オンライン講義を倍速視聴するとテストの成績に悪影響が及ぶ可能性があるとの研究結果

サイエンス

近年の若い世代にはオンラインの講義動画やポッドキャスト、オーディオブックなどを通常よりも速いスピードで視聴する習慣が根付いています。たとえば、アメリカのカリフォルニア州の学生を対象にした調査では、89%の学生がオンライン講義の再生速度を変更していたことが示されました。ところが、オンライン講義の再生速度とそれに基づくテストのパフォーマンスを調べた24件の研究を分析したメタアナリシスでは、オンライン講義動画の倍速視聴はパフォーマンスを低下させる可能性が示されました。

Increasing Video Lecture Playback Speed Can Impair Test Performance – a Meta-Analysis | Educational Psychology Review

https://link.springer.com/article/10.1007/s10648-025-10003-9

What happens to your brain when you watch videos online at faster speeds than normal https://theconversation.com/what-happens-to-your-brain-when-you-watch-videos-online-at-faster-speeds-than-normal-259930 講義動画に限らずオンラインで動画を高速視聴するメリットとしては、「同じ時間でより多くのコンテンツを視聴できる」「コンテンツを繰り返し視聴して楽しめる」「視聴終了までの時間を短縮して途中で集中力が切れるのを防ぐことができる」といったものが挙げられます。

今回の研究には関与していないロンドン大学クイーン・メアリーの認知科学者マーカス・ピアース氏は、「動画の高速視聴は特に教育の文脈において有用であり、知識の定着や模擬試験などに時間を割けるようになる可能性があります。また、素早く視聴することは集中力と気力を維持し、心が散漫になるのを防ぐ上でも役立ちます」と述べています。

しかし、動画の高速視聴は「記憶の形成」という面にデメリットを及ぼす可能性もあるとのこと。研究者らは人々が情報を記憶する3つの段階として、「1:符号化」「2:保持」「3:想起」があると考えています。音声情報の場合、符号化の段階では聞こえてくる音声を処理し、理解するのにある程度の時間を要します。記憶を活用するには重要な単語を抽出・保存し、必要な時に文脈を含んだ意味をリアルタイムで想起する必要があります。

一般的な人間は1分間に約150語を話しており、その速度が1分間に300語~450語に増加しても、まだ理解できる範囲内にあることが示されています。しかし問題は、これらの音声がしっかりと記憶され、必要な時に思い出せるかどうかという点です。

人間の脳に入ってくる情報はワーキングメモリとして一時的に保存され、長期記憶に転送できる形に整えられるといわれていますが、ワーキングメモリの容量には限界があります。そのため、あまりにも大量の情報が一度に入ってくるとワーキングメモリの上限を超えてしまい、認知的過負荷の増大や情報の喪失につながる可能性があるとピアース氏は指摘しています。

新たな研究ではこうした疑問に答えるため、講義ビデオの視聴による学習に関する24件の研究結果を分析しました。これらの実験のデザインはさまざまでしたが、ほとんどは一方のグループに通常の速度(1倍速)の講義動画を視聴してもらい、もう一方のグループにより速いスピード(1.25倍速、1.5倍速、2倍速、2.5倍速)で視聴してもらった上で、視聴後に講義動画の内容に関するテストを受けさせるというものでした。

研究結果をメタアナリシスした結果、講義動画の再生速度を上げるとテストのパフォーマンスが悪化することが示されました。1.5倍速までであればその影響は軽微でしたが、2倍速以上になると悪影響は中度よりも大きくなったとのことです。 たとえば、ある生徒集団の平均正答率が75%であり、その上下に20パーセントポイントの変動があった場合、再生速度が1.5倍速になると平均的な生徒の得点は2パーセントポイント低下しました。再生速度が2.5倍速に上がると、生徒の得点は平均で17パーセントポイントも低くなったと報告されています。

今回のメタアナリシスに含まれていたある研究では、61歳~94歳の高齢者は18歳~36歳の若年者と比較して、高速視聴による悪影響が大きいことが示されていました。これは、加齢に伴う記憶力の低下を反映している可能性があり、高齢者が記憶力の低下を補うためには、通常と同じ速度あるいは少し遅い速度での視聴が必要な可能性を示唆しています。 なお、「高速視聴を定期的に行っている人は脳が適応し、高速視聴による悪影響を軽減できる」という可能性もありますが、この点についてはまだわかっていません。 また、「動画の高速視聴が精神機能や脳活動に対して長期的な影響を及ぼすのか」という点も不明です。たとえば、高速視聴を続けることで認知的負荷の増大に対する適応力が育まれるなどプラスの影響が出る可能性もある一方、認知的負荷の増加によって精神的疲労が増すなどマイナスの影響が出る可能性もありますが、記事作成時点ではこの疑問に答える科学的根拠に乏しいとのこと。

最後にピアース氏は、1.5倍速での視聴が記憶やテストの結果に影響を与えていなくても、体験の楽しさが損なわれることを示す証拠があると指摘しています。「これは人々の学習意欲や体験に影響を与え、結果的に『やらない理由』を探すことにつながるかもしれません。一方で高速再生は人気を集めているため、人々がそれに慣れれば問題ないのかもしれません。今後数年で、これらのプロセスをよりよく理解できるようになることを願っています」とピアース氏は述べました。

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