ブレイキン・SHIGEKIXが語る「五輪後」…取材メディア減少、「裏切られた気持ち」を問うと返ってきた「らしい」答え
ブレイキン(ブレイクダンス)にとって、最初で最後の五輪が終わって半年。大きな注目を集めた半井重幸(ダンサー名・SHIGEKIX)は今、何をしているのだろうか。東京のクラブで行われたイベントに出演した彼を直撃してみた。(デジタル編集部 古和康行)
さま変わりしたブレイキンの「環境」
3月上旬。東京都江東区のクラブで開催されたイベントに半井の姿があった。この日、行われたのは今年11月9日に東京・両国国技館で予定されている世界最高峰のブレイキンの大会「Red Bull BC One」のキックオフイベントだ。五輪前ならテレビ、新聞など多くの報道陣が半井のコメントを一言でも多く集めようと駆けつけてきただろう。だが、この日はテレビと新聞が1社ずつ。それに、フリーランスのライターがちらほらいただけ。広くないメディアルームだったが、席が余っていた。
取材に応じる半井。じょう舌にブレイキンの現在について語る(3月上旬、東京都江東区で)自戒も込めて、聞いてみる。「メディアに裏切られた気持ちはないか?」。すると、3月11日で23歳になった半井は笑みを浮かべてこんなことを言った。「たしかに、メディアが少なくなったというのは目で見て分かる瞬間がある」。それでも、言う。「(裏切られたという気持ちは)全然ない。むしろ、これまで取り上げてくださったことにすごく感謝している。今もなお、取材していただける方々に対しては……。より一層うれしいなって気持ちです」
五輪後のSHIGEKIX
「アフター五輪」も半井は忙しかった。
イベントに出演した半井。パフォーマンス中は他のダンサーと共に笑顔をはじけさせた(3月上旬、東京都江東区で)パリ五輪が終わった直後、ダンスのプロリーグ・Dリーグの「コーセー・エイトロックス」に加入し、ステージをこなす日々。大会への出場も精力的に行い、2月15、16日に行われた全日本選手権では優勝を果たしている。合間を縫って全国の小学校を飛び回ってブレイキンの魅力を伝える活動も続けている。
そんな毎日に「五輪を戦っている自分の姿を見て、ブレイキンを知った子どもたちも多い。リアルに会うことで、子どもたちが“なにか”を得られるんじゃないかと思って活動しています」と充実した表情を浮かべる。
スマホ越しの半井のダンス(3月上旬、東京都江東区で)半井にとって、今年の大会出場のハイライトになりそうなのは、「Red Bull BC One」だ。2004年から始まったこの大会は、世界の一流ダンサーを招き、米国やブラジルなど世界25か国で行われる予選を勝ち上がったダンサーらが競うもの。世界最高峰の大会の一つとして位置づけられ、半井本人も「今年、誰が一番イケてて、強いのか。最強を決める頂上決戦」と評する。今年の大会には男女各16人が出場する予定だ。
ブレイキンのスポーツ化に「賛否はあったが」
五輪後のブレイキンシーンを半井はどう見ているのだろうか。
イベントでダンスを披露する半井(3月上旬、東京都江東区で)1970年代初頭のアメリカで街のギャングの抗争をダンスで収めようとしたのが、ブレイキンの始まりだ。ダンス自体も、ダンサーも「ストリートカルチャー」そのものだが、国際オリンピック委員会(IOC)が若者人気を取り込もうとして、五輪競技に採用された。半井も「シーンの中でも賛否はあった。自分たちの好きなブレイキンが、ブレイキンじゃなくなるんじゃないかという不安を持つ人もいた」と振り返る。ただ、そんな不安は理解したうえで、トップランナーとして積極的にメディアに登場し、世間に伝えてきたのもまた、半井だった。
イベントのダンスバトル中には相手陣営を挑発するような動きも見せた(3月上旬、東京都江東区で)そして、今でも「五輪の競技になったことはシーンにとってありがたいことだった。子どもがブレイキンを始めたいと思ったときに、どこで学べばいいのかというのも五輪をきっかけに広まった」と口にする。
スポーツ化されて、あっさり1大会で正式競技から外されてしまった。競技として日本一を決める全日本選手権も、2月に行われた今年の大会には、五輪金メダリストの湯浅亜実(ダンサー名・AMI)は出場しなかった。
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そうした現状についてたずねると「やめてくださいよ! 変な見出しになりそうじゃないですか!」と笑う半井。それでも、「音楽と同じで賞を取りたいのか、トップヒットを出したいのか。熱いファンが欲しいのか、自分の表現だけを追求したいのか……。売れたい人もいれば、表現したい人もいる。ブレイキンも同じで、それぞれが大切にしたいものを突き詰めればいい」と語った。シーンを語るときの半井は穏やかで、常に未来を考え、実にポジティブだ。
インタビュー「中止」の知らせの後で
「もう大丈夫です。ちょっと働きすぎたかな」
この日のイベント出演後、半井は気丈に笑った。
ワイルドカード枠を自ら発表する半井。この直後、会場からは大きな歓声が沸いた(3月上旬、東京都江東区で)実は、インタビューは半井のイベント出番前に行われた。そして、出番後にインタビューの「続き」が予定されていた。というのも、イベントで「Red Bull BC One」へのワイルドカード枠での半井の出場決定をサプライズで発表する、という計画を立てていて、大会出場が決まった感想をインタビュー後半で改めて話す――というのが、イベント主催者側の筋書きだったのだ。
だが、出演後に急きょ、「後半のインタビューは中止」と告げられた。前半の取材中には、おくびにも出さなかったが、この日の半井は体調不良で、出演直後には 嘔吐(おうと) してしまうほどの体調だったというのだ。取材陣も当然、理解を示した。
そんな中、運営側の担当者が「二転三転して恐縮ですが……」と記者の元に近づいてきた。半井が、体調不良を押して、取材に応じるというのだ。