中高年に多い帯状疱疹 発症すると周囲にうつす?…気をつけたい「播種性帯状疱疹」
帯状疱疹(ほうしん)は、中高年を中心に発症する人が増えているとみられています。この春からは、原則65歳を対象に、予防に有効なワクチンが公費助成のある定期接種となっています。ところで、帯状疱疹は発症すると、ウイルスを周囲に広げてしまうことがあるのでしょうか。藤沢市民病院(神奈川県)臨床検査科の診療科部長、清水博之さんに尋ねました。(聞き手・利根川昌紀) 【写真とグラフ】帯状疱疹、どんなふうにできる?
――そもそも、帯状疱疹とはどのような病気ですか。 体の左右どちらかに発疹が帯状に現れます。発疹が治まった後も、痛みだけが長い間残る「帯状疱疹後神経痛」に悩まされる人も少なくありません。 原因は、「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。子どもの頃にかかった水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスで、大人になってもずっと体内の神経に潜み続けています。加齢など、何らかの要因で免疫力が低下すると、体内でウイルスが増殖し、皮膚にまで到達して発疹が出現します。 ――帯状疱疹になると、潜んでいたウイルスの感染力は強まるのでしょうか。 水ぼうそうの発症時には、1人の患者から8~10人程度にうつす力があり、空気感染もします。インフルエンザや新型コロナウイルスは2~3人程度であることを考えると、非常に強い感染力があると言えます。 一方、帯状疱疹になった場合、確かに発疹の中にウイルスはありますが、水ぼうそうを発症した時と比べると、量は少ないです。発疹に触れない限り、他の人が感染することはほとんどありません。空気感染もしません。 ただし、抗がん剤やステロイドといった、免疫を抑える薬を投与するなどしていて、免疫力が著しく低下した状態であれば、ウイルスが増殖しやすくなります。「播種(はしゅ)性帯状疱疹」と呼ばれ、ウイルスを周囲の人にうつすほどに感染力は強まります。発疹も左右どちらかではなく、全身に出ます。
――水ぼうそうは大人でも発症することがあるのでしょうか。 水ぼうそうは、1回かかるか、ワクチンを2回以上接種すると、免疫力は生涯続くとされています。一度もかかったことがない、ワクチンも接種していないということであれば、大人でも水ぼうそうを発症します。 水ぼうそうの発症を防ぐ水痘ワクチンは、2014年10月に、公費助成の対象となる定期接種となりました。1~3歳の間に2回接種します。14年10月より前は、任意接種という形で実施されていましたので、ワクチンを打っていないという人は少なくないと思います。 定期接種の対象外の人は、ワクチンの費用を自己負担する必要があります。「だったら、感染してしまえばいいや」と考える人もいそうですが、まれにウイルスが、脳や、脳などを覆う髄液に入ることがあり、脳炎や髄膜炎を発症します。その場合、意識障害やけいれん、認知機能の低下、難聴といった重い症状が出る恐れがあります。 また、重篤というわけではありませんが、かゆくてかきむしった皮膚から病原体が入り、二次性の細菌感染症を起こすことは、しばしばみられます。 ――帯状疱疹や水ぼうそうにならないために心がけたいことは何でしょうか。 水痘ワクチンを接種したことがないという方は必ず2回、打ってほしいです。子どもの頃に接種したかどうか分からなければ、医療機関で抗体検査を受けてみるといいでしょう。十分に抗体があれば、すぐにワクチンを打たなくていいということになります。 帯状疱疹は、免疫力が低下すると発症するリスクが高まります。ストレスをためないようにしたり、十分に睡眠をとったりすることが大切です。25年4月からは、原則65歳を対象にワクチンが定期接種になりました。対象の人は、接種を検討してみてください。
2004年、京都府立医科大卒。東京医科大病院感染制御部、横浜市立大市民総合医療センター小児総合医療センターなどを経て現職。小児科専門医、感染症専門医、臨床検査専門医。