戸田恵子、『あんぱん』収録は“厳戒態勢” 台本にも名前なく「すべてが不思議な感じでした」
高知出身の代議士・薪鉄子を熱演
俳優で声優の戸田恵子がNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月〜土曜午前8時)で、高知出身の代議士・薪鉄子(まき・てつこ)を演じている。漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルにした本作に出演した心境とともに、長年にわたって親交のあった“恩人”やなせさんとの思い出を語った。
戸田が演じる薪は、ヒロイン・のぶ(今田美桜)が高知新報時代に出会う高知出身の代議士。のぶ以上のスピード感で進んでいくハチキン(土佐ことばで、快活な女性)で、「弱い立場の者に手を差し伸べる」という強い信念があり、のぶの人生に大きな影響を与えていくことになる人物だ。
本作への出演オファーに「純粋にうれしく思いました」と当時の心境を明かし、「やりがいのある非常に頼もしい役をいただけた」と感謝する。
薪が本格的に登場したのは第75回。ガード下の元締めたちを相手に麻雀対決する様子が描かれた。劇中の土佐ことばは「ちゅう」「にゃー」「きー」など独特の語尾が多い一方で、この場面では薪が「なめたらいかんぜよ!」と一喝した。
この場面について「『ぜよ』はあまり使わない方針だったそうですが、釜次と薪先生のセリフには使いたいと聞いていました」と明かした上で、「まさか麻雀シーンで使われるとは思わなくて(笑)。最初は慣れ親しんだ感じで言ってみたんですけど、監督から『ガツンと言ってほしい』とのことで、ガツンと力強く言ってみました。大変光栄でした」と振り返った。
出演前から本作について取材を受け、視聴者としても物語に魅了されていたという戸田。作中には、詩人としての顔も持つやなせさんの言葉を思わせるセリフも随所に登場する。「やなせ先生の名言を散りばめていらっしゃることに非常に感銘を受けました。もちろんフィクションになっている部分もあるんですけど、『明日が楽しみ』と思える展開で素晴らしいなとずっと見ています。視聴者としては『早く明日にならないかな』と、放送のない週末がつまらなく感じるくらい楽しませていただいております」と中園ミホ氏が手掛ける脚本を絶賛した。
そんな戸田といえば、日本テレビ系アニメ『それいけ!アンパンマン』で1988年の番組開始以来、今もアンパンマンの声優を務めている。注目を集める本作への出演。公式発表までは“厳戒態勢”だったようで、「不思議な感じで撮影をやらせていただきました」と収録を振り返った。
「台本には役名『薪鉄子』とは載っていましたが、役者名『戸田恵子』は最後まで載りませんでしたので、私も不安になりました(笑)。スタジオのモニターには収録中の映像が出ていなくて、現場でも私の名前がありませんでした。私も言わないようにしなくちゃと思いまして、ブログを書いているんですけど、それにも載せないように気を付けていました。撮影が全部終わった後に出演が発表されたので、すべてが不思議な感じでした」
“逆転しない正義”とは「ひもじい人に手を差し伸べること」
また、やなせさんと長年にわたって親交を深めていたとあって、やなせさんをモデルにした柳井嵩を北村匠海が演じると知った際には「いい男になったな、と思いました(笑)。やなせ先生も天国で驚いていると思います」と顔をほころばせる。「やなせ先生の身内感覚で言うと、北村さんが先生のナイーブな感じをすごく上手に表現されていて、とても奥ゆかしいです。お顔の輪郭は全然違うんですけど、雰囲気がピッタリだなと思います。それは北村さんの演技力だと思います」と称賛した。
本作では、のぶと嵩が苦難に直面しても夢を忘れず荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでの愛と勇気の物語が描かれる。そんな“逆転しない正義”につながる、印象的な描写についても次のように語った。
「戦争中のひもじさを描いた、(嵩たちが戦地で)ゆで卵を殻ごと食べてしまうシーンが衝撃的でした。やなせ先生にとって一番の揺るがない正義は『ひもじい人に手を差し伸べること』だとおっしゃっていました。だから『アンパンマン』が出来上がることになったと思うんですけど、戦争を体験した先生だからこそ描けることだと改めて思いました」
やなせさんとの思い出について聞かれると「印象的なことはものすごくいっぱいあるんですよね」としみじみ。2013年10月に亡くなった際には「とてつもない喪失感がありました。師としてずっと尊敬して、仰いできた先生でしたから」と声を落とす。
数え切れない思い出の中でも、今も支えになっている言葉がある。第5週のタイトルにもなった「人生は喜ばせごっこ」だ。
「私が迷ったり困ったり、壁にぶつかった時には、やなせ先生から『戸田さん、人が喜ぶことをやりなさい』と声をかけてもらっていました。それが派生して『人生は喜ばせごっこ』につながるんですけど、寄り添うとか、尽くすとか、些細な声かけとか、誰かが喜ぶことをやるべきだというのは常に心がけるようにしています」
通る声でハキハキと話す戸田に、正義あふれる役柄が重なって見えた。ENCOUNT編集部