「我慢できず…」空きがなく、女子トイレを利用した男性 緊急でも犯罪になってしまう?
我慢できずに女子トイレを使ってしまったーー。 そうした相談が複数、弁護士ドットコムに寄せられています。 【画像】ド派手な通勤服で「ぶつかりおじさん被害ゼロ」に ある相談者は、飲み会の帰りに駅の男子トイレに入ろうとしたところ、個室しかなく使用中でした。近くにコンビニや公衆のトイレがなく、隣の女子トイレに駆け込んだといいます。 別の相談者からは「飲食店などで男性トイレが埋まっていた場合、やむを得ずに空いていた女性トイレを利用したら、逮捕されますか?」といった質問が寄せられています。 他にも、通勤途中で便意を我慢できずに開店前に商業施設に入って用を足した、という相談も。 このようにトイレが空いていなかったり急な腹痛を感じたりするなどして、異性のトイレを緊急的に利用することは犯罪になるのでしょうか? また、トイレを利用するために開店前や閉店後のスーパーや飲食店のトイレを無断利用することはどのような罪に問われるのでしょうか? 星野学弁護士に聞きました。
ーー我慢できずに異性のトイレを使用したら犯罪になりますか? 我慢できずに異性のトイレを使用した場合、住居侵入罪(刑法130条)になる可能性があります。 まず、住居侵入罪といいますが、同条は建造物も対象としているので、一般の家屋だけではなく店舗であっても、また、トイレという建物の一部であっても住居侵入罪の対象となります。 また、一般的に、建物の管理者が異性のトイレを使用することを許しているとは考えられませんので、異性のトイレを使用することは建物管理者の意思(または推定される意思)に反する行為であるとして、住居侵入罪が成立することになります。 でも、尿意・便意を我慢できずに異性のトイレを使用した場合には、トイレを使用する正当な理由があった、あるいは緊急避難で仕方がなかったんだ、と言いたくなりますね。 しかし、「我慢できなかったから」というだけでは、正当な理由があった、あるいは緊急避難だとして住居侵入罪が成立しない、という結論にはならないでしょう。 なぜなら、本当に尿意・便意が我慢できなかったのか、あるいはそれを口実として異性のトイレに入ったのかを判断することが難しいからです。 実際、異性のトイレを使用し、建物の管理者が警察に通報し臨場した警察官に対して「我慢ができなかったからです。」と言っても問題解決とはなりません。 異性のトイレを使用したことで逮捕され、また、起訴され裁判になったというケースも存在します。 この点について、トイレのケースではありませんが、裁判所が住居侵入罪の成立を否定した際、どのような理由で住居侵入罪の成立を否定したのかを確認してみましょう。 古いものですが、目的の正当性、手段の相当性、法益の権衡、軽微性を考慮して、実質的違法性又は可罰的違法性を否定したものがあります(岡山地判昭46.5.29、大阪地判昭50.5.27)。 また、比較的新しいものでは、ビラ投函の目的で敷地内に侵入した事案について、犯行に至る動機の正当性、立入の行為態様が相当性を逸脱していないこと、法益侵害の程度が軽微であること、ビラ投函は憲法21条1項の保障する経時的表現活動の一態様であることなどから、法秩序全体の見地から、刑事罰に処するに値する程度の違法は認められないとしたものがあります(東京地八王子支判平16.12.16。ただし、この判決は東京高裁により破棄されている)。 もっとも、これらの裁判所が示した基準は抽象的であり、我慢できずに異性のトイレを使用した場合に住居侵入罪が成立するかどうかは、裁判所の基準を参考にしつつ、具体的に検討する必要があると思います。 例えば、所持していたスマートフォンにそのトイレで盗撮した画像・動画が残っていた、カバンの中に汚物が入っていたというような場合には、幾ら「我慢できなかったので…」と言っても信用してもらえないでしょう。 このような場合には異性のトイレを使用する正当な理由がない、あるいは緊急避難は成立せず、住居侵入罪と評価されるはずです。 また、そのような事情がなくても、これまで何度も同じ行為を繰り返している場合には、やはり住居侵入罪と評価される可能性が大きいと思います(ただ、これだけで起訴され裁判となる可能性が大きいとは思えませんが)。 これに対して、そのような事情がない場合には、住居侵入罪の成立は否定される可能性が大きいでしょう。 住居侵入罪の成立を否定するため、尿意・便意を我慢できなかったことを積極的に証明する方法として、用を足したあとの尿・便を示すという方法も考えられますが現実的とは思えません(見たくもないですし)。