トランプ関税巡る違法判断、米国の貿易相手に「混乱」
トランプ米大統領による世界的な関税措置を巡り、法廷闘争が激化している。国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動されたこれらの関税が違法であると、連邦高裁が判断したことで、世界貿易の混乱がさらに深まっている。
連邦高裁が賛成7、反対4で下した29日の判断は、原告の中小企業グループおよび民主党主導の州、被告のトランプ政権の双方に自分たちの立場が一部認められたと主張する材料を与えた。ただ、トランプ氏にとって大きな打撃となったのは確かだ。
多数意見では、IEEPAを根拠とする関税措置が違法であるとした国際貿易裁判所の5月の判断を支持した。しかし、連邦高裁判事はトランプ氏の要請に応じて訴訟が進行する間も関税の効力を維持する判断を下すとともに、仮差し止め命令が出されるとしても、それは原告のみに限定される可能性があることを示唆した。
この訴訟が今後どのように展開するかは不透明だ。トランプ政権は今回の判決を速やかに連邦最高裁に上訴する可能性がある一方、国際貿易裁判所に差し戻して関税に対する差し止め命令の範囲を狭めるよう求める可能性もある。
米通商代表部(USTR)次席代表を務め、現在はアジア・ソサエティー政策研究所上級副所長のウェンディ・カトラー氏は、「貿易相手国・地域はぼうぜんとし混乱しているだろう」とリンクトインに投稿。「多くの国・地域が米国と枠組み合意を結び、幾つかの貿易相手とは引き続き交渉中だ」と指摘した。
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連邦高裁は、トランプ氏がIEEPAに基づいて関税を発動したことについて、同法はそのような形で用いられることを想定していなかったと結論づけ、この法律には関税や「その同義語は一切」言及がない点を指摘した。
関税訴訟の当事者の1人であるニューヨーク州のジェームズ司法長官は、「裁判所は再び、大統領が多額の関税を正当化するために、架空の経済的緊急事態をでっち上げることは許されないと判断した」との声明を発表。「これらの関税は米国民への課税であり、全米の勤労家庭や企業のコストを引き上げ、インフレ高進と雇用喪失を招いている」とコメントした。
29日の判断が下される数時間前、ベッセント財務長官らトランプ政権の閣僚は連邦高裁に対し、大統領による関税が無効とされれば、米国の外交政策に深刻な損害をもたらすと主張。高裁判断を受け、トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、これらの関税が撤廃されれば、「国にとって完全な大惨事になる」と投稿した。
カトラー氏は、貿易合意に関する政権の懸念が現実のものになりつつある可能性を示唆。同氏は投稿で、50%の高関税を課されたインドは「喜んでいるだろう」とし、中国を巡っては「現在進行中の交渉での譲歩について、自国のスタンスを精査しているものと考えられる」との見解を示した。
その上で、欧州連合(EU)による米国との貿易合意について、加盟各国の承認確保の取り組みに疑問の声が上がるかもしれないと論評。また、「日本と韓国の場合、書面にほとんど明記されていない口頭での合意と見受けられ、米国の法的立場がより明確になるまで、現在の取り組みを引き延ばすことを選ぶ可能性がある。一方、自動車関税の引き下げについては引き続き強く求めてくるだろう」と指摘した。
原題:US Trading Partners ‘Dazed and Confused’ After Tariff Court Loss(抜粋)