未満」でこれを解除し、同時にアクセルも緩めた。
また、トランスポンダーの不具合により、ラッセルのポジションがタイミングスクリーンに表示されず、チーム側もリアルタイムで正確な状況を把握できない中での戦略判断を強いられた。ラッセルへの後方支援は決して万全ではなかった。
それでもすべての困難を乗り越え、ラッセルはノリスの猛追を退け、2位でフィニッシュ。今季3度目となる表彰台に上がった。各方面から称賛の声が上がるのは当然だった。
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.
表彰台の上で声援に応える2位ジョージ・ラッセル(メルセデス)、優勝したオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、アンドレア・ステラ代表、3位のランド・ノリス(マクラーレン)、2025年4月13日(日) F1バーレーンGP決勝レース(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
こうした数々のトラブルを抱えた中での2位は、これまでで最も満足できる2位のひとつだったのか──。その問いに対し、ラッセルは次のように答えた。
「うん、というか、実際そんなに2位自体が多くないんだけどね。3位は何回かあるけど、今回は正直、ここまでやれるとは思ってなかった。ランドを抑えきれて本当に嬉しい」
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2位表彰台に上がるジョージ・ラッセル(メルセデス)、2025年4月13日(日) F1バーレーンGP決勝レース(バーレーン・インターナショナル・サーキット)
2025年F1第4戦バーレーンGPでは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が今季2勝目を上げ、2位にジョージ・ラッセル(メルセデス)、3位にランド・ノリス(マクラーレン)が続く結果となった。
ジェッダ市街地コースを舞台とする次戦サウジアラビアGPは、4月月18日のフリー走行1で幕を開ける。